講評1 #01~#10


【#01】

「シャルウィー・ダンス・デッドマンズ」

作:雲隠凶之進

https://kakuyomu.jp/works/16818023213272239829


 いきなり笑わせてもらいました。


 人類がみなゾンビになった世界で、ただ一国生き残ったインド。

 迫りくるゾンビの群に対して、インド人は情熱的なダンスで立ち向かう!

 これが面白くないわけがない。

 まさにアイディアの勝利。これほどユニークな滅亡の形は予想だにしませんでした。


 それも、ただネタに走っているわけではない。

 人類滅亡小説フェスタに私が期待していたものは、「滅亡という状況に対する、人物たちのリアクション」でした。

 その観点において、悲嘆に暮れるでもなく、暴力を振るうでもなく、「笑って歌って踊るのだ!!」という腰のすわったリアクションは、まさしく唯一無二アトゥルのものだと思えます。


 しかもそれが、ゾンビに対抗する現実的な「武器」にもなっている、という構成が実に心にくい。

 ある種の鳥は、人間の歌を好んで真似る。

 また、熊や犬がリズムに合わせて体を揺するさまも観察されている。

 してみると、歌と踊りというものは、動物にとって根源的なパワーを持っているのでしょう。

 だから当然、ゾンビだって踊りだす!

 荒唐無稽なようでいて、よく考えれば「なるほど!」となる設定でした。


 こんな世界ならば、数百年後……インド人たちは再び世界中に広がって、陽気に踊り暮らしているかもしれませんね。

 とても素敵な滅亡でした!




【#02】

「そこまでしなくてよかったよ」

作:惣山沙樹

https://kakuyomu.jp/works/16818023213321709057


 んんー!

 子供ってのは、これだから!


 自分のやっていることの意味、自分にできることの範囲さえ把握していない幼さがゆえに、あっさりと滅びてしまった人類。

 ある種、どんな悪意よりも遥かに恐ろしい、ゾッとするような「無邪気」の暴力に、背筋が凍ります。


 地球上にたった2人(あるいは1人?)だけ残った彼ら兄弟が、これからどんなふうに生きていくのか……

 10年後、20年後の彼らの姿を見てみたい気がしますね。





【#03】

「人類は滅びました、なら、私たちは何なのでしょうか?」

作:龍丼

https://kakuyomu.jp/works/16818023213386509515


 確かに、難しい問題だ……


 妖魔というのは、往々にして人間との関わりによって存在を定義づけられているものですが、吸血鬼というのはその最たるもののひとつ。

 人の血を吸う存在が吸血鬼なら、人類が滅亡した今、彼女たちは一体何者なのか? 種族単位のアイデンティティ・クライシス。


 しかし、その中にあっても、べつだん深く悩む様子もなく、あくまで妖しくあくまで耽美に我が道を行く、彼女たちの姿勢が良いですね。

 ヒトを超えた妖魔の精神性が、よく描かれていたと思います。





【#04】

「僕らの話。」

作:Rotten flower

https://kakuyomu.jp/works/16818023213390990870


 これは、いささか難しい作品ですね。


 ぼかした表現なのでハッキリとは分かりませんが、つまり、主人公は飢えて死んでしまったということでしょうか。

 「苔」と呼ばれている謎の脅威の前に、隠れ住んでいた生き残りたちは、ただジワジワと追い詰められていくしかなかった……


 最期に仲間たちがかけてくれた温かい言葉が、よりいっそう、どうにもならない死の切なさを掻き立てます。


 そうした情感を表現しよう、という気概が感じとれます。ぜひ、これからもたくさんの小説を書いて、さまざまな表現に挑戦していってほしいな! と思います。





【#05】

「神の終焉」

作:風白狼

https://kakuyomu.jp/works/16818023213404352952


 なるほど! こう来たか!


 まず、人類を滅亡させようとする敵の方に視点を置いたところに驚きます。

 さらに、天使たちの戦いで一見世界は守られたようですが、戦うために人間がみんな天使に変身したので、「人類」としては完全に滅亡してしまった……


 とどのつまり主人公(?)の狙い通りに事が運んだわけで、勝利に沸き返るもと人類たちの狂騒が、なんとも滑稽に見えてきます。


「剣を取る者は剣に滅びる」とは聖書の言葉ですが、その箴言しんげんを強く想起させられる。

 皮肉がきいていて良かったです。





【#06】

「餐」

作:藤泉都理

https://kakuyomu.jp/works/16818023213427169664


 人類滅亡を前にして、さあ、何が食べたいか?


