第8話

 昼休みになってから少し待つと、昨日と同じように有紗が教室に顔を出した。


 「行くよ、お兄」


 「……わかった」


 一度見ている光景だからかクラスメイトからの反応は昨日よりも薄かったが、何故か古賀さんのいるグループの方から睨まれた気がした。少し気になったけど、有紗がスタスタと先に行ってしまうので慌てて付いていく。


 昨日と同じ空き教室に着いたところで有紗が突然振り返る。驚いて危うく後ろに倒れるところだった。


 「ど、どうした?」

 

 「お兄はさ、気にしなさすぎだよ……」 


 そんなことを言われて、思わず首を傾げてしまう。気にしなさすぎ……そんな事はないと自分では思っているつもりだけど。有紗には何か気掛かりな事があるのだろうか?


 「……何を?」


 だから、思考を打ち切り有紗に尋ねた……。


 けれど有紗は既に空き教室の中に入って行っていて、俺の質問は意味をなさなかった。




 結局何も聞けずに昼休みを過ごし、気付けば帰宅する時間になってしまっていた。とはいえ、普段のように急いで帰る必要が今日はない。朝のように有紗と芽衣と一緒に帰る約束をしているからだ。


 なので、今はボーッと二人を待っている状態だ。


 俺と芽衣が有紗の教室に行くほうが絶対に早いし二度手間にならないはずだと今朝提案したが、その提案は二人にとって考える余地すらなかったようでスッパリ断られてしまった。


 何が理由かは教えてもらえてない。


 昼休みのことも含めて下校中に聞けばいいかと考えていると、視線を感じてそちらを向く。古賀さんと仲良くしているクラスメイト。えーと、確か……真田さんが隣の椅子に座ってこちらをジッと見ていた。


 「えっと……何かな?」


 「なるほどね、こうやって見ると古賀っちが気に入ってるのも納得かも」


 気に入っている?古賀さんが俺を?


 何をおかしなことを……いや、気に入られてはいるのか。なんたってパシリだし。


 「ねね、あの転校生二人と兄妹って聞いたけどホント?」


 体をこちらに近づけて、やや興奮気味にそんなことを聞いてくる真田さん。何となく嫌な予感がするけど、嘘を吐くのも違う気がして正直に答える。


 「そうだよ」


 俺は嫌な予感を信じて、出来る限り端的にそれ以上のことを話さないように答えた。

 

 「義妹……なんでしょ?」


 「………」


 そりゃそうか……。古賀さんと仲が良い関係なら聞いているか。


 「そうだ、ね!?」


 「ん?急に声が上がったけど、何かあった?」


 「ねえ、お兄……いい加減にして」


 真田さんの声に被せるように、有紗が食い気味に声を出しながら教室に入ってきた。


 そして俺の後ろに周り、俺を立たせようと脇腹辺りを掴んでくる。


 「あー、ごめんね?」


 真田さんが、申し訳無さそうに手を合わせ片目を伏せて謝罪している様を横目に、俺は義妹に脇腹を掴まれて強制的に立たされる。


 「真田先輩。お兄に手を出さないで下さい。私もお姉もそんなに寛容ではないですから……」


 「そっか、ごめんね。でも……」


 「…?」


 「いや、やっぱり何でもない。肝に銘じておくよ有紗ちゃん」  


 「……失礼します」


 二人がそんな訳のわからない会話をした後、俺は有紗に連れられて教室から出ていくのだった。

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