第3話 みこ山
みーちゃんを語る時に人は言葉を持たない。有限の事象に無限のことを語ることなどできない。格別な色を三つに区分することもできないし、柔らかいその実に長くも短くもないちょうどいい毛並みの感触に喩えられる充実感はない。
名前をつけた時みーちゃんは自らみー、と語ったし、自ら世話係として人間を選んだ。初めて人間にその姿を見させた時でさえ他の猫の上を悠々と歩き生後直後ですら人を感服させた。
みーちゃんは朝に現れ己が望むままに人間の寝る布団を横断し、上に載るか中に入るか選びたまう。
人に歓喜を与えたのちに時間の神秘がもたらす柔らかい毛並みに触れさせ人間をして永遠を願わせたまう。愛らしき声でぐるぐる寝言を仰り、もし、もしみーちゃんがこの不完全な世界から旅立つのなら、そう、みーちゃんが唯一の完璧さでやっと調和を与えていたこの場所から旅立つのなら?と問いを与え、そして愚かな人間に束の間の休息を与える。
人がもし何か完璧なものを所持してたら?それ以上選ぶ必要もなくただ与えられるものだけで満たされてしまうものを持ったら?束の間だけでもそれを享受するしかないと信じさせる。言葉は無意味、この一瞬を永遠に止めるのは、ただ感じればいい。もう世界はここにあるのだから。
猫が山のようだ あまるん @Amarain
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