鉄馬戦機。幻想世界の多脚戦車。

touhu・kinugosi

第1話

 キュウウ


 黒い玉が黒い点に収縮した。


 バキンッ


 小枝を折るような音と共に前脚が吹き飛ぶ。


「くそっ。右前脚をやられたっ」

「急速後退っ、スモーク頼むっ」

 前部操縦席に座るガーランドが叫んだ。

 両手のレバーを引きながら、フットペダルを蹴るように踏み込む。

 残った三本の脚の先についた車輪が高速回転。


「はいっ」

 後部、魔術師席に座るソフィーが答えながら、両ひざの前の魔法の杖に魔力を込める。

 パパパパン

 オレンジ色のかたまりが複数飛び出すとともに、周りにスモークがたかれた。

 同時に隠蔽の効果も発動。


 馬体を強引に後退させる。

 ガツン。

 木と木の間の少しくぼんだ場所に馬体を沈めた。



「SP(スタミナポイント)、MP(マジックポイント)確認」

 ガーランドが、後席の魔女の服を着た小柄な少女を振り返りながら聞いた。

 

「SP、残り50パーセント、MP残り70パーセント」 

 ソフィーが目の前にならぶ計器を見てすぐに答える。

 ソフィーが、頭に被った魔女の帽子を片手で直した。


「残りの弾は」

「火炎3発、土2発、雷1発」

「どう思う」

「無属性の重力弾だから……最悪、かもしれない」

「”千里眼”を使ったら弾は?」

「多分、火炎3発くらいしかMPは残らないわ」


 ――くっ、ソフィーの魔術防壁を貫通して右前脚を吹き飛ばしたんだよな


「何で辺境にこんな奴がいるんだよ」

 ガーランドが迷ったのは一瞬だった。

 この判断の速さが彼を一流の冒険者にしたのだ。

「撤退する。 右前脚の修復と同時に千里眼発動」

「雷一発分だけMPを残してくれ」

 

「わかったわ、右前脚パージ、インベントリから新しい前脚を装着」

 

 ゴトッ


 ちぎれて短くなった右前脚の根元が地面に落ちると同時に新しい脚がインベントリから出現。

 魔術の光を出しながら元のようにひっついた。


「千里眼発動」

 膝の前の魔術の杖の先につけられた魔石が光る。

 同時にガーランドの前のサブモニター、見下ろし型の地図に敵が映る。


「騎士だっ」

 人型の魔導兵器。

「気づかれたっ」

 体高約7メオトル。

 背中と太ももの魔術式バーニアを光らせながら、こちらに急接近。


 外の景色が映るメインモニターに剣と盾、見るからに重厚な鎧をまとった人型兵器が、時々進行方向にある木を削りながら近づいてくる。 


「逃げるぞっ」

「はいっ」

「魔術砲は、騎士を指向っ」

 四本脚。

 四角い馬体の上には回転式の魔術式砲塔。

 短い砲身が騎士に向いた。 

「弾種、雷っ」


 ソフィーが雷の魔法を詠唱。

 騎士が剣を振り上げた。


――斬られるっ


「撃てえ」


 ドドオオン


 増幅器ブースターで約十倍まで増幅された、ソフィーの雷弾ライトニングボルトが砲身から発射。

 騎士の剣を弾き飛ばすと同時にスタンを付与。

 騎士が雷に打たれ、しびれて動けない内に逃げ切った。


 森の近くにある城塞都市、”ハバル”まで帰って来た。


「お帰り、ガーランドとソフィーちゃん」

 胸の部分の操縦席の開いた、7メオトルくらいの人型兵器に乗った門番が声をかけてきた。 

 操縦席の扉を跳ね上げて直接話す。

「大変だ。 森で所属不明の騎士に襲われた」

 後ろでソフィーが手を振っていた。


「なんだって、直接領主さまの所へ行ってくれ」

 巨大な格子状の城門が開く。

「わかった」

 尖ったつま先の下に出た車輪を回して中に入る。 

 領主に報告をした。

 この国と余り仲の良くない隣国の騎士が偵察に来ていたと聞いた。

 後に、この情報の料金を冒険者ギルドからもらったのである。


 ガーランドとソフィーがギルドの酒場で夕食をしている。


「隣国と戦争が始まるのかな」

 ソフィーがスープにパンを浸しながら聞いて来た。

「どうだろうなあ」

 ソフィーより頭一つ分くらい大きいガーランドが、ビールの入ったジョッキを持った。

「内地に移動した方がいいかもしれんな」

「そうね」

 二人は、ギルドの窓の外に駐馬してある、鉄馬スチールホースを見ながら言った。

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