【神回】3日後に〇〇系の話、一気にやってみた!

砂漠の使徒

【生配信】今日が俺の命日らしいので実況する!

 とある一軒家。

 深い闇に包まれた山中で、その家だけがぽつんと明かりを灯している。

 外からは、草木が風に揺れる音だけがかすかに聞こえる。


「はい、どーもー!!!」


 静寂を貫く声。

 1人の男が、勢いよくカメラに向かってしゃべり続ける。


「今回はスペシャル企画! その名もなんと~……」


 無駄に長い溜め。

 続々と集まって来た視聴者は先を促す。


[なげーよw]

[よく息続くな]

[なにすんの?]


「集まれ怪異の森! 三日後に死ぬ系の話を全部やって怪異でバトロワしてみた!!!」


 発表と同時に愉快なSEが鳴り、画面には申し訳程度の紙吹雪が散った。


[は?]

[三日後に死ぬって、あれか?]

[バトロワてw]


 視聴者はまだよく呑み込めていないようだ。

 それを見て、男はざっくり説明を始める。


「いやさ、読んだら三日後に死ぬ話ってあるじゃん? ああいうのを同じ日に何個もやったらどうなんのかなと思って!」


[どうなるもなにもw]

[ほんとにしぬわけないだろ]

[たしかに気になるな]


 コメント欄は、そもそも信じていない者や納得する者などからいろいろな意見が飛び交う。

 そうこうしていると。


 ピーンポーーーン


 インターホンが鳴った。


「お、誰か来たな?」


 男は自撮りをしていたカメラを掴み、インターホンのモニターを映す。

 粗いモニター映像からは、セールスマンのようなスラリとした体形の男性がいるのが確認できた。


「夜分遅くにすみません。こちら、榊原さんのお宅でしょうか?」


「はい、そっす。……あ、本名バレちゃったw」


[さかきばらw]

[ばらされるの草]

[特定したろ]


 あっさりと身バレしてしまったが、お構いなしに訪問者は話を続ける。


「私、三日前にあなたと契約した……」


「契約……悪魔さんっすね!」


 男は嬉しそうに告げた。

 直後、ライブ画面にテロップが流れる。


「てなわけで、1人目のお客様はこいつだー!」


{悪魔:特殊な呪文と手順を踏むと出てきてくれる便利な人。なんでも願いを一つ叶えてくれるけど、三日後に魂をもらいに来るらしい。ちなみに、願いは○○ちゃんの水着フィギュアをもらったぜ}


