一 我が共和国の建国について
古代の
第一帝国の滅亡後、彼らアウレクワーレ人は第一帝国の庇護を受けられなくなった。滅亡後の大混乱に因って、旧帝国領は大混乱することになった。考古学研究は、この時期の大規模な飢饉や戦乱によって失われた人口は百万以上に達するとする。アウレクワーレ人も例外ではなかったであろう。これまた伝説に依れば、已にリウマーレの教えを信仰していたアウレクワーレ人は、ヴァシュライ司教座に助けを求めたという。すると司教は御神託と云って、当時グルトリーヤと呼ばれていた小さく不毛の小島に避難しようと呼びかけた。勿論、故郷を離れてまで、豊かさを捨ててまで逃げることに、抵抗を感じる者も多かったに違いない。もちろん、これは伝説の話であるが、かような伝説を創り上げてまで、彼らは正当性を欲したのだとも言える。神託と言われては仕様がない、とアウレクワーレ人は、のちにオーレクオッレ島と呼ばれることになる不毛の地へ向かったのであった。年代記に依れば、五百六十七年のことである。
このオーレクオッレ島に定住した人々が、再び史料に登場することになるのは、七百九十四年まで待たねばなたない。実に二百年程の空白があるのだが、その間は極めて典型的な古代後期人の暮らしをしていたようである。木造の掘立小屋に、初期的な市があったくらいであろうか。また、小麦を栽培していた痕跡が見受けられる。七百九十四年には、当時ヴァシュライ地域を支配していたティコッリャ王国がオーレクオッレ人と戦闘をしたとの史料が残っている。どうやらこの頃にはすでに「オーレクオッレ」もしくは綴字通り「アウレクオッレ」と呼ばれていたようであるが、兎に角オーレクオッレ人はすでに高い操船技術を有したようであり、支配下に組み込まれることは、終になかった。
オーレクオッレ人自らの手で歴史を叙述し始めたのは、八百二十三年の頃である。現存する最も古い史料はオーレクオッレ島での運河の建設計画であった(尤も、当時は未だにグルトリーヤ島と呼ばれていたらしいのだが)。この運河の建設計画の総責任者の名前は「アンディティカ・シュラナーディン」これこそがオーレクオッレ共和国名門貴族、シュラナーディン家の文献上の初出である。
文献は残ってはいないが、彼の肩書きは「ディシュール(訳者註:元首)」であった。即ちすでに、オーレクオッレにおいて共和制国家が誕生していたとして好いだろう。八百四十年代ごろになると、現代のオーレクオッレ島の姿が垣間見えるようになる。島を二分する
このために、オーレクオッレ共和国の建国年代には諸説がある。私は七世紀頃であるとの立場を採るが、レクトナーシュ共和国とオーレクオッレ共和国は区別すべきだとの意見から、九世紀とする説もある。というのも、レクトナーシュ共和国時代は、共和制といえどもシュラナーディン家、メルクテーア家、ヴェッディ家ら貴族の合議制でしかなかった。彼らが貴族と持て囃されたのは、恐らく血統や公共事業への貢献度だと思われる。要は、運が良かっただけだ。
オーレクオッレ共和国時代になると、次第に議会は貴族合議制から元老院が設置されるに至り、従来の貴族院に加えて庶民院が成立した。こうしてオーレクオッレ共和国の全ての住人に、参政権が与えられたのだ。また、一時的に政府からシュラナーディン家、ヴェッディ家が音沙汰をなくし、対してユントレ家や我がレーアニーシュ家が台頭した。このため、レクトナーシュ共和国からオーレクオッレ共和国への変遷は、政変であるという説もある。しかし、オーレクオッレ共和国とレクトナーシュ共和国の呼称は、明確に変わった時期の境目があるわけでなく、時に共存していたりもする。もちろん政変があったのは同意するところだが、それを以て「レクトナーシュ共和国とオーレクオッレ共和国は別の国家である」とするには、根拠が不足しているように感じる。少なくとも当時の人々にとっては、同じ国という認識であっただろうし、そう定義してさしたる問題が発生する訳でもない。であれば、単なる国号の変化として捉える方が、より自然だと思われる。
何はともあれ、オーレクオッレ人によるオーレクオッレ島での政権が七世紀から存在していたことは、確かなようである。現代の主に社会主義者の面々は、よくオーレクオッレ共和国の歴史のなさを主張して、民族協和を掲げた大連邦構想を公約に掲げている。しかし、公約の是非はおいておくとしても、歴史がないというのは全くの誤解、どころか、現存するうち最古に成立した共和国といっても差し支えないのだ。
和訳 異世界の歴史 刈谷つむぐ @kali0710
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