旅人と、天使と悪魔
崚我
旅人と、天使と悪魔
旅人は、歩いていた。
野原の真ん中にある土の道。
ガタガタしている坂の道。
雨の匂いが残るぬかるんだ道。
大きくて、重い荷物を背負って、ただただ歩いていた。
旅人の手には、一つの手紙付きの小さな荷物。先日発った村人に頼まれて、運んでいる。
届け先は、隣町。彼の親戚が住んでいる。
隣町とは云うけれど、旅人は、村から一週間歩いたけれど、まだまだ街には届かない。
飲み物も食べ物も、とうに底をつきていた。
すでに旅人は、ヘトヘトだ。
そこに、旅人には見えないイキモノが二匹現れる。
テンシは言った。
「あと半日歩けば隣街。夕暮れ時には、たどり着く。早く荷物を届けなきゃ」
アクマは囁く。
「もう休もうぜ。木陰で休んで、夜を越し、また明日に回せば良い」
旅人は、テンシの声に耳を貸す。
「そうだね、早く届けよう。僕の体が悲鳴を上げても、それが善いことだから」
震える片足を前に前にと、歩きだす。テンシは、ウン、ウンと頷いた。
アクマは、すかさず槍を出し、旅人の足に引っ掻けた。なす術もなく彼は、転んでしまう。
テンシは、叫ぶ。
「なんてことを!」
アクマは、応える。
「君こそひどいやつだ。彼は見ての通りボロボロだ。疲れを取ること何が悪い!」
テンシは、諭す。
「誰かの役に立ちたいと彼は言う。役に立つとは、いいことだ。誰かのために生きるのは良いことだ」
アクマは
「それなら先ずは、自分だろう?自分のために生きて何が悪い。一度休んで何が悪い!」
旅人は、テンシの声を信じた。
なぜなら、そのように育てられたから。それが良いことと思ったから。
アクマは、呆れて去っていく。
テンシは、旅人に微笑んだ。
旅人は、やっと街に着く。
フラフラと
届け先を探す。
フラフラと
頼まれていた荷物を届ける。
そしてようやく、旅人は休めるのだ。
フラフラと
次は、宿屋を探す。
フラフラと
夕時の人波を掻き分けながら。
フラフラと
フラフラと
気分が悪い。
海で、川で、波の中にいるような、そんな気分。
フラフラと
フワフワと
路地に逃げ込み、壁にもたれた。
どこへ逃げても波が追ってきた。
もう、逃げることもできない。
ーー限界でした。
旅人は、波に拐われ、独りになりました。そして、夜が明ける頃のこと。とうとう、誰も見つけることのできない海の底に、沈みました。
「あーあ、だから休めば良いと言ったのに」
嫌われ者のアクマは、誰も行方を知らない、【旅人】に告げました。
旅人と、天使と悪魔 崚我 @fia50-Reog
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