第6話


俺は今日も全身に賛美の言葉を浴びている。相変わらず顔は動かないが、(心で)ついニヤけてしまう。


「ねぇ、あなたは、どんなパートナーがタイプなの?私はねぇ、あなたみたいな人!」


彼女の指が、お腹を擽る。

俺はニヤけが止まらない。


「あなたみたいな天才も、一生懸命、血の滲むような努力をしたから、今があるのよね。


私も、喘息になんか負けないよ。

パパもママも反対しているけれど、大学に行きたいの。一生懸命、勉強頑張るわ!」


…喘息?

受験が大変な程、重いのか。

全然、気付かなかった。強い薬で抑えているのだろうか。


そう言えば、いつも昼過ぎには帰宅する。部活もやっていないのか。


俺は、彼女と自分の境遇を比べてみる。

彼女は家では明るく振る舞っているが、学校に居場所はあるのだろうか。


俺には軽音部の仲間がいる。勉強は好きでは無いが、塾に行かせてもらっている。


かーちゃんが一人で一生懸命頑張って、行かせてもらっている。


俺は家では文句を言ったことがない。

その分、学校では嫌なことがあれば他人のせいにする癖がついていた。


歌が上手く歌えないと、よく練習をサボり、同じバンドの奴らに迷惑も掛けた。


俺には、はたして本気で一生懸命に頑張った事があるのだろうか、と考えてみる。


…分からなかった。

唯、早く家に帰りたいと願った。


そこで俺の記憶はプツリと途切れる。

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