講評3 #21~#26
【#21】
「船を運ぶは人魚の慟哭」
作:木古おうみ
https://kakuyomu.jp/works/16818023214016080728
え、コレ、自主企画に出しちゃっていいんですか!?
ストーリーもカッチリ纏まっているし、描写にもキャラ造形にもソツがない。2万字前後の短編として非常に手堅い構成で、普通に商品にできそうな作品だと思うのですが……
いやはや、ぶっちぎりの完成度です。お見事でした。
まず、人類がほぼ滅亡に近い状況で、資源を求めてさすらうしかない船という閉鎖空間。そこに漂う、「うっすらとした絶望」とでも言うべき淀んだ空気の描写が良かったです。
ギスギスした人間関係。タバコとケンカ。自分の肉体を報酬として利用する女船長。こういう世界観、かなり好みです。
ストーリーの流れも非常に手堅い。ジョセフ・キャンベルの「単一神話」を思わせる構成で、起承転結すべてがキッチリ噛み合っています。
キャラクター描写に関しても、話の節々のちょっとした言及だけで、誰がどういうヤツなのか、ちゃんと分かるように描かれている。
その一人一人についてのサブプロットも、ラストシーンで綺麗に着地しており、さらにはそれが主人公の実力の描写と問題解決のカタルシスにも繋がっています。
うーん、無駄がない。
「白鯨」ネタも、いいくすぐりですね。
繰り返しになりますが、「すごくちゃんとした小説だなあ……」と思いながら読みました。
とても素敵な滅亡でした。力作をありがとうございました!
【#22】
「焔の民」
作:フカ
https://kakuyomu.jp/works/16818023213904774686
ジェームズ・フレイザーの「火の起源の神話」を想起させるお話でした。
ギリシャ神話のプロメテウスを始め、ポリネシアの英雄神マウイ、アメリカ原住民族の動物霊など、超常の存在が人間に火をもたらす神話は世界各地に数多く存在します。
しかしこの作品がそれらの神話と大きく異なっているのは、火の起源がそのまま人類の滅亡にまで繋がっている点でしょう。
火を手に入れた人類が、やがて神の勘気に触れて滅亡する、という展開は、どこか示唆的で不気味です。
その一方、一貫して人類に対して好意的な「焔の民」の視点が、物語に優しい肌触りを添えている、と感じます。
全体的に描写がぼかされていて、ちゃんと読み取れた自信がないのですが、ラストは、「焔の民」を犠牲にすることで人類が復活した、ということなのでしょうか?
文字通り温かな「焔の民」の庇護のもと、この新たな人類がどんな未来を紡いでいくのか……希望の持てる結末で良かったと思います。
【#23】
「ヘリテージ」
作:宮野優
https://kakuyomu.jp/works/16818093073448533963
人類が滅亡した後のために、人類の智の営みをアーカイブとして残す。
その事業は尊く気高いものであるように思えるけれど、ひょっとしたらそれは、我ら人類の独りよがりな感傷に過ぎないのかもしれない。
なぜなら、我々と全く異なる価値観で生きる「宇宙人」たちは、人類の文化など、どうでもいいと思っているかもしれないのだから……
人類の命脈は、些細な暴力によってあっさりと断たれてしまいました。それでもなお、二重三重の手を打って
その執念が実って人類の遺産が誰かの目に止まる日が、訪れるといいなあ……
正統派の素敵な滅亡でした!
【#24】
「地球にかつて住んでいた猿の一種」
作:筆開紙閉
https://kakuyomu.jp/works/16818093073450939844
うわ、怖……
まず世界観がいいですね。コズミック不動産によるコズミック強制退去。「宇宙人はいったい誰から地球を買い取ったんだよ!」なんてツッコミも野暮に思えるのは、軽妙で読みやすい文章がスルスルと頭に入ってくるからでしょう。
それにしても、狭い箱に閉じ込められて永遠に展示される、というのは恐怖でしかありません。正直、死ぬより怖い。夢でうなされそうなくらいホラーです……
最終的にちょっと希望を持たせて終わるタイプの作品が多かった中、きっぱりと、完全なる絶望を叩きつけてもらえた点で、この作品は際立っていました。
しかもその絶望が、軽ーいノリで語られる。このギャップが、かえって怖い。迫力がある。
すばらしい人類滅亡小説でした!
【#25】
「冥々の筺」
作:宮塚恵一
https://kakuyomu.jp/works/16818093073451918499
人類を食い尽くす甘い罠。
騙される人類が欲深なのか、それとも相手が一枚上手だったのか……
謎の箱「ピトス」が人間の信仰心を利用している点が、そら恐ろしい。
触れた人間に利益をもたらし、自らを崇拝させ、暮らしになくてはならないものとして浸透する。この狡猾さ。ちょっと抗えない……
思えば、我々の生活を守る便利な道具の数々は、ある種、信仰の依代でもあります。我々にとって、安心安全で快適な暮らしはそれ自体が尊いものです。誰だってそれを大切にする。守ろうとする。
そんな素朴な信仰心を見事にハックして一種の「繁殖」を行うこの箱に、僕はゾッとするような気味悪さを感じました。
人間の弱みも強みも、よく知っている箱ですね……
がんばれ、負けるな人類! と思うけれど、たぶん、このまま終わっちゃうんだろうなあ……
【#26】
「箱太郎」
作:真狩海斗
https://kakuyomu.jp/works/16818093073456145065
こんなん笑うやろ!!
最初から最後までもうメチャクチャ! ツッコミ不在のハイスピードギャグ。
状況的には、人類を殺戮する残酷な上位存在への反抗戦、という深刻な話ではあるんですが、ひとつひとつトンチキな道具立てと、椅子から転げ落ちるようなダジャレの連鎖で、最初から最後までヘラヘラ笑って読んじゃいました。
それでいて、SF的には「入れ子構造」の世界設定が秀逸です。
我々の世界の外側には、上位存在の世界がある。それはすなわち、上位世界の外にさらなる上位世界が存在しうることを意味する。
おそらくはその上にも、またその上にも……!
無限に続く世界観の広がりを、短い文章で描ききったところが、すばらしかったと思います。
ギャグでありながら、きっちりと人類滅亡小説の絶望も描き出す。いやはや、見事なお点前でした。
素敵な滅亡をありがとうございました!
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