かたつむり

結婚したよ

多分ずっと前に本当の意味での人類は滅んでいた

僕たちヒトはMOTHERと呼ばれる人工繁殖槽から産み出され両の親が望まなければ施設で名前だけを与えられて育つ

僕、そして彼も施設育ちだ

僕たちは今日婚姻を宣誓して新しい生活を始める

宣誓書は子供の養育をするかしないか

同居をするかしないか

婚外子を許可するかどうかなどの人口増加プログラムの選択を必須にしている

僕たちは何度も話し合って

生まれた子供の養育は無し

婚外子は不許可

を選択して最低ラインの【人口を減らさない】というところだけを満たす事にした

人類は五百年ほど前の世界的な戦争に疫病などが重なった結果、ほぼ絶滅と言わざるを得ないほどにその数を減らした

その僅かな生き残りのヒトには共通した遺伝子の変質があることがわかっている

所謂ミュータントだけが生き残ったのだ

そしてその生き残りの僕らの代々の親たちもそれまでの繁殖システムである男女のカップルが結婚して交わって妊娠して出産して人が増えるという本来の能力を失って子供が生まれてこない時期が30年ほどあったらしい

これは歴史と生物と社会科の講義で子供の頃から何度も教育されるから知らないヒト等いない話だ

数千年続いた人類は人工受精でしか生まれられなくなった。

それと同じくして胎生の生物はヒト以外は一度完全に絶滅している

卵生の生物は環境の悪化に伴って変質はしたもののかつての種もそこそこ存続しているのだから不思議だ

ヒトの生活環境として整え管理された居住区に居ればほぼ出会わないがその『外』に出れば豊かに栄えた植物と巨大化した魚類をはじめ様々な鳥や虫等の栄えている大自然が迎えてくれる

とてもワイルドでうっかりすると死にそうになるので『外』に出るのは専門の教育を受けて許可を取ったヒトが専用の防護服と個人に対応したサポートドロイドを伴うことを最低条件としている


僕の仕事は『外』の植物資料の採集

パートナーのハヤトは植物研究所の再生プログラムのチームを纏める研究者だ

出会いは納品のために訪れた研究所の談話室で新しい果樹の実と枝葉の組織を届け、ドロイドの記録画像から生育環境などの採集データをいつもの担当者の女性に渡している時に飛び込んできた白衣の、研究者にしてはガタイの良い青年に手を握りしめられながら

「ありがとう」

と何度も繰り返されたあの日だ

びっくりして固まってる僕を見て、

「リーダー、カズマさん困ってます」

と彼女がが苦笑してハヤトの手をぽんぽん叩いて落ち着かせてくれたのを良く覚えている


そのあとから僕の納品は彼が直接受けとりたいと申し出て来て色々やり取りをするうちにプライベートでも食事やら何やらを共にするようになり五年ほど一緒に過ごして今日の婚姻の届け出を決めた

現在のヒトの繁殖システムであるMOTHERシステムは男女のカップルは勿論、同性同士のカップルでも遺伝的に間違いなく二人の子供が生まれてくる

だから婚姻の性別による制限は撤廃された

妊娠と出産に関わる身体機能を失った女性の身体能力は向上し、男性と遜色なくなっていて、その分15歳になると体力測定と人間ドック的な検査と知能の発達調査を含む適性診断が行われて大まかに三つのタイプに分けられるそして各々に合った職業を案内される

勿論希望を出せばどの仕事に就くことも制限はされないし

仕事選んで頑張ってみたけどやっぱり無理!

となれば別の仕事を探すこともできる

食料は配給されるし住む場所も仕事や日頃の行いを評価されるシステムで評価に合った住まいを用意される

そして総合的に判断された個人の資質でポイントを付与されるのでそれを注ぎ込んで趣味を充実させたり配給食以外の嗜好品を求めることも可能になっている


僕ら二人は新しい住居の抽選に通ってポイントを納めてグレードアップされた家を獲得した

庭付きである

僕の、あまり使い道がなくてそこそこ貯まっていたポイントとハヤトが受け取って使いきれていなかった褒章ポイントが合わせると庭付きの住居を得られる位になったのでせっかくだからと、たまたま空きの出たゆとりある住居の抽選の申込みをしたのだ


これで庭にハヤトが復元した野菜のプランターガーデンを誂えて僕の好物のイチジクの木を植えることができる

勿論栽培許可は家の当選に伴って取得済みだ


一般の生活居住区は大昔の戦争の爪痕が残る地上を地下から組み上げて覆った壁とエネルギーシールドのドームの中に作られ放射性物質を除去したあとに浄化した土地を用意して作られた過去の関東平野と呼ばれた地域にある。

地下居住区の跡地とそこから伸ばした地下通路の先の一般居住区の五倍の面積を誇る農耕開拓ドームと地下工業区は各々の職種の従事者の生活環境を整えつつ高速輸送装置で一般居住区と繋げられていて移動時間はそんなにかからない


僕は普段の仕事では一般居住区のドーム外を探索する探索ギルドに所属している

外周探索許可を得ると大体はギルドに所属して大きなプロジェクトが立ち上がればそれをチームを組んで探索するので顔見知りの多い方がなにかと便利だ。

ついでに探索型ドロイドの人工知能の学習のためにデータを交換で記憶させたりするのもギルドに所属すれば容易で仕事の幅も拡がる


「カズマ、ジカンダヨ ハヤト マッテル」

「ありがとうポチ」

すっかり片付けに没頭してた

ドロイドのポチは大型犬の姿をしている

表皮はふさふさでグレートピレニーズの姿のボディをユサユサと揺すり

ナデテ

と寄ってくる

個人の部屋を持つようになると誰にでも支給されるドロイドは希望すれば絶滅した哺乳類の姿に似せたボディをさせられるので考えに考えてこの姿を選んだ

ちなみに探索にも出られるボディを最初から選んだのでこの子が僕のずっとの相棒である。

居住区をでないヒトはドロイドを自宅において仕事に出るので愛玩しつつ家事のサポートをこなすのが一般的な支給ドロイドで、その分家事機能が充実してしていたりする。

ハヤトは何故かロボロボしいメカニカルなヒト型のドロイドにタマと名付けて可愛がっている

そしてタマは何故か僕を良く構うのでハヤトが焼いて放置してた焼き菓子などをお茶と一緒に運んできたりするのはタマの独断らしい


こんな僕らの生活は今日から新たに始まるのでとりあえずハヤトが呼んでいるリビングへと向かった。

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