第二回 ラブレターを書いてみましょう

 好きなことをいっぱい書きましょう、という前回の話をそのまま実行したら、上達するのでしょうか。残念ながら、これはバットの素振りのようなもので、ただの必要なトレーニングでしかなく、いきなりホームランを打てるようになるわけではありません。


 前回のおさらいとしまして再度申し上げると、「自分の技術力は一旦捨てて、書きたいことを書きましょう」という話でした。

 では、「話を作る力」がほぼすべてだとすれば、どうすればこれを磨くことができるのでしょうか。これに対して、わたしにバシッとした答えがあって極めているのであれば、今頃大人気作家になっていて生活には困らないのでしょう。もちろん、そんな答えを持ち合わせてはおりませんので、今も貧乏暮らしです。


 とはいいながらも、量を書けという根性論アプローチから見た基本的な練習方法がありまして、今回ご紹介したいのが「ラブレターを書いてみましょう」というものになります。(なにやらテレビ通販のノリみたいですね)。


 文章を書くことについて、なにより大切なことは、


①自分が思っていることを

②素直に

③相手に伝えられるか


 です。どうでしょう。ラブレターを書くことは、①から③の練習にぴったりだとは思いませんか。しかも量も便箋1、2枚くらいです。文章量も800字から1600字程度でコンパクトに表現する練習にもなります。

 相手は恋人でなくとも配偶者、親子、兄弟、友人、誰でもいいですが、必ず「you」にしてください。不特定多数では意味がありません。これは、1対1で自分が思っていること素直に相手に伝えられるかの訓練でもあるのです。


 いざ書いてみるとわかりますが、最初は恰好をつけたものしか書けません。自分の弱さやズルさを隠して、もっともらしいことを書こうとします。安心してください。全員そうなります。自分がもらう側であれば、「ああ、これは本心晒して書いてないな」とすぐにわかるものを、見栄や恥ずかしさで、つい恰好良く書いてしまうのです。それが人間というものですから、落ち込む必要はまったくありません。


 ②を主体に何回か書き直していくと、①も実はまだ格好つけている内容だったことに気がつく段階がきます。「あれ、ただ”好きです”と言いたいのに、なんでこんなエラそうな自分なのだろう」と、自身で思えれば大したものです。後は、これらに疑問を感じたら、書き直していけばいいのです。③は、①と②の出力結果ですので、おかしいと思った時は、①と②を見直してみましょう。


 さて、そうして頑張って書いたラブレターが完成したとします。そうしましたら、一晩置いてからもう一度読んでみてください。そこにはめちゃくちゃ恥ずかしいことが書いてあります(笑)。床を転げまわりながら悶絶するかもしれません。

 ですが、それでいいのです。そういう経験を繰り返すことによって、あなたの感性は豊かになり、相手への愛情やありがたさに気がつき、より良い伝え方を模索しようと思うようになります。ひいては、「話を作る力」の基礎力アップになるのです。


 ラブレターを書いてみることで、「相手一人に気持ちを伝えられないのに、読者に何かを伝えられるのだろうか」という素朴な疑問が、あなたに湧いてくると思います。わたしの言っていることは技術論ではなく、根性論です。気持ちの訓練です。ですが、こうしてラブレターを書こうと考えてみると、そこそこの「文章技術の向上」の練習にもなりますし、文章の根本たる「人に伝える」ということに目を向けることができます。結構、お得ではないでしょうか。


 ということで、たまにはラブレターを書いてみましょう。相手のことを好きだというだけがラブレターではありません。自分のマイナスな気持ちを率直に伝えて、それでもあなたに読んでもらいたいという文章だって、立派なラブレターです。大事なのは、相手の心を動かすのは、文章が上手だからではなく、素直な自分の心だということを実感できればいいのです。


 どうしても相手がいないのであれば、わたしにラブレターを書いてみてください。――その時は、できるだけわたしを褒める言葉を添えてくださいね。


(続きます)

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