講評2 #11~#20
【#11】
「もしもの話じゃないんだよ」
作:鷹野ツミ
https://kakuyomu.jp/works/16818023213917318003
あまりに突然な、世界の終わり。
天災は、希望も絶望も全て区別なく薙ぎ払うもの。せっかく生きる希望を得た主人公が、それを味わう暇もないまま「終わって」しまう、この無常観が、そっけない結末の台詞によって際立っています。
終わったはずの世界でただ一人生きているらしきこの少女は一体何者なのか?
そうした空想の広がる余地を残した掌編でした。
【#12】
「悪夢」
作:一宮 沙耶
https://kakuyomu.jp/works/16818023214086167840
SF! 滅亡! 新人類!
いいですね。昔ハヤカワSFで読みあさった人類滅亡モノの血が、今も脈々と受け継がれている! と嬉しくなります。
いつか地球の環境が変わって人間が生きられなくなるのは事実ですので、そのとき我々はどうするのか? という問いかけは、SFとして非常に魅力的な題材です。
読んでいて、なんだか懐かしい気持ちになりました。
そこへ至るまでの過程を、男女の恋愛感情のもつれを軸に描く。
読んでみると、どうにも翠さんが気の毒で……男運が無いというのか……
もはや最悪の運命は避けられないにしても、彼女の最期に、せめて心の安息があればいいなあ、とひしひし感じます……
【#13】
「デッドエンド、リピーター」
作:秋乃晃
https://kakuyomu.jp/works/16817330669720048821
なるほど! これは興味をひかれる……!
謎の能力によってループする世界。結末では同じ運命を繰り返すことを暗示しているようではありますが、主人公の行動によって何かが変わる未来もあるかもしれない。
これは短編で終わらせるのはもったいないですね。創は何者なのか? 「令和のノストラダムス」の正体はひょっとして2周目の……? などなど、短い中にいくつもの謎が散りばめられていて、むしろこの先が気になります。
そしてまた、構成とタグが心にくい。
自主企画のレギュレーションだった「滅亡前」「滅亡中」「滅亡後」を全て一作に詰め込んでくださったわけですね!
しかもこのストーリーなら、滅亡後は滅亡前になり、全体を俯瞰すればずっと滅亡中であるとも言える。
こういうふうにテーマを使うのかー! と膝を打ちました。
【#14】
「土に還る」
作:藤田桜
https://kakuyomu.jp/works/16818023214005784252
人類が滅びた世界に、ふたり残った兄と弟。
兄弟愛と呼ぶには濃密すぎる、少年たちの愛の結実と終焉……
いいですね。すごくいい!
「社会の目」などという面倒なものが全て消え去った滅亡後の世界でなら、誰にはばかることなく男同士で睦み合うことができる。ある種、それは自然で純粋な愛の形と言えるでしょう。
胸にグッとくるシチュエーション。
すばらしく芳醇なボーイズラブの妙味が匂い立っていました。
実は……僕も……自分の人類滅亡小説を書く時! この話と性別だけ逆転した、「男が全滅したから人類絶滅が確定した、女性だけの世界」の話を書いてたんですよー!
紆余曲折あって、その案はボツにしたんですが……危なかった……! ネタかぶりをやらかすところだった……!
それはさておき。
個人的にすごくいいな! と思ったのは、最期に弟イツィが達した結論です。
愛しているから共に死にたい、なんて考えていた彼が、自分の死を目の前にして、考えを改めた。兄には自分の死後も長生きしてほしいと願った。
これが言えるのは、心から兄を愛していればこそ。そして、彼が善良であればこそ。
主人公を好きになれるかどうかは、物語の印象に強く影響するものですが、その意味で、イツィはすばらしい主人公だったと思います。
素敵な滅亡をありがとうございました!
【#15】
「終末を遺す」
作:ラーさん
https://kakuyomu.jp/works/16818023214301126007
スマホのおかげで簡単に動画撮影ができるようになり、またそれを配信する仕組みが整ったおかげで、誰もが小さなメディアになれる現代。
そのせいで、興味本位の野次馬が以前にもまして世間を騒がせるようにもなりましたが……
野次馬根性も、ここまで来れば大したもんだよ!
世界が終わろうとするその時、命がけで終末の映像を記録する……
それはもはや単なる野次馬の域を超えて、ジャーナリズムの魂とさえ呼べるものかもしれません。
このあと世界がどうなるかは分かりませんが、この人類史上最も重要な記録映像をかえりみる人間が、後世に生き残ってくれるといいな……! と思います。
そしてこの作品も下限ぴったり200字!
