第37話 その後……

 その後、ジョセフとサーベルは救急車の担架に運ばれた。

 ジョセフも体力が弱っていて、その担架の上でまるで気を失せるように眠った。

 ジョセフもサーベルも全身火傷だったのだが、ジョセフは奇跡的に顔にやけどを覆うことはなく、日常に支障をきたすようなほどのケガではなかった。

 後日サーベルは意識を取り戻し、ジョセフに対して改めてお礼を言った。

「本当に、ありがとう」

 それ以上のことは言わなかったが、退院した彼女はあれから小さなアパートを借り、新しい仕事を見つけて働きだした。

 それは、まるで人が更生したように、彼女はジョセフのことを大切な息子だと心の中で想っていた。

 後日、彼女のアパートの近くにジョセフは通った時、彼女の家のベランダを見たら、キレイに洗濯物を干していた。

 心を入れ替えたんだ。そうジョセフは胸が高鳴った。

 ジョセフの方はあれから清掃業務を続け、学校にも登校を再開していった。

 何か目標があるわけでもない。

 ただ、後ろから背中を押してくれる人がいる。

 それはマムだったり、天国にいるソフィアだったり……。

 ジョセフはそう思いながら、新たな教室で窓側の席に座り、快晴の空を見上げた……。


「これが、私のスキルマーケットでの体験です。これから、私は高校卒業後に清掃業務の会社に入り、十年勤め、そして、清掃業務の会社を立ち上げました。

 今日集まってくれた皆様には、清掃に興味を持った方ももちろん、何か事業を始めるにあたって、いろんな経験を積んだことに対して何も無駄じゃなかったという考えを持ってほしいと思っています。

 以上、私のセミナーは終わります」

 そう言って、ジョセフは右、左、前と三回一礼した。

 五十人ほど席に座っている客がいる中で、彼らからは拍手をもらった。

 ジョセフの年齢は三十になり、自分の体験談を織り交ぜながら、清掃の仕事をするきっかけを話していた。

 今日は、個人事業として、会社を立ち上げる人のための講座を行った。

 何回かセミナーはやらせてもらっている。ジョセフ自身、この中学二年生の数々の体験が清掃業務に携わるきっかけだったと、心から思っている。

 ジョセフは今日集まってくれた、五十人に帰る際に、一人ひとりに握手を交わし、「頑張りましょう」と握手を交わし、彼らを勇気づけた。

 ジョセフ自身、掃除をすることで本当に運気が開けたと思っている。

 アイドルルナが言っていた言葉は確かに正しい。そして、それを応援してくれたソフィアにも感謝の気持ちがあった。


 ジョセフはソフィアの墓の前で手を合わせた。彼女が旅立った二月……。今年もあの涙した二月がやってきた。

 ソフィアの横の墓はサーベルの墓だった。彼女とは年に何回か連絡を取っていた。あの火事の事故から、ジョセフは第二の母親と思っているくらい、彼女に温かく接していた。

 また、サーベルもジョセフのことを本当の息子だと思ってくれていた。あまり素直ではないサーベルだから直接口にすることはなかったのだが、電話を掛けると、出てくる彼女の一声と、その相手がジョセフだと分かるときのトーンが一気に上がる……。

 全く、面白い人だった。

 サーベルは二年前に天国に行った。急性心筋梗塞だった。突発的で、突然の訃報だった。

 ジョセフは生前のサーベルを思い出した。彼女は火事に見舞われたあの日からの八年間、見る見るうちに気持ちが変化した。

 前向きになったことが表情に現れたように、年月が経てばたつほど、若返っていった。

 人の顔って凄いものだ。と、ジョセフは新たな発見があった。

 ジョセフは生前のサーベルの笑った顔の写真を持っている。それは大切なものとして持っているし、ソフィアとのラインも消さずにずっと現在のスマートフォンに保存されてある。

 ソフィアの墓は彼女の親族が建てたが、サーベルの墓はジョセフが建てた。百万円も払っても忘れてはいけない人として、ソフィアの横に建たせてもらったのだ。

「お父さん、僕もする」

 ジョセフは後ろを振り返ると、小さな子供がジョセフに言った。ジョセフの息子だった。

「あなた、今日はちょっと暖かいわね」

 そう言ったのは、ジョセフの妻のイブだった。

「ああ、風もそれほど吹いていないしな。線香に火をつけやすくなってるから。有難いな」

 ジョセフは息子のレノンに線香を持たせた。レノンは墓の前で立てて、手を合わせる。

「ソフィアさん。昨日はありがとう」

 昨日はジョセフの十数回目の講座だった。

「ハハハ」と、ジョセフは笑った。レノンにはソフィアのことをある程度話をしている。

 それはイブにも同じだった。昔、ラインでやり取りをした子で、自分の清掃に対して背中を押してくれた大切な人といった。

イブは「素晴らしい人だったんだね」と、言っていた。それはレノンが生まれた時だったか。

イブもソフィアに目を閉じて手を合わせた。

 サーベルについても話した。これは、ジョセフは全てを話した。

 三人はサーベルにも手を合わせた。

「よし、後片付けをやるぞー。レノン、これを持って」

 立ち上がったジョセフがレノンに柄杓を持たせて。自分は桶を持った。

「あ、夕暮れね」

 イブは空を見上げて言う。今日はもう午後五時を過ぎていた。

「キレイだな」

 ジョセフは空をしばらく見とれていると、レノンがイブに言った。

「ねえ、今日の晩御飯はなに~?」

 イブは微笑みながら言った。「今日はお父さんとレノンが大好きなハンバーグよ」

 ジョセフは子供のようにレノンに両手で高々とガッツポーズを見せた。

「やったー」

 すると、レノンも同じように両手で高々とガッツポーズをして。「やったー」と、はしゃぐ。

 三人はそう笑いあいながら階段を降りていった。

 ソフィアの墓には、二月には珍しく白い蝶が止まっていた。

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クリーンファイター つよし @tora0328TORA

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