第五回 積極的になんでも経験をしましょう

 Xのタグで「#作家は経験したことしか書けない」というものがあります。あなたはどう思うでしょうか。もちろん、こんな問いかけに正解などありませんが、「経験をもって書いた作品の方が深みと余裕がある」というのがわたしの持論です。「経験したことしか書けない」はさすがに言い過ぎだと思いますが、小説を書くにあたり、経験は重要な材料だと考えております。


 そんなことを言ったら、SFやファンタジー、他にも人生で経験していないテーマは書けないではないかと、すぐに反論の矢がどころか銃弾が飛んできそうですが、そんなことを言いたいわけではありません。せいぜい、市販のカレールーでもカレーはおいしく作れるけれど、スパイスから作るカレーもまた一味違うんじゃないか、というくらいの話です。


 ピアノが弾ける人の楽しさや苦悩を、弾けないわたしが経験者以上に書くことは不可能ではないでしょう。経験しているがゆえに見えない世界を、他人事という視点で書いてみると、意外にも真実に近い話になったということは、なくはないでしょう。


 ですが、どうでしょう。あなたは架空の経験をもっともらしく書いて満足でしょうか。あらゆることに対してリアリティーを求めることへのナンセンスさを感じながらも、恋愛経験で傷ついたり、部活動でかけがえのない時間を送った人が書いた小説に、「奥の深さ」や「幅の広さ」を感じて心が動かされたことはないでしょうか。

 

 小説なんて嘘っぱちです。それで良いのでありますが、一度きりの人生、経験できるものは何でも経験した方がお得ではないでしょうか。SFだって、登場人物同士の感情が揺れ動くシーンを書くのに、創作物から得た知識よりも、自身が経験したものの方が生きるかもしれません。特に、わたしのような恋愛や現代ドラマをメインとして書くのであれば、生の人間感情や経験を知ることは、とても貴重なことだと思うのです。


 作家の人でいわゆる「コミュ障」な方は少なくないと思います。作家の人に限定せず、わたしのようなあけすけな性格の人間の方が稀かもしれません。ですが、コミュ障の性格というのは、悪いというわけではありませんが、美徳というわけでもありません。人間関係で傷つくのは当然です。その中で面白い経験を得て、小説を書く楽しみの幅を広げてみても、悪くはないのではないでしょうか。


 「話を作る力」は、何にでもチャレンジをして成功や失敗を繰り返すことでぶ厚くなっていきます。たくさん本を読んで世界が広がることは楽しいですが、それはどこまでも「読者側のぶ厚さ」です。あなたが書き手を選んだのであれば、自分の背中で語れる経験を是非持ってほしいのです。

 人生は恥ずかしい思いや失敗をしてナンボです。若い人は今しかできない勉学に励んだり、恋愛をたくさん経験してほしいです。社会人で仕事にクタクタな生活を送っている人や、心が重くて辛い人も、日常の中で何か感じるものがあれば、それが財産であり経験だと思えばいいのではないでしょうか。


 生きているということは、なんらかの経験をしています。大事なのは経験をしているという意識なのだと思います。大冒険をしたり異世界に飛び込まなくても、経験はできるのですから、是非とも日々のことに目を向けて、「話を作る力」の血肉にしてほしいと考える次第です。


(もう少し続きます)

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