美少女の水着姿を見てしまう話。しかも水がしたたっている。

た〜にゃ

ありがとう水

夏の日差しは遮るものがなく、ぼくを熱心に照らしている。やけに熱心だ。そんなに熱心になるのであれば、他のところを照らしてはどうか、とも思うが、周りを見渡すとその熱心さはプール全体に行き渡っていることがわかる。逃げ場はない。


ぼくは水着姿で体育座りをし、プールサイドで同級生が25mのタイムを測定するのをぼんやりと見ていた。ぼくの番はおわったので、することが特に無いのだ。そこかしこで、クラスメイト同士が何やら話をしている。結構な騒音になるが、ぼくがその騒音に加わらないのは友達が少ないからだ。少ない――話を盛っているわけではないことに注意すること。


ぼくの通う高校は少しめずらしく、なんと男女共同でプールの授業がある。高校生ともなれば身体はそれなりに育っているわけで、そんな中でプールの授業を男女共同で、しかもスクール水着で行うのは、大丈夫なんだろうか。大丈夫なんだろうか、というのはつまり、えっちすぎやしないか、ということである。


実際、男子は話をしながらプールの逆サイドに座る女子の方をチラッチラッと見るのに忙しいようだ。堂々と見ればいいのに。そして女子に殴られてしまえ、とも少し考える。ぼくは、品行方正なのでそのようなチラ見はしない。ただ一人を除いて。


僕にとって彼女のことは、控えめに言って、お気に入りだった。特に強い接点があるわけではない。隣の席であること、おはようの挨拶をすること、ごくまれに教科書をみせてあげること、そのくらいだ。でも、彼女についてはもう少しぼくは知っている。自分のことはボクと呼ぶこと、少しおどおどしているところ、本を読むのが好きなところ、小さい割にお肉がすごく好きなところ、など。意外と長いまつ毛の横顔がふっくらしてかわいいところは、なかなか横顔を見つめられる機会がないため、再確認の機会を待っている。


彼女は女子の集団の端の少し後ろの方に座っているため、ここからは良く見えない。日光は容赦なく女子も照らしているので、居場所さえ良ければここからも少し見えたかもしれない。若干、神を恨む。


などと考えていると、体育教師からの号令がかかった。そろそろ水泳の授業は終わりのようだ。女子から順番にシャワーを浴びて着替えるように言われる。


おっ、と思ったのはそのときだ。彼女は、女子の中でも最後尾に近いところでシャワーを待っているようだ。ピン、ときたぼくは、なんでもない素振りで、その実多分にキモい動作で、男子の先頭に躍り出た。そうすれば、彼女の水着の後ろ姿を拝めるかもしれない、と思ったからだ。


果たして、彼女の後ろ姿をはっきりと見ることができた。女の子のなかでも頭ひとつ低い身長に華奢な肩、ショートカットの後ろ髪、肉付きはあまり良くないふくらはぎ、すこしのぞく背中と肩甲骨……女の子たちの記号の中にあって、彼女の後ろ姿は特別に見えた。


その彼女の姿が、シャワーを浴び、シャワーが止まった瞬間にさらに特別なものへと変わった。びしょびしょに濡れた頭や身体からは水がしたたり、そして、その水は彼女の股間からも垂れているのである。この股間から垂れる水は、一部ネットスラングで、ありがとう水と呼ばれるものだ。ありがとう、感謝の言葉。その感謝は神へのものか、彼女へのものか。夏の日差しはまだ強いままだった。


ふっ、と彼女がこちらをふり向き、ぼくとばっちり目が合ってしまった。びくん、と彼女は肩を震わせ、急いで前を向いてしまった。これは、もしかして、やってしまったのでは……彼女はそそくさと更衣室に去ってゆく。これは、もしかしなくても、やってしまったのでは……眼の前が真っ暗になるような気分のまま、ぼくはがっくりと肩をおとし、シャワーを浴びた。火照った身体にシャワーは冷たく気持ちよかった。

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美少女の水着姿を見てしまう話。しかも水がしたたっている。 た〜にゃ @rizkubo

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