「いや、まさかっすね。てっきり目の前に現れるのかと思ったら、律儀に玄関から来るんすね」


「ははは。私もほら、これ営業ですので。さて、魂いただけますかな?」


 男は一瞬黙り、あらかじめ用意していたようにセリフを紡ぐ。


「あー、ちょっと待ってほしいっす。ほら、まだもう少し日付が超えるまでありますし。12時までは三日の範囲内でしょ?」


「ふむ、そうですね。いいでしょう、待ちましょう」


 悪魔は腕時計をチラリと確認して、頷いた。

 契約さえ守ってくれるならば、とやかく言うつもりはないらしい。


 そのときだ。


「すみません」


 どこからともなく老婆が現れた。

 彼女は控えめに玄関をノックした。


「おおっと、おばあさん! てことは、こいつか!」


 またしてもテロップが流れた。


{おばあさん:とある怪談を聞くと、三日後に現れるぞ。おばあさんは、髪を渡すように要求してくるけど、断ると死ぬらしい。植毛でもすんのかな?}


「あなたの髪をいただきたいのですが……」


「いやです!」


 男は間髪いれず、なんならまだ言い終わってないのにはっきりと拒否する。

 もちろんこれはわざとだ。


「さようですか。ならば、仕方ありません」


 バキッ


 老婆が手をかけた瞬間、ドアノブがはじけ飛ぶ。

 鍵ごと破壊した彼女は、ゆっくりと家に……。


「失礼、レディー」


 スーツの男が手を差し出し、遮った。


「彼の魂は私のものです。いくらお美しいあなたであっても……」


「なんじゃと?」


 両者はにらみ合い、硬直する。


「ここでまさかの制止だ! 一回戦はこの二人に……ん!?」


 どこからかアニソンが流れ出した。

 カメラがぐるりと回り、スマホを映し出す。


「電話がかかってきました! たぶんこのタイミングは……もしもし?」


「私メリー。今○○駅にいるの」


「オーケー! 自己紹介ありがとね!」


{メリーさん:彼女について知ってしまうと、電話がかかってくる。少しずつ近づいてきて、最後は後ろに来て殺されるぞ}


「いや~、三日後に来てくれるかはわかんなかったんで運がよかったですね。ただ……」


「そこをどけと言っとるんじゃ!」


「いえ、それはできかねます」


 カメラをモニターに戻すと、玄関での言い合いはヒートアップしていた。

 てか、モニター越しではなく、生の声が玄関から聞こえてくる。


「ゆっくり来るメリーさんは間に合うかな? まあ、ここらへんは駅とかも全然ないし、直通で来てくれ……」


 ガタガタガタガタ!


 と、話しているとなにかが激しく揺れる音がした。


「なんだなんだ!?」


 カメラを窓に向けると、窓枠が外れんばかりに震えている。

 しかし、地面は動いていないので地震ではなさそうだ。


「か……え……せ」


「あ、皆さん聞こえました!? かすかな声が!」


{神社のなにか:とある神社の境内の石を持って帰ると、三日後に「かえせ」って声が聞こえて死ぬらしい。ちなみに、これが初詣だったぞ}


「あ、石はこれね! ホンモノー!」


 男はカメラに向かって真っ白なテカテカ輝く石を見せる。

 心なしか、石からは黒い煙が出ているようにも見えた。


「正直こいつは実体がないんで、一番怖いっすね。だって、カメラに映らなくて撮れ高あんまりだし」


 撮れ高がないことを怖いと評する男の顔からは、ちっとも恐怖は感じられない。


 ガタガタ……コン……ガタ……コンコン!


「あれ? なんかノックも混じってない?」


「おにいちゃん……?」


「おっと、このかわいい声は!」


{寂しがり屋な女の子:とある住所に手紙を出して、三日以内にそこを訪ねないとやってくる。なお、その住所には家が建っているが、かつて殺人事件が起こったので今は誰も住んでいない。手紙なんて年賀状以外で初めて書いたかも}


「どうして遊びに来てくれないの?」


「えーとね、ちょっと忙しくて……」


「ウソつき!!!」


 幼い少女らしからぬ大声が耳をつんざき、窓ガラスが砕け散った。

 外からは夏らしからぬ冷たい風が吹き込んでくる。


「あちゃー、ガラス割れちゃったかー。修繕するのお金かかりそうー」


{気にするのそこw}

{もう死ぬから関係なくね}

{そこから入ってくるんじゃ?}


「わあ、その通りだ! 聞こえるかな、この足音!」


 ギシギシと廊下のきしむ音がする。

 その音は、だんだん近づいてきている。

 しかし、音のする方にカメラを向けてもその姿は捉えられない。


「さて、このままだとゴースト・ガールが俺を殺して優勝しちゃうけど……うおおっ!?」


 地面が激しく揺れ始めた。

 立っていられないほどの揺れに思わず床に手をつく。

 しばらくそうしていると、外から激しい緑色の光が差し込んできた。


「この光は……! なるほど、これは地震じゃなくてこいつの仕業だ!」


{エイリアン:○○山の山頂で儀式をすると、三日後にアブダクション(誘拐)しに来る。普通に山登るの疲れて、まだ筋肉痛だぜ。}


「なんか今回は家ごと持っていく気らしい!!!」


 あちこちの柱が軋み、不気味な音を発している。

 もう崩れるのも時間の問題だ。


「もう優勝は宇宙人で決まりかな!? そう思う人はぜひチャンネル登録を……」


「困るなぁ、こんなことしちゃ」


「あ……え?」


 激しく揺れるカメラは、白衣を着た男性を捉えた。


「君、ちょっとついてきて。話を聴かせてもらえるかな?」


「と、いうことは! あなたは……」


「あ、待て。ライブ配信はここまでだ。おい、視聴者の君達もこんなバカなことは絶対にするなよ?」


「まさかの展開! 優勝はこの人だ!」


「おい、切るぞ」


 そう宣言したと同時に、画面は暗転した。


[は?]

[いや、おちテキトーすぎ]

[しんだの?]


 視聴者が配信終了前に見たテロップは。


{秘密組織:オカルト関係のことについて調査している組織。怪異と関係がある人のところに訪れる。運が良ければ、彼らにも会えるかも? (それまでに死んでなかったらだけどねw)}

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