第10話

 「これでわかったでしょ?女は獣なんだって」


 腰が砕けた俺を見下ろしながら、有紗が問いかけてくる。 

 

 「進作君、君が気づいていないだけで君を狙っている人は周りに沢山いるの。だから、こうして警告をしたわけだけど……。まだ理解してないようなら……」


 俺は首を力なく横に振るった。ここまでされて、理解しない程阿呆ではない。


 「そ、ならいいわ」

 「お兄、これからは『極力』女と関わらないようにね」


 満足げにうなずく芽衣と腕を組んで念を押す有紗。二人の目的が俺の危機感のなさを自覚させるためというのはわかっているが、しかしどこか楽しそうな顔を二人がしているような気がするのは俺の気のせいだろうか。


 「あ、そうそう。お兄に一つ聞きたいことがあるんだけど」

 「な、何?」


 まだ回りきらない舌、どうにか返答して質問の続きを促す。


 「明日からどうやって学校生活を送るつもりかな?」


 どうやって……。

 自分の生活を見直すというより変える必要が出てきたのは確かだが、いきなり今までの生活を全て変えるというのは難しい。人は簡単には変われないのだ。それを有紗も理解しているからこそ、こんなことを聞いてきたのだろう。

 全てを変えられないのは承知の上で、一つずつ変えていけと言っているのだろう。


 「とりあえず、関わる回数を減らそうと思う」

 

 じっくり考えた末に出てきた回答がショボいし、まるで相手のことを考えていない自分勝手な内容だが、彼女たちの目を見る限り生半可な答えでは納得してくれそうにない。万が一さっきのようにまた責められたら、お互いにブレーキが壊れてしまう気がするのだ。


 「ふぅーーん。お兄それ、できると思って言ってるの?」

 「うぐっ…」

 「無理だと思うわよ。少し見ただけでわかるくらいには、あのクラスの女生徒は皆進作君のことを狙っているみたいだったし」


 えっ?!

 

 「あ~、だめだね。この反応でわかるもん。お兄が気づいていなかったことがさ」

 「この時世で、そこまで鈍感なのはどうにかしたほうがいいけど、とりあえず今出来ることは、教室に滞在しないことね」


 教室に滞在しない?

 それはつまり、学校に行くなということに等しいのではないのか?


 「授業には出て、休み時間中だけ避難するの。都合のいいことにあの空き教室は人がほとんど来ないから、そこにいるといいわ」

 「それが懸命だね。お兄は結構優しい……言い方を変えると断れない人だから。物理的に距離を置くのが確実な方法になるよね」

 「………」


 真剣に議論する二人に俺はついていけない。だから他の男子生徒はどうしているのだろうかと一人考える。彼らは、基本的に話さないと誰かの会話から聞こえたことがある。でも、実際どうなのだろう……。明日にでも聞いてみようかな。


 そんな風に考えに耽っている間に、どうやら二人の議論も終わったようで向き合っていた二人が同時に俺のほうに向きなおった。


 そして……。


 「お兄は、」

 「君は、」


 「「休み時間の間トイレに籠ること!」」


 と、何やら不穏な結論が俺に告げられた。


 

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ヤンデレ姉妹があまりに過保護 @23232323232

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