くだらないことのすべて、一秒後に胸を揺らすことのすべて

香鳴裕人

くだらないことのすべて、一秒後に胸を揺らすことのすべて



いくら斜めに見てみたところで

やっぱりうつくしいものはそうだなと

丸めることをしてみる

だからって

くだらねえやと

受容体はじぶんに過ぎないのであるから

涙の予定は当面ない


常態にある不協和の苛立ちは

疎外感の侘しさか

思い描く海底の思いのほかの暗さであるか

だからって

揺らすものは揺らすよ

水底みなそこの砂地でなくとも

望むにかかわらず胸はまない


くだらないか

揺らすのか

なにもかもイコールで結べる

くだらないか

揺らすのか

結ばないことのほうがたやすい

たわいないから

おそらくは

そのままに潜っている


たった一秒前には

憐愍れんみんをずるけてみて

まさに今この時に

愛想笑いの聯奏れんそうさえうまくなくて

その末の一秒後に

なにやら期待していないのだとしても

こぼれて

息がむずかしくなるのかもしれない


夜明けを待つくせをあらためて

おのれの行き先のとぼしいものにこそ

自分を預ける程度のさかしさと怯え

なぜならば息を継ぐ

なんたって立派じゃねえや

自己否定の逃げ道を

みっともなく仕上げることすらも


あるか

胸はそこにあるのか

右斜め上の

中空にあるのかもしれなくて

あるいは待っているたたずまい

少し叩けば

埃が落ちる

ほらそうじゃないかと

かわいがってみたって

人間の顛末てんまつ

きっと揺れはしない

埃を拭いてみがいても

必ず揺れはしない

くだらないことにこそ?

ばかをいうな

くだらねえものはくだらねえよ

そんなもの

無糖のコーヒーのほうがありがたいよ

結局よろこべねえよ

涙の予定は当面ない


ありきたりないのち

せいぜい光がとどく水深で

酸素の残量はいかほどか

一秒後に尽きるなら

それもまた一興で

それもまたかなしいね




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