フィナーレに湯へ浸かる
型を作り、溶かした鉄を流し込んで、固めて、やわらかいうちに好きな模様を描いて、冷やす。
冷やしたら表面をゴシゴシと磨いて、完成。
思っていたよりも難しくはなかった。
モアも難なく、楽しそうに作っていたから、ユノーさんの教え方が上手いのだと思う。
「ふんふん!」
ユノーさんが「こ、こんなにもらっちまうのは」と恐縮するほどの金(俺が見たことのない柄の紙幣だった。このクライデ大陸で流通している紙幣なんだろう。なんでモアが持っているのかは知らない)を「おつりはいらないぞ!」と押し付けて、モアはご機嫌だ。
製鉄所を出てきた俺たちは、同じ都市にある温泉宿に来ている。
ベランダに家族風呂が付いているから、好きな時に入れるようなシステムになっているようだ。
「日没までに帰るんじゃなかったっけ?」
和室に、掘りごたつと座椅子のシンプルな構成。
「そうだぞ!」
つまり、一晩泊まるわけじゃあないらしい。
なんだかもったいない。
「さっき聞きそびれちゃったけど、その、日没までっていうのは誰との約束なの?」
なんだか誤解されちゃったからな。
モアは座椅子に座ると、神妙な面持ちで話し始めた。
「我が過去に一度、クライデ大陸を侵略しようとした時、当時の住民には抵抗されてな」
「宇宙人が領土を侵略しに来たら大体の住民は抵抗すると思うよ」
「多勢に無勢、我は一網打尽にされて、その一部がフェネクスという男の手で瓶に詰められた。これを『フラスコの中の小人』と呼んでいるとかいないとか」
「それって何年前の話?」
「現在はアスタロトの手元に『小人』があって、我は瓶の中から交渉し、今回の旅が実現したのだぞ!」
要約すると、クライデ大陸を侵略しにきたモアは返り討ちにあって捕まり、その捕まったモアがアスタロトって人と交渉して、ってことだからアスタロトって人との約束、なのかな。
モアの実際の年齢はいつになっても答えてもらえないから、何年前の話なのかっていうツッコミがスルーされたのはまあ、しょうがない。本人も覚えてないのかもしれないし。なんてったって宇宙の果てからやってきた侵略者だ。人間の常識で推し量ろうとしてはいけない。
ところで、モアって何人かいるの?
「よし! 風呂に入るぞ!」
「風呂に?」
「入らないのか?」
そりゃあ、まあ、制限時間があるって聞かされているわけだし、せっかく風呂が付いているんなら入りたいな?
いつしたのか知らないけど俺とモアは結婚しているらしいし? 一緒に入っても? 何の問題もないわけで?
「結婚したからといってその、そういうことはまだ早いと思うぞ!」
「そうなの?」
「一緒に入るだけだぞ! 他には何もなし!」
「他にはってたとえば?」
そっちから抱きつくのはありでもこっちからはなし、ってこと?
触ったりとか揉んだりとか、そういうのもなし?
「他のは、その、時期尚早だぞ!」
「そんなことないと思うけど」
「機が熟したら、頃合いを見計らって!」
「えぇ……」
めちゃくちゃガード固いなこの侵略者。前から思ってたけど。前世の俺からひどい目に遭わされたからといって今世の俺が同じ轍を踏むとは言えないじゃん。うまくやるよ。
「とにかく! 時間がないから入るぞ!」
――と、こうして特に進展もなく(裸を見られるのも嫌らしく、俺は目隠しをされて湯に浸けられた。これが旦那の扱いなの?)お風呂シーンは終わり、お土産の模造刀を買って、クライデ大陸の旅が終わるのだった。
ニシノドコマデモ 秋乃晃 @EM_Akino
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