相棒はドロイドのポチ
ポチの背中にはそこそこの量のサンプルを運搬するためのボックスがある。
通常のドロイドにはない機能のひとつだ
最近になって冷蔵できるように改造した
夏場はサンプルが痛んでしまうこともあるので許可を取ってドロイドメーカーにサイズを指定して今までのボックスと入れ替えをしたのだ
ふわふわの毛並みの首もとに小さなツマミが着いていてそれを引き上げるとポチのボディの二割ほどの容量の冷蔵ボックスがぽっかりと口を開ける
除染ゲートを通るときに一度開けて大まかにより分けた後なので使い捨ての簡易なグローブだけを穿いてトレイに中のサンプルを取り出していく
何故か毎回ギルドに戻って仕分けを始めるとギルドの管理ドロイドのシータが寄ってきて覗き込んで首をかしげる
植物サンプル専門の探索者が少ないからか他に戻ってきているヒトがいても大体は僕のところに来るので
「狭山所長にこのデータチップを届けてくれる?」
と聞いてみる
「いいよーとどけるよー」
と快諾
シータは服を着たテナガザルの姿
発話機能をアップグレードしてあるらしく聞きやすい声で返事をする
そっと長い腕をこちらに伸ばしたのであらかじめ用意していた箱に納めて渡すと
「うけたまわりー」
といって両手を上げてバランスを取りつつ勢い良く走り去っていった
今回の探索はそこそこ良さそうな収穫があった
先日発見された最終戦争以前の農業資料館の遺跡が今回の探索場所で、解体担当のパワードスーツの先導に道を開いてもらいながら生い茂った植物を掻き分けて壁の裂け目を通り抜けると少し広く空いた、かつての試料展示エリアだろう場所にたどり着いた
幾つかの壁の残骸を乗り越えて入った室内では割れた種子瓶が散乱していた
そこで発芽しては種をこぼして繋がっていたであろう植物のサンプルを採取できたのだ
どうやら災害の度に地面が液状化して1メートルほど地盤が沈下し土砂が流入していたらしい。元々場所は分かっていたが災害で荒れた周辺に環境に合わせて生き残るために変異した草木が覆い隠していたためになかなか近づけなかった遺跡のひとつで複数のギルドの植物が得意な探索者を募っての政府主導の共同探査だった
ポチを撫でながら取り出したサンプルを細かく仕分けする
一種類のまだ生きていそうな植物体と何種類かの種と枯葉と根を入手していた。
有用なサンプルでありますようにと祈りながら
今回特に気になっているサンプルを丁寧に紙に包む
ハヤトの職場に採取場所のデータと共に届ければ今日の僕のお仕事はおしまいだ。
ポチの背中をもとに戻して
「行こうか?」
「ハヤトノトコ?」
「そうだよ」
「オシゴト?」
「その後はおうちに帰るから遊べるよ?」
「サッサトイコウ」
お座りの姿勢からスックと立ち上がったグレートピレニーズ型ドロイドの頭を撫でて今日のこの後の予定をたてる
僕の仕事は時間が厳密には決まっていないので余った時間をうまくやりくりすれば昼寝もできるのがとても良い
今日も探索が早朝に始まった分、現在の時間は正午になったばかりでハヤトの休憩時間が始まる時分には到着できそうだ
連絡用の簡易端末を起動
ランチ一緒に食べれそう?
とだけ打ち込んで送信
直ぐに短い着信音が鳴る
一階のカフェテリアで待ってる
相変わらずハヤトは返事が早い
「ポチ、ハヤトとカフェテリアでご飯だよ!」
「オサカナノエナジーパックガイイ」
「わかった。買ってあげよう」
ドロイドのエネルギー補給は口の中にある端子からで、動物型のドロイドには味覚設定を付加すれば味的な要素のデータをのせたパックを与えることもできる
後10分くらいで着くよ
とハヤトに返信をしてポチに便宜的に着けている首輪から繋がるリードを軽く揺らした
ポチのボディは二代目だけど僕にとっては子供の頃からの相棒で最初は大人の大きさのヒト型だった。
僕の仕事に合わせて姿を犬に変えてデータを移してずっと一緒にいるが、名前は変えていない
一般のヒトはスクールの卒業に合わせてドロイドを支給されるのでちょっと特殊な生い立ちに当てはまるんだろうなぁとポチの頭を撫でながらハヤトの待つラボへと向かった
繭 かたつむり @katatimuri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。繭の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます