第5話 ミイの泣きぼくろ

 記憶の底に埋もれていた想い出が甦った。

 はかない、しかし年齢を重ねても消えない記憶というものが存在する。

 

 僕は決心した。彼女が写っている写真を手元に置き、最後の体力を振り絞って、昔の友達数名に連絡を取った。

(彼女のその後が知りたい……)


 奇跡的にそれを知っている者がいた。

 しかし、後悔した。聞くべきでは無かった。


「〇〇? 確か、何年か前に大きな地震があっただろ、あれで死んだって聞いたよ」


 茫然となった。

(死んだ、彼女が? まさかそんな……)


 僕は駄目元で、その地震と彼女の名前をインターネットで検索した。すると、ヒットした。ヒットしてしまった。


 被害者名簿に彼女のフルネームが乗っていた。年齢も合致している。

(間違いない。でも旧姓のまま?)


  ◇ ◇ ◇


 もう精魂が尽き果てた。ベッドに横たわった。


(もういつ死んでもいいや)


 やり残したことはない。


 ミイ、と横の猫が鳴く。

「ごめん。もう餌やれないんだ」


 ミイは顔を近づけてきて、繰り返し鳴く。


「もう動けないんだ。餌はやれないって言っているだろ!」


 涙が頬を伝う。


 涙を拭くとまだミイの顔がすぐそばにあった。

 まん丸の目で僕の事を見つめている。


 僕は、ミイの目を見てふと気が付いた。

 

(この猫、泣きぼくろがある)


 まん丸の目の下の縁に小さな黒い点があるのに初めて気が付いた。


「待てよ」


 僕は初恋の彼女の写真をよく見た。そう言えば彼女にも泣きぼくろがあった記憶がある。


「同じ場所にほくろがある……」


 何とかスマホをいじって、猫をいろいろ検索してみた。そんなところにほくろがある猫は滅多にいない。意識が朦朧としているから、そんな事が気になるのか。


 次に僕は、1代目の猫の写真を探した。

 すると、何と1代目にも同じ場所に泣きぼくろがあることがわかった。


 もう頭は混乱して何もわからなかったが、僕の心臓と呼吸が重大な事実を感じ取っていた。

 目から再び涙が流れ始めた。


 「まさかお前達、彼女の生まれ変わりか?」


 ミイは鳴かずにじっと僕の目を見つめた。

 そしてミイの目からも涙がこぼれた。


 僕は奇跡が起きていることを悟った。

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