第四回 物事をまっすぐ見て、逆を考えてみましょう。
今まで、「話を書く力」を磨くことに対して、間接的な話ばかりでしたので、そろそろ具体的なアプローチを考えていきましょう。
といいながら、たとえ話から入るのですが、わたしがかつてよく行っていたバーでお店の人たちとの内輪のパーティーがありまして、特別にカウンターの反対側であるバーテンダーが立つ方へと入れてもらったことがありました。
そこから見える景色は、わたしは座っていた景色とはまったくの別世界で、あれだけ通っているバーなのに、別の店にいるみたいに見えてびっくりしてしまいました。
お察しの通り、申し上げたいのは、物事の逆というのは、ただの逆ではなくて、別世界の可能性を秘めているということです。わたしは客側の景色に慣れてはいたけれど、バーテンダー側から見た景色は特別なものに見えたのです。
逆なのだから、客席から振り向けば同じ景色ではないかと思った方もいるでしょう。もちろんそれも一理ありますが、それで終えてしまいますと、物事を面白く見ることができそうにもありません。あなたが作家でありたいと思うなら、少しばかり想像の翼を広げてみようではありませんか。
「話を作る力」の基本は、まずは物事をまっすぐ見ることができるかです。真正面から物事を捉え、そこに理論や数値、実証や実験結果があるのであれば、一度受け入れてみる度量を持つことです。これは、自然にできることではなく、あなたなりの考えや思いを横に置く訓練が必要です。やっぱり根性論な話になってしまうのですが、あなたの器の大きさに比例して、物事をまっすぐ見ることができるのです。好き嫌いで感情を震わせてはいけません。受け容れられる「心のレンジ」を広げていきましょう。
まずはまっすぐ見ます。次はそれを疑うことをしてみます。しつこいですが、まっすぐ見てから疑うのです。最初から疑ったり逆から考えようというひねくれた考え方を一度捨ててみましょう、ということです。
話を戻しますと、疑うというのは、常識や「そういうもの」だと思い込んでいるものの逆を考えてみましょうということです。その逆自体が「話を作る力」として生かせることもあるでしょうし、バーのたとえのように、逆ではなく別次元の話があなたの中に生まれて、話を作るネタになるかもしれません。
正逆を持ち出したのは、読者側からの延長線上で話を考えるのではなく、読者に提供する側としての発想ができるといいですよね、と言いたいわけです。バーテンダーのたとえのように、視界の正逆ではなく、提供する側とされる側の関係は別次元の立ち位置だ、ということを知ってもらいたいと思うのです。
わたしはファンタジーを書くことがとても不得手なのですが、ファンタジーを例に今回の話に沿って考えてみましょう。たとえば、勇者と魔王がいたとします。普通の感覚ですと、勇者とは魔王を倒す正義の存在で、魔王とは人間社会を脅かす悪の権化ということになります。まず、この関係をしっかり認識します。ここでは変なツッコミという横槍を入れずに、真正面から「お約束事」として受け入れます。
これを単純に逆にして考えると、魔王が正義で、勇者が悪者になります。これをそのまま題材にすることもできそうですが、もう少し考えて「別次元の話」まで持っていきましょう。すると、勇者も魔王もどちらとも正義である話と、勇者も魔王もどちらとも悪である話が思いつきます。あるいは、勇者も魔王両方が正義でも悪でもなく、ただのモブキャラだという話も思いつくかもしれません。こうして、逆を考えた先に「話を作る」ネタが転がっている可能性を、わたしはあなたに知ってもらいたいのです。
読者に喜んでもらえる意外性や独自性は、逆を考える訓練によって磨かれます。上達すれば、読者に発想を見透かされることなく「これは今までになかった話!」という感想をもらえる日が来るかもしれません。もちろん、何度も言いますが、最初から逆を考えてはいけません。まずは目の前のものを好悪関係なく真正面から受け止めましょう。ここでも「素直」が大事です。
こうして、「話を作る力」を主題の通りにして養っていけば、面白い話が浮かぶようになると、わたしは考えております。
(続けたい)
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