第43話 悪役に相応しいエンディング

 どこまで行けばいいのだろう?

 どこまで殺せば、彼女達を守ることができるのだろう?


 次々に襲いかかってくる決死の覚悟を決めた兵士達。

 どいつもこいつも諦めが悪いなと思いつつ、終わりのない襲撃に嫌気が差し始めていた。


「あー……、やっぱフラグだったな。勇者の生まれ変わりで正義の味方で終わるよりも、魔王として討たれる方が俺らしいか」


 苦笑を溢しながら無人の城下町を見下ろした。転生前の俺は、この世界を守りたくて戦っていたというのに、今は壊す為に剣を振るっている。


「随分遅かったじゃねーか。待ちくたびれたぞ」


 セシル、リース、ロックバード、エディ。かつて愛した覚醒者が勢揃いた。

 それにしても、こうして客観的に見ると美しいな。圧巻だ、完璧美だ。あんな綺麗な人達とイチャイチャしてたのか、昔の俺。


 こりゃ、お偉いさん達が悪巧みをしてでも、囲いたかった気持ちが痛いほどわかる。


「……サキ、随分と派手に暴れたのね」

「ん、そうか? だってコイツら、派手に抵抗するからさ。仕方なかったんだよ」


 国同士で喧嘩をするよりは被害は少ない。けど一人で殺したには多過ぎる残虐非道の末路。

 きっと俺は史上最悪な危険人物と名を馳せただろう。


 頭が潰され、原型を留めない死体を横目に、嘔吐を堪えながら話し出した。


「こんな方法を取る前に、一言相談してくれても良かったのに。これじゃサキだけが悪者になってしまうじゃない」

「ん、いいだろ? 俺一人が悪役になるだけで皆がハッピーエンドになるなら。そういやセシルと出会った頃、そんな会話をしたよな?」


 あの時は冗談だろと笑って済ませたが、もう手遅れだ。

 けどねセシル。俺はお前達が幸せになってくれるなら、喜んで首を差し出す所存だ。


「しかしさ、かつての俺……リンク様はどんなつもりで世界を救ったんだろうな? やっぱ俺のように覚醒者達が幸せに暮らせることを祈りながら戦ったんかな?」


 様々な攻撃を受けて崩壊した、かつての形を失った城内を見渡した。

 俺の敵は人間になってしまったが、きっと愛する人を想いながら戦った気持ちは同じだろう。


「え、お兄ちゃん……っ、何で? どうしてボクらと一緒に帰ってくれないの? ボクら、お兄ちゃんを匿うよ? そういう作戦だったでしょ?」

「そうだよ、サキくん。サキくんを封印っていう体にして、アタシ達のところに連れて帰るから、一緒に行こうよ」



 うん、ロックバードとエディのコンビは癒されるね。

 俺も最初はそのつもりだったんだけど、やっぱねー……許されないんだよ、それじゃ。


「俺はね、皆に幸せになってもらいたいんだ。王族の末裔が勇者になるんじゃなくて、お前達覚醒者が俺を討つんだ。そうすることでこれから先に生まれてくる覚醒者達の地位も確立されるんだ。俺はそういう世界を願っているんだよ」


 その為なら、俺は喜んで悪役になってやる。

 その為に、残虐な殺人行為を繰り広げたんだ。俺に殺害された骸達の為にも、頼むから———俺を殺してくれ。


「ほらほら、最期に熱い抱擁を交わしてやるから。な?」


 だから、泣くな? ほら、皆のまとめ役のリースまで泣いちゃ、収集がつかなくなるだろう。


「サキ……っ、こんなの間違ってるよ……っ! なんでこんなことしか選べなかったの?」


 悪いな、セシル。俺はバカだから、こんな方法しか思いつかなかった。皆を全身で迎え入れて、強く抱きしめた。


「おそらく派手に暴れまくったから、そんな俺を倒したお前達に手を出すようなバカはいねぇと思うけど、それだけが気掛かりなんだ」


 彼女達は本当に強いから問題ないと思うけど、やっぱいざっていう時に守れないのは辛いな。


「セシル、俺は初めてあったときからセシルに一目惚れしたんだ。こんな美人なのに毒舌で、少しおバカなところが好きだった」


「やめてよ、そんな……最期みたいな言葉。私はまだ、サキといろんなことをしたかったのに」


「リース、君は誇り高くて、凛々しくて……弱者を懸命に守る姿に心を打たれたんだ。特に君のおっぱいは、世界すら救える最高の癒しでした」


「ふふ、サキさんは相変わらず掴みどころのないお人でしたね。こんなことなら……回りに気を使わないで甘えれば良かったですわ」


「ロックバードは……その天真爛漫で無邪気に慕ってくれたことが、本当に嬉しかった。メルディの顔がチラついて、思うように好意を伝えられなかったのが気残りだったよ」


「今からでも遅くないよ、お兄ちゃん。ボクももっとお兄ちゃんとイチャイチャしたかったー」


「そしてエディ……最初はロバートにばかり懐いてたけど、最終的には俺を選んでくれて嬉しかった。本当はずっとロバートに嫉妬してたんだ」


「アタシもサキくんとイチャイチャしてた皆のことが羨ましかったんだよ? せっかくこれから皆で仲良くなれると思ってたのに……」


 こんな自己中心的な選択しか選べなかった俺を許してほしい。

 首筋にナイフを当てて、グイッと刃先を食い込ませた。このまま一思いに———……。


「俺が死んだ後は、首を晒してくれ。魔王は討ち取ったと」


 鮮血が辺り一帯に散り散った。が、痛くない………何で?

