第6話 Time After Time

 それから、僕は生と死のはざまにいた。

 それが現実なのか、僕の頭の妄想なのかはわからない。

 

 ミイは何度も何度も鳴き、僕の朦朧とした頭はそれを人間の言葉として感じとっていった。

 僕からも口から発しない言葉をミイに返した。


「ようやく気が付いたね」

 ミイが確かにそう言っている。


「ミイ、今頃気が付いてごめん」


「私ずっと呼びかけてたのよ、前の猫の時から、何度も、何度も」

「悪かった。まさかミイが君だったなんて」


 高校3年生のあの雪の日の姿が重なる。


「でも、なんで僕の所に?」

「私ずっと待ってたんだよ、声を掛けてくれるのを。なのに一度も……」

「そんな、そうだったのか……」


「でも、最後の年月は猫だけど一緒に居られたから良かった」

「ああ、もっと早く気が付いていれば」

 涙がぼろぼろとこぼれる。


「でも今は幸せでしょう? 違う?」

「その通りだ。最期にこんな奇跡があるなんて」


「まだ終わりじゃないよ」

「どういう事?」


「あなたも猫に転生してもらう」

「え?」


「これから猫同士で新しい生活をするの」


 僕は思いがけない彼女の申し出に最初は驚き、次に心が温かくなり、やがて死を全く恐れることがなくなった。むしろ早く新しい世界に行きたい。


 僕は最期にミイの頭をゆっくり撫でた。

 とても柔らかく優しい毛だった。

 彼女の小さい頃の長く細い黒髪を触っているようだった。


 僕はすっかり気持ちが良くなって、永い眠りについた。


  ◇ ◇ ◇


 後日、自宅を整理しに来た兄が、道端で二匹の白猫を見かけた。


 春はまだ先だと言うのに、ポカポカした陽だまりの中で、その二匹の白猫は楽しそうにじゃれあっていた。



 End


※この物語はフィクションです。一部を除いて

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Time After Time 🌳三杉令 @misugi2023

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