第13話 ごめんね



 俺達はボロボロになりながら洞窟を出た。 アルネに至っては重症だったので、俺は彼女の肩を支えて歩いた。


「ごめんね、ヒイロ。ごめん。追放なんかしちゃって……」

「全部わかってるって言っただろ。今はしゃべるな。俺のヒールは不器用なんだ」


 俺のヒールは蘇生レベルの力を持っているが、出力は不安定で細かい回復ができない。


 アルネの身体の傷はすべて回復したが、疲労までは回復できなかった。

 ミァハもまた魔力切れを起こしている。


「私の魔力が戻ればいーんだけどなぁ」


 本物の僧侶もまたヒールを連発しすぎたせいで、『他人を回復すればミァハが倒れる』状態になっていた。

 アルネはしばらく俺の肩を借りていたが、洞窟を出たあたりで申し訳なく思ったの

か、


「自分で、歩けるわ」


 俺から離れ、立ち上がろうとする。


「きゃん!」


 すぐに膝から崩れ落ちてしまった。赤いポニーテールが夕焼けに揺れる。


「いわんこっちゃない」

「ちょっと……。変なとこ触らないで。ひゃっ!」


 俺はアルネの鎧を脱がせる。


「ウェンディ。アルネを持てるか? 俺は鎧を」

「おいおいヒイロ。空気を読めよ」

「……読んでいるつもりだ。アルネが触らないでというから」

「ったく。お前らは本当にしょうがねーなぁ。つか、あーしはアルネなんか重くて持てねーから。ふたりで支え合ってろ」

「なっ! ウェンディ、あんた! 重いって何よ!」


 ウェンディはアルネをみて、不敵に微笑む。ギャルの意図を俺は察する。


「すべて理解した」

「お、ヒイロ。あんたもとうとう男に」

「アルネは俺に、『重くないぞ』と言って欲しいんだな」

「朴念仁がよぉ! まぁ今はそれでいいや」


 何故かウェンディに肩を叩かれる。

 ウェンディがアルネの鎧を持ち、俺はアルネをお姫様抱っこした。


「なっ、なななな!」

「軽いぞアルネ」

「うっさいわよぉ……」


 アルネは顔を赤くして、俺に身を委ねた。

 彼女は鎧を取れば、普通の女の子だった。 俺の重力強化魔法に最も適応していることから勇者としての攻撃力は圧倒的だが、アルネは実はそこまでタフネスではない。


 ウェンディは熾烈な闘いでも耐えられるが、同じ前衛でもアルネは脆いところがあるのだ。 俺が来るまでの間、ウェンディと共に壁役をこなしていたのだろう。


「もう絶対、あんたのこと追放しないからね。絶対放さないからね……♡」


 アルネは俺の胸で丸くなって眠ってしまう。


「すぅ……♡」

「少し、重いな」


 ウェンディ、ミァハと顔を合わせ微笑む。


「なあヒイロ。あーしらもアルネと同じだぜ。お前を救うためとはいえひどいことを言った。追放なんて……。改めて、済まなかった!」


 ウェンディが向き直り、頭を下げる。

 ミァハもまたぺこりと謝ってきた。


「私も、ごめんなさい! 実はちょっと悪乗りもありました。ってへ♪」


 追放されたときの言葉尻はもうどうでもよかった。本心を打ち明けてくれたことが嬉しかった。


「いいんだよ、お前ら。俺を逃がそうとしていたんだろう」


 ウェンディが生真面目に解説をくれる。


「わかっちまうか。お前はこういうことは察しがいいもんな」

「事実を確かめたい。教えてくれ」

「ああ。あーしらはあんたを追放という名目でリンゴブルム魔導学園に編入学させた。これはヌーメロン教会からヒイロの死刑が言い渡されたからだ」

「やはりヌーメロン教会か」

「ヌーメロン国では死刑になっても、越境していれば少しは時間が稼げる。あーしらはあんたを追放しつつ、バハルドレイクを撃破し恩赦を得ようと思ったんだ」


 やはり俺の見立ての通りだったようだ。

 ウェンディの横ではミァハがぼそりと


「私たち追放っていいながら♡ついてたから。ダダ漏れだったんじゃないかぁ」


 僧侶だけは自覚があるようだった。


「俺達は今こうして四人でいる。バハルドレイクも倒した。だが俺がここに来れたのは、ユウハのおかげでもあるんだ」


 俺は背後を歩くニンジャ、ユウハに向き直る。


「ユウハもありがとう。全部丸く収まったのはお前の情報のおかげだ。恥ずかしがってないで出てこいよ」


『て、照れるっすよ!』


 ユウハの姿は見えない。隠密しているのだろう。

 声だけが耳元で帰ってきた。


『私は、感動しているっす。竜殺しのパーティを間近で見れて……』

「大層なもんじゃないだろ」

『友情、努力、勝利……。ニンジャの里では味わえなかったものっす。尊いっすよ。それに私は、ヒイロさんを賞金目当てで殺そうとして……』

「賞金首だってなら誰だってそうする。俺はお前が悪い奴じゃなかったから、ここにいる。ユウハとの出会いもラッキーだったんだ」

『ヒイロさん……』


「だからそろそろ出てこいよ」


『無理っすよ。三人の間には入れないっす』

「お前のこともただ雇ってるだけじゃなくて。これから仲良くなれると思っている」

『そうじゃないんす。私は部外者のしがないニンジャっす。三人の妻の間に、若い女が入る隙はないんす。殺されるんすよ』

「妻? 俺達は結婚していないが……」


 周囲をみやると、ウェンディ、ミァハが殺気を放っていた。

 アルネも目を醒ましている。アルネに至っては勇者の勘で、ユウハのいる場所を瞬時に特定したようだ。

 

「ヒイロ。あの女、誰?」


 アルネは背後の樹の上を見ていた。目をこらすと迷彩をしていたユウハがいた。アルネの勘はすさまじい。


「雇ったニンジャだよ」

「隠れていてもあたしの眼は誤魔化せないわ。巨乳で若いわね」

「アルネだってまだ19歳だろ。それにナイスバディだ」

「あのニンジャ、16歳かな?」


『ギク!』

「おいで。ニンジャさん」

『こ、怖いっす~』

「怖くないから。ただ……。あたし達の妹にしてあげるだけ」

『怖いっすよ~!』


 アルネは限界疲労で俺にお姫様抱っこされていたがそれでも怖かった。精神力がすさまじいのだ。


「おい、アルネ。ニンジャに構ってる場合じゃねえ」


 ウェンディが前方を指す。


「お出迎えのようだね」


 ミァハが杖を構えた。


「これはこれは勇者アルネパーティ一向殿。我々はヌーメロン教会派遣魔導師です。バハルドレイクの討伐が済んだようですねぇ」


 国境付近でのことだった。

 黒いローブの集団が、俺達を出迎えた。


「では、死になさい」


 一瞬の間の不意打ちだった。

 黒装束の集団が杖を構えた。

 魔方陣が展開。漆黒の爆裂が放たれ、俺達を包み込んだ。




躍ら

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者パーティーを追放された聖騎士、暗黒魔法と光魔法に目覚めリミットブレイクする。~聖騎士と暗黒魔法で万能かつ最強!冒険者の称号を総なめ溺愛無双する!すべてのヒロインも俺のもの!~ リミット=オーバー=サン @moriou_preclay

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画