転生代理人はかく語りき

森メメント

第一章

第1話 ご挨拶とご案内

 おや、お客様ですか。

 ここ十年ほどで随分と増えましたね、うれしい悲鳴、というやつなのでしょうか。毎日毎日、依頼に追われる日々が続いていますから、時々は休息が欲しいのですが。

 ……コホン、失礼いたしました。

 独り言ですので聞かなかったことにしていただければと。


 さて、ご依頼は確かに承りました、お客様。

 わたくし、今回の転生代理人を務めさせていただきます、「リンネ」と申します。早速ですがお見積りをさせていただきたいので、ご依頼の詳細について確認させていただきたく存じます。

 まず、死後どういった世界に生まれ変わりたいのか、どういった能力を持って生まれたいか、などを大まかでもよろしいのでお伝えいただきます。

 その後、詳細はわたくしが質問する形で詰めさせていただく手順となっておりますが、よろしいでしょうか?


 え? そんな依頼はしていない? そもそも転生代理人など知らない?

 ああ、なるほど。そうおっしゃられる方もおられます。

 それでは、一番最初から説明させていただきますね。


 お客様には、わたくしはどんな姿に見えておりますでしょうか。

 男? 女? あるいはどちらでもない?

 ご自身の姿であったり、かつての想い人の姿だったり、犬だったり、はたまた生き物の形をしていない、異形の化け物だったり。

 お客様の目に映るわたくしの姿は、それぞれの人生を反映し、そして、その人生を変えてくれる存在としてお客様ご自身が無意識に投影してしまった結果なのです。

 そう、無意識に。

 意識的にわたくしのような存在と会話する人は多くないでしょう。

 間違いなく正気を疑われるでしょうし、ご自身で「こんなことはありえない」と簡単に結論を出すことができますからね。


 お客様。わたくしはあなたが眠りについたときにのみ現れます。

 その疲れた体と心が休息を求めた時、わたくしはお客様の目の前で、お客様ご自身の新しい旅路をご案内させていただくのです。

 いつもトラックに轢かれて絶命するのも趣がないでしょう? どうせ死んでしまうのならば、もっと格好のつく死に方が良いでしょう? そしてどうせ生きるのならば、もっとまともな人生を送ることのできる世界の方が良いでしょう?

 それをお客様が脳を休め、記憶を整理するための時間の中で、もう一度わたくしが確認させていただくのです。お客様の心の中に、直接問いかけることになります。


「本当にこの人生でよろしいのですか?」

「本当にこの世界でよろしいのですか?」

「もっと良い人生があったのではないでしょうか?」

「もっと良い世界に生まれてもよかったのではないですか?」


 うふふ、そうですよ。今夜、お客様が眠るその時も、わたくしがおそばに参る可能性がありますね。もっとも、本当にそうなるかはお客様次第ですが。

 今回はいろいろありまして、出張のような形で皆さまの前で営業をさせていただいておりますが、本来は依頼があったときのみ稼働する形となっております。

 

 おっと、そうそう。今回が特殊なのは、わたくしが営業を一部業務委託したからです。

「森メメント」さんがわたくしの代わりに皆さまからのご要望をまとめてくださいますので、ここのコメント欄に皆様の「現状」「好みの絶命方法」「希望する転生先の設定」を書き込んでいただきますと、簡素なものですがお見積りを出させていただきます。

 ちなみにお見積り内容はあくまで「匿名」のサンプルとして出させていただき、加えていくつかの脚色・フェイクなども予定ですので、お気軽にご相談くださいませ。


 最後に、注意事項です。以下の項目に当てはまる方はご依頼をお断りさせていただいておりますのでご了承ください。

 ① 精神疾患をお持ちの方

 ② 現在妊娠している、またはその可能性のある方

 ③ 過去に一度でも転生したことのある方


 ①は、至って単純な理由です。

 転生はあくまで精神はそのままに肉体の死を迎え、新たな肉体を手に入れることに他ならないので、精神疾患をお持ちの方は基本的に状況が好転することにはなりません。ぜひ、お医者様に適切な診断をしていただいてきちんとした投薬治療を受け、完治したのちにご依頼くださいませ。


 ②は、転生が一つの魂しか運べないことに起因します。

 子を宿した母親が転生しようとしたことが過去にありまして……それはもう大変なことになってしまいました。これは後程ご説明できればと思います。


 ③は……実のところわたくしにもなぜダメなのかわかっておりません。というか過去に一度も事例が無いのですが、わたくしが先代から引き継いだ段階でもすでに「何故かは知らないがとにかくダメ」と言われているルールです。

 もし機会がありましたら、お客様と一緒に何故かを考察することがあるかもしれません。


 こんなところで、ご挨拶と簡単な転生代理人としてのご案内とさせていただきます。次回からは、実際にどういった流れでお客様を新たな旅路に導くのか、具体例を示しながらご説明させていただこうと思います。


 それではお客様、おやすみなさい。そして、良い夢を。

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