第7話

息子はまだ帰らない。

今の職場はこれ以上休んだらクビになるかもしれない。


こんな時、あのアクスタがあれば、苦しい気持ちを聞いて貰えたのに。

いつのまにか大量にグッズを集めたけれど、その中でも、あれがいつも心の支えだった。


でも、息子の言うように、ちょっとのめり込み過ぎたかも。

推し活はグッズが無くても、気持ち一つあれば何時だって出来る。


自分の楽しみより、今はなり振り構わず塾代を考えなければ…。


そう思って、一番のお気に入りからフリマアプリで断捨離を始めたのだ。

これから、昔趣味で集めた洋食器も手当たり次第に出品していくつもりだった。


しかし、もう手遅れかもしれない。

息子は本当は、塾なんて行きたくなかったのかもしれない。

私の前で猫を被り続けるのに飽きたのかもしれない。


息子は帰って来ないのだ。

せめて、彼の本音を聞きたかった。


リビングのキャビネットは、少しだけ隙間があるような、大切な物を無くしたような風貌で構えている。


ふと、何か物音がして、息子の部屋を見に行ってみた。


すると、大きな背中を丸くして布団に潜っている息子の姿があった。


どっと涙が溢れた。

布団を引き剥がし、確認する。やっぱりうちの子だ…!


良かった。本当に良かった。

覆い被さり、背中をギュッと強く抱き締める。


息子は未だ夢うつつのようで、寝ぼけた声で

「あれっ、彼女は?」

と一言、ポカーンと口を開けている。


私はその阿呆面に、急に可笑しくなって、泣きながらお腹を抱えて大爆笑していた。


彼はやっと腑に落ちた面持ちで、私に言いたいことがある、という。

私だって沢山ある。


じゃあ、せーのでお互いにね、と合図する。


せーの、


「「いつもありがとう、大好きだよ」」


fin

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目が覚めたら母ちゃんの推しのアクスタだった件 つきたん @tsuki1207

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