 ゆっくりと首筋を拭ったが、べちょっと、手のひらが真っ赤に染まるほど溢れていた。なのに、なぜ?


「君って人は、本当に酷い人間だな。こんなにも慕ってくれる女性達がいるっていうのに、勝手に死のうとするなんて」


 周りを見た渡すと、まるで時間が止まったかのように動きが静止していて、俺と彼女……マリッシュの身体を借りた女神以外は、完全に止まっていた。


「救ってほしいとは頼んだけど、こんな荒っぽい方法は想定外だったな。全く、君も皆も……何で思惑通りに動いてくれないんだ?」

「そりゃ、この世界を統べる女神がこんなんだからじゃねぇの? あんたが最初から導いてくれてりゃ、少しはまともな未来になったと思うよ」


 そっかーって楽観的な言葉で納得してたが、待て待て。

 俺、こんな傷を負ってるんだけど、どうなんの? 死ぬの? 生きるの? どっちなの?


「別に佐伯くんが死ぬことはないんじゃない? 皆で魔王軍に寝返っちゃえばいいじゃん」


 は? コイツ、何を言ってるんだ? せっかく俺が正義の味方に仕立て上げようとしてるのに、いらないことを言うなコンチクショー。


「どう考えても英雄の方がいいだろう? わざわざ悪役に落ちる必要はねぇよ」


「えー、佐伯くんは人間が正義だと思ってるの? あれだけ非道なことをしまくってたのに? あり得ない、あり得ない」


 あー、この女神……ぶん殴ってもいいかな? いいよね、散々ふりまわされたんだ、それくらい許されるだろう。


「前の君、リンクも同じようなことを言っていたんだよ。ほら、覚醒者は四人でしょ? その中から一人は選べないから、それぞれ地位のある人に嫁がせて、自分は対して好きでもなかった王女様と結婚して」


 なんだ、それ、初耳なんだけど?


「だから、そもそも君が美人達覚醒者をお役人達に当てがったのが始まりなんだよ。責任を持てなくて投げた結果が現状。そして君も、無責任に賽を投げようとしている」


 違う、俺は自分の命と引き換えに、彼女達を幸せにしようと。


「本当、有難迷惑っていうんだよ、それ。君には本当に正しい決断を選んでほしいんだ」


 正しい……? 何だよ、それ……。


 眩しい光と共にマリッシュが消えたかと思うと、今度は体の力がなくなって、そのまま倒れ込んでしまった。


 目を覚ました時には俺の傷は完全に治癒されており、同じ過ちを繰り返さないようにとナイフを没収されていた。


「サキ、サキ……っ、やっぱり私たちには無理よ……! サキが死ぬなら、私たちも死ぬ」

「そうですよ……サキさんがいない世界なんて、生きていても意味がありませんから」


 おいおい、そんなことを言われたら……もう死ねないじゃないか。

 何の為に頑張ってきたのかも分からない。


「サキくん、皆で生きよう……? 人間界で生きていけないなら、魔族側に寝返ってもいいし。向こうは実力主義だから、サキくんの力さえあれば問題ないし」


 皆で魔王ファミリーにでもなっちゃう? 丁度四人、四天王と魔王で世界を制圧してしまうか?


「お兄ちゃんが魔族側を制圧してしまえば、結果的に世界を守ってることになるんじゃない?」


 お、ロックバード、冴えてるね。

 それじゃ、皆で寝返るか。


「いいのか、本当に……俺なんかの為に」

「何を言ってるの、サキ。私達はあなたのことを愛してるのよ。これからも一緒にいられるなら、何でもいいわ」

「程よく、悪い人間だけを成敗しながら魔族を牛耳りましょうか」


 こうして俺達は人間界から姿を消して、魔族へと寝返った。




 その後はロバートが王都を復興させ、再び返り咲いたと噂を耳にした。右腕としてバショウグンを仕えさせて。


 ちなみにザッケルの街に残ったメルディやマリッシュなどは、周りの人間に助けてもらいながら生きていったと聞いた。

 親子が離れ離れになったのは可哀想だったが、ロックバードがたまに人目を盗んで会いに行ってると噂も耳にした。


 そして俺達はというと———……



「サキ、アンタまた私に黙ってリース達とイチャイチャしてたでしょ?」

「げ、セシル……! べ、別にいいだろう? 他の女性と浮気してるわけじゃないんだから!」

「アハハ♪ お兄ちゃん、相変わらずエッチだねー! 今日はボクとも一戦しようよ?」

「もうロックバードは昨日もサキくんと遊んだでしょ? 今度はアタシの番だよ?」

「まぁまぁ、見事に愛憎にまみれた酒池肉林ですね♡」


 欲望に忠実な生活を送っていた。

 色々と規制のある人間界に比べ、力が全ての魔界は俺たちには最高な環境だった。


 人間界も一掃されたおかげで、ロバートの作りたかった平等な世界が実現し始めたし、結果オーライ……と勝手に締めようとしていた。


「もう、サキ……。私達のことを幸せにしないと許さないからね?」


 俺の役目は、まだまだこれからも続きそうだ。





 ………end


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鬼畜王子に襲われたヒロインを助けたせいで、主人公が強制変更されたかもしれない 中村 青 @nakamu-1224

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