 古典的な問いかけですが、そこであえて高級寿司を選ぶという俗っぽさが、そこはかとないリアリティを感じさせます。

 そうかもしれないな。確かに、どうせ死ぬなら思いっきり贅沢したい! と思うのが人情かも。

 身の丈に合わない高級料理を前にして、食べる前に「お腹いっぱい」になっちゃう主人公の小市民っぷりにも好感が持てます。


 僕もそうだったよ……一度、奮発して一食何万もする寿司食べに行ったけど……! 緊張で胃が「きゅーっ」ってなっちゃって……!


 また、この物語が成立する背景に思いを寄せると、別の側面も見えてきます。

 人類滅亡前でも営業してるんだ、寿司屋!

 寿司屋の営業を可能とするためには、漁師、魚河岸、冷蔵設備や物流などなど、たくさんの仕事が動き続けていなければいけない。

 そう考えると、どんな状況でも己の仕事をやりとげる、熱い職人魂も感じ取れますね。


 よく見てみれば、文字数が下限ぴったりの200字!

 限られた文字数の中で人物像や舞台の広がりを感じさせるてくれる、良い作品でした。





【#07】

「海へ続く道」

作:天野蒼空

https://kakuyomu.jp/works/16818023213369879913


 滅びに直面した2人の、ロードムービー。

 実にオーソドックスな愛の物語でした。


 1年以上もかけてじわじわ滅亡に追い込まれたこの状況で、なんの信仰にもイデオロギーにも毒されず、こうまでフラットな心境を維持し続けられたのは奇跡的です。

 きっと主人公たち2人の関係が、お互いを正気に保ってくれたのでしょうね。


 2人が互いを気づかい、思い出話に花を咲かせながら小旅行を楽しむさまは、まるで何十年も連れ添った熟年夫婦のようです。

 まだ若い恋人たちのようですが、それほど関係性を深めるだけの経験を、この1年で重ねてきたのでしょう……

 最後の最後でこんなに穏やかに寄り添える。それは……愛だよ!!


 なんか、ちょっと羨ましいです。


 そして少し驚いたのが、結末。

 このストーリーで、海にたどり着かずに終わるんだ!

 確かに物語としては、2人の関係性を描けば充分。必ずしも目的地にたどり着かなくてもよい。と、理屈では分かっても、なかなかこうは書けません。

 この結末が、もはや人類はどこへもたどり着くことはない、という絶望的な状況を暗喩しているようにも思えます。

 実に攻撃的な、切れ味の鋭いラストシーンだったと思います。


 とてもいい滅亡でした!





【#08】

「滅びの国」

作:ROMB∞K

https://kakuyomu.jp/works/16818023213343640539


 人民あってこその政治。国をなくした為政者は虚しいものです……


 古来、天災は政治への警告であるとみなされてきました。

 悪政が行われたり、世が乱れたりしたとき、天は災害を起こす。

 為政者が身を清く保って善政を敷くとき、災害もまた自然におさまるのだ……という考え方です。


 この未曾有の災害も、そうした天意であったのか?

 それを受けて、彼ら武将が考えを改めるのか否か。

 人類が本当に滅亡するかどうかの分水嶺は、この後に待ち構えているような気がしますね。





【#09】

「日記 22240213」

作:義為

https://kakuyomu.jp/works/16818023213482906687


 これが「楽園」か……そうか……

 と、やるせない思いで読みました。


 この書き方だと「父さん」とイヴが本当に親子関係なのか分かりませんが、いずれにしても、「父さん」の行動は褒められたものではない。

 しかし、イヴには「父さん」がやろうとしていたことの意味すら理解していない。1人きりになってしまった少女の、悲しい無垢性……


 歪んだ情報だけを与えられていたイヴは、無知がゆえに絶望することもない……という構造。実にやるせない。

 書かれた以上の悲しみを想起させてくれる作品でした。





【#10】

「たったひとりの12月31日」

作:枕崎 純之助

https://kakuyomu.jp/works/16817330669346947800


 よかった! 本当によかった!

 というのが読んだ直後の素直な感想でした。


 1人きり。それは完全な自由、ではあるけれど、案外その自由をもてあます。

 ただ録画したテレビ番組を見て感傷にふけるしかなかった主人公の孤独は、察するにあまりあります。


 その寂しさがちゃんと描かれていたから、いささか唐突のようなラストシーンも受け入れられますね。

 いや、本当によかった!

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