第9話

 「家族会議をします!」


 二人と共に家に帰り、リビングでダラダラと過ごしていると急に有紗が声を上げて言った。


 「急にどうした?」


 「お兄の危機感が無さすぎるからだよ?」


 危機感……。

 前にも言われたな。これでも俺からすれば十分に危機管理をしている方だと思っているのだが……。


 「それに関しては私も気になっていたのよ」


 着替え終わって二階の部屋から降りてきた芽衣が有紗の仲間に加わる。

 

 「そう言われても、俺的には……」


 「自分の身を守ってるつもりだ、でしょ?」


 芽衣に言いたかったことを読まれ先に言われてしまう。俺は言葉に詰まり代わりに頷く。


 「お兄の中ではそういうつもりでも周りから見たら、お兄それは全く持って足りないの!」


 「た、足りない……」


 「まだ、二日間しか見てないけど確証を持って言える。なので、今からお兄に世の中の女の恐ろしさを徹底的にわからせます」


 えっ!?


 「なんか、こう……。もっと気をつけるべきことを教えてくれるとかじゃなくて?」


 「言ってるでしょ?お兄はわかってないから、そんなふうに無防備で居られるんだよ。だから、わからせてあげる、私達姉妹二人で」


 「有紗、やるならとことんね」


 「わかってるお姉。これは私達のお兄を守るためだから」


 横にいた芽衣が寛ぐのをやめて俺の腕を掴む。この前同様怒りを少し含んだ目をしている二人を見て、俺は逃げられないことを悟った。


 「まず第一に、女は皆男を狙ってる。ここ最近ますます独身男性が減ってきて、今の世の中男一人で出歩こうものなら、すぐに喰われるわ」


 確かに今朝のニュースでそんなことを言っていた。確かに顔がカッコイイ人とか、雰囲気がイケメンな人とかなら襲われるのも理解できる。けど、俺はどちらも持ち合わせていない。だから、自分には関係ない話だと思って聞いていた。


 「……顔とか、今はもう関係ないわ」


 返事のない俺が、何を考えているかを察したのか芽衣が呆れたように言葉こぼす。


 「そうだよ、お兄。さっきお姉が言ったように今独り身の男の人は少ないの。だから、顔とか関係なく付き合うんだよ」


 「付き合うったって、互いの合意がなきゃ……」


 「だからさぁ、襲うんだよ……。そうしたら既成事実が作れるから」


 「……」


 衝撃的だ。最近のやたら多いと事件が、そんな理由で行われていたなんて。

 

 「さて、無防備なお兄。少しはわかった?」


 腰に手を当てて、有紗がフンと鼻を鳴らす。

 

 「襲われる理由はわかった。でも……」


 「はぁー、まだ言うか……」


 「有紗、やっぱり体に直接わからせないと駄目みたいだわ」


 「だね。お兄のためだもん。仕方ないよね」


 「ええ、これは仕方のないこと」


 俺が反論、というか質問をしようとした途端二人の雰囲気が変わる。説明はできないけど、さっきまでの説教みたいな雰囲気じゃない。


 ドロッとした嫌な感じ。


 二人の仄暗い目には光がない。あるのはまるで、獲物を視界に捉えたときの猛獣のようなギラギラとした目。


 ジリジリと迫ってくる二人。蛇に睨まれた蛙のように少しも動けない俺。必然俺達の距離はゼロに近づいていく。

 

 何をされるのか全く想像がつかないが、碌なことじゃないのは確かだ。


 二人が、世の中の女性を警戒している理由はわかったが、だとすると学校に通っている男子生徒の疑問が残る。

 彼らは俺も含めてだが、基本的にそういった性被害に合ったという話は聞かない。俺に男友達がいないから。と言われればそこまでだけど、だとしても皆平然と登校してきている。


 俺は自転車で爆走して行け!と母さんに言われているから従っているけど、中には徒歩で来ている男子生徒だっている。


 だからだろう。有紗と芽衣の話を聞いても実感が湧いてこなかったのは。


 ……でも、今ならわかる。どうやったって逃げられない状況の、とてつもない恐怖が。男が女に絶対に勝てないという圧倒的なまでの力の差が……。


 二人の目を見て、俺は「やめてくれ」と訴えるが二人は止まらない。


 ゆっくりと近づいて来ていたはずの二人の体はすで俺に密着していて、二人に挟まれて身動きが取れなくなる。


 「はむっ。んっ……。はぁ、ふ……。レロレロ」


 そして、何を思ったのか左耳を有紗が咥える。咥えた瞬間、耳の中に舌が入ってきた。


 「んっ、はぁ~。ペロペロ」


 有紗の奇行から一拍おいて、右耳に息を吹きかけた後、芽衣が耳のペロペロと舐めだす。


 はぁ~と息を吹きかけペロペロと耳の外側を舐める芽衣と、コロコロと耳を頬張り舌で転がす有紗。


 自然と俺の体はピクッと反応を示してしまう。


 「んっ……、ふはぁ…、レロ。んちゅ……」


 「ん、ふ〜〜。ペロ。はむっ……。んっ」


 耳の中でなるコロコロとした音と遠慮がちに舐められてくすぐったい耳たぶ。その異なる二つの感触で俺は気付けば腰が抜けてしまっていた。


 (ヤッ、バ……)


 脳内を段々と快感が支配していく。ただただ耳を舐められているだけなのに、気持ち良くなってきている。


 息がどんどん浅くなっていく。考えることが出来ない。抵抗することが出来ない。何もしたくない。


 ペロペロ、コロコロ。ペロペロ、コロコロ。


 二つの音で体が溶けていく。



 …………。



 どれだけ時間が経ったのか、どれだけの間二人に責められていたのか、全くわからないがようやく二人の耳責から俺は解放された。

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