この文字数でも小説の形になるもんですねえ。すごい。
【#16】
「こんここんこんこん」
作:根ヶ地部 皆人
https://kakuyomu.jp/works/16818023214317267377
人類滅亡と妖怪譚を組み合わせた異色作。
人が不思議を感じる存在が妖怪であるならば、人類が滅び去ったあと、妖怪たちはどうなってしまうのか?
そこに焦点をあてたストーリーが、なんともいえない寂しさを掻き立てます。
人間は、古来より自然界の事物に「不思議」を覚え、空想を膨らませて、妖怪、神、魔物などを見いだして来ました。
その存在は、人類が連綿と受け継いできた文化そのものと言ってもいい。
人の滅びとともに、そうした文化も消滅する……諸行無常の一言で片付けるには、あまりにも切なすぎる別れです。
でも、最後に挨拶に来てくれた妖怪たちの律儀さが、終わりゆく世界の中で、小さな灯火のように温もりを感じさせてもくれました。
とても素敵な滅亡でした!
【#17】
「臨海にて在りし日を懐かしめ少女」
作:秋犬
https://kakuyomu.jp/works/16818093072845305842
地上が汚染によって人類の生存に適さなくなり、生き残りたちは地下でほそぼそと命をつなぐ。
そのような状況に置かれたとき、「地底人」たちは、地上に対してどのような感情を抱くのでしょうか。
主人公ソラが地上の青空に憧れるさまは、我々が歴史ロマンに胸躍らせるのにも似て、共感を呼びます。
今はまだ在りし日の形をとどめている街や観覧車も、やがてはあの船のように、朽ちて塵となるさだめ、なのでしょうね……
でも、そんな時代で明るく元気に生きているソラの姿を見ると、なんだか少し、救われるような気がしてきますね。
【#18】
「行こう」
作:外清内ダク
https://kakuyomu.jp/works/16818093072874658970
主催者本人の作品です。
自分の作品の講評どうしよう? と迷ったんですが、普通に自分で書くことにしました。
僕は人類滅亡モノが好きで好きで。これまでもたびたび書いてきましたし、今回も素敵な滅亡を書くぞ! と思って筆を執ったのですが……
うーん。
端的に言うと、思いを出しきれなかった、という忸怩たる感があります。
この作品のエモーションのクライマックスは「愛犬との再会」にあるわけですが、そこに至るまでの無常感や孤独感、絶望と諦め、みたいなものを、もうひとつ胸に迫る形で描写しきれなかった。
もっと落とすべきところはググッ……と落として、愛犬との再会の喜びをババーン!! と盛り上げられなかったかなあ……
反省! 次に活かそう。
そんな中で、犬の言動は、かなりリアルに愛らしく書けたんじゃないかな、と思います。あんなふうになりますよね、テンション爆アガりした犬。犬大好き!
【#19】
「せかいのおわりとこのセカイのハジマリについて~誰も知らない物語~」
作:黒猫夜
https://kakuyomu.jp/works/16818093073277900055
人類滅亡後、世界を再興していく孤独なAI。
これまたSFの定番中の定番。古き良きアメリカSFの香りが匂い立つようです。
主人を失ってなお粛々と役目を果たし続けるAI、その献身とひたむきさが胸を打ちます。
王道のストーリーとエモーションが、短い作品の中にしっとりと丁寧に纏められていて、好感が持てました。
たとえ全ての新人類から忘れ去られようと、エアの偉業の価値は、少しも揺るぎはしない……と思いたいですね。
【#20】
「ボーイ・キルズ・ガール」
作:ヒトのフレンズ
https://kakuyomu.jp/works/16818093073329116338
ああ……これは切ない……
ゾンビがはびこる終末世界で、たったふたりで生き抜く少年とお姉様! 慕情と尊敬に性愛まで絡んで、すごく素敵な物語世界が構築されていますね。
なにより主人公がいい。やや頼りなかった少年が、師であり愛人でもある女性に導かれ、立派な男になっていく。
彼女を安らかに眠らせるために戦い抜く主人公の姿に、力強い覚悟と信念を感じました。
主人公を「がんばれ!」と応援したくなる作品は、とても好きです。面白かったです!
個人的には、彼女と主人公が「体を重ねて眠った」あたりで、「ムッ!? そこんとこもっと詳しく聞かせてくれ!!」という気持ちになりましたが……ま、それは置いておきましょう!
余談になりますが、5.56mmNATO弾のアサルトライフルを中距離狙撃にも使うって、ゴルゴ13みたい!
対人戦ならそう簡単には当てられなさそうですけど、相手がノロくて柔らかいゾンビなら、確かに有効かもしれない。
そのあたりの考察も楽しかったです。
素敵な人類滅亡でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます