4話 冒険者ギルド


 冒険者ギルドの前に到着。起きてしまったホルスに話しかけ気持ちを落ち着かせている。テンプレとか起きて絡まれたりとかしないよな……


「ふう〜〜〜よしっ、いくかホルス」


「キュイ」


 不安になりながらも、意を決して扉を開いてギルドに入ると、中にいた厳つい冒険者達が一斉に俺を見た。


 うわぁ~めっちゃ見てくる~〜〜

 

 前世の場末の飲み屋の強面達を思いだす。

 やっぱりこの装備だと悪目立ちするな。しかし装備は大事だ。極フリしたのでスキルと装備に頼っているからな。

 纏わりつく視線を無視し、ギルドホールを突っ切り受付に向かった。


「いらっしゃいませ。本日の御要件は?」


「この大陸に来たばかりで。登録をお願いします」


「はい?再発行ではなく新規登録ですか?」


「はい、頼めますか?」


「か、かしこまりました。それではこちらに御記入お願いします。もし書けないようでしたら代筆いたしますが?」


「多分……大丈夫だと思います」


「はぁ……」


 いい機会だ。言語理解を試してみる。うん、読めるし書けるぞ、凄いな!言語理解。


「えっ、レベルが!」


「しーーー」


「し、失礼しました……あの、申し訳ございません。あちらの部屋に御案内させて頂きます」


 書き終わった書類を見て、驚いて大声を出そうとした受付嬢を止める。するとその後、何故か別室に通された。なんだ?ゲームの時のチュートリアルでは無かった流れだ。


「こちらで少々お待ち下さい」


「はぁ……」


 へぇ〜こんな部屋があるのか。少しすると扉を潜りながら大柄な老人が入ってきた。


「とんでもない新規登録者とはお前さんかね?」


あっ!こいつ知ってるぞ!確かにここのギルマスだ。名前は覚えてないけど……


「そうですけど、ギルマスですか?」


「よくわかったのう。わしは、ここの冒険者ギルドのマスターをしておるムスクルスだ。まあ座れ」


「俺はフウガといいます。失礼します」


 老人とわかるのは顔だけ。剥げた白髪の隻眼だが、体の大きさと筋肉量、そして雰囲気も迫力もハンパない。これぞ歴戦の老兵ってやつか。その右手には白くて丸い水晶が握られている。あのアイテムはたしか、魔導具の嘘発見器みたいな水晶だったか?これ関連のクエストには余りいい思い出がない。


「単刀直入に聞く。これに書いたことは事実か?」


「はい、事実です」


「うむ……審議の水晶も青を示している。しかしのう……鑑定士を呼んでくれ」


「今は素材鑑定で忙しく、しばらくは無理かと……」


「そうか……」


 なんか長引きそうだな。面倒くさい……


「どうすれば登録できますか?もしここで出来ないなら他の街に、」


「待て、待ってくれ!」


 埒が明かなそうなので、なら他の場所でと立ち上がろうとすると、慌てて止められた。


「ここで無理なら他の街では尚さら無理じゃ。審議の水晶も真実を示しているが……それでは実技試験で、お主の実力を確かめさせてもらう」


「実技試験ですか?」


 ゲーム時代そんなイベントなかったよな。


「なぁに、簡単なことじゃ。わしと今から試合せい」


「なんで?」


「わしが直接お主の実力を測ってやろう」


「だから、な・ん・で?」


「わしがここで一番偉くて、強く、そしてレベルが高いからじゃ」


「因みにギルマスのランクとレベルはおいくつで?」


「元特級でレベル65じゃ。わし自身お主に興味がある。自分より格上と戦うのは久しい。楽しみにしておるぞ」


「そっちが本音かよ。ふぅ~やれやれだぜ」


「その口調が素か?ガハハハハ」


「あっ!失礼しました」


「かまわん、その口調のほうがわしも気楽じゃ。ガハハハハ」


 行儀よくしていたのに思わず心の声が漏れてしまった。

 そして、やってきました冒険者ギルドの地下闘技場。スキル習得の訓練以外、ゲーム時代は使ったことがなかったな。

 ここで訓練をして熟練度を上げるとスキルの書が貰えたっけ。

 ちゃんと人払いされていて、俺とギルマスに受付嬢の三人だけ。情報の重要性や秘匿性をわかっているのは安心できる。

 受付で俺のレベルを叫びそうになったのは貸一つだな。


「フッフッフッ。それでお前さん獲物はどうする?」


 そう言いながら、魔法袋から大斧を出して両手で持ち構えるギルマス。


 どんだけやる気なんだよ!


 しかし事故でも殺しては流石に不味いよな。訓練が出来るのはありがたいが、対人戦の力加減をここでも学ぼう。取りあえず俺は木剣を収納魔法から取り出した。


「これでいく」 


「おっ!収納魔法持ちか。まあいい、その話は後だ。しかし、わしもなめられたものだな……」


 あれ!試験で訓練だよな。何故そんなにやる気満々なんですか?

 取りあえず色々と試してみよう。準備運動を念入りにして、先ずは怪我しない、させないように気をつけないと。あっ!忘れてた。


「すいません、この子を預かっていてほしいんですが」


「キュキュ♪」


俺は見学している受付嬢にホルスを頼む。こんなことで怪我をさせたくない。


「ふぁ〜〜〜ちっちゃ〜い♪」


「お願いできますか?」


「あっ、おっほん。勿論、任せてください」


「ホルス、ちょっとだけ待っててくれよ」


「キュイ」


「ホルスちゃんでちゅか〜〜〜かわいいでちゅね〜〜〜」


「キュイキュ」


 念の為、懐のホルスを受付嬢に預けた。彼女はその可愛さにメロメロだが、なんだろう。ホルスの仕草があざとい様な気がする。


 訓練場の中央でギルマスと対峙する。念の為に小声で唱えこっそり鑑定させてもおう。


名前ムスクルス

レベル 65

種族 巨人族

職業 闘士

サブ職業 解体師

装備 

剛腕の大斧 攻撃100 自動修復

冒険者ギルドの制服(特大)防御10

冒険者ギルドのブーツ(特大)防御5

魔法袋

HP1512 MP35

攻撃力184 防御力109


 ほうほう、ギルマスはそんなに強かったのか。ゲーム時代は知らなかったぞ。


「待たせたな。それじゃいくぞ」


「かかってこい、フウガとやら」


 正眼に構え呼吸を整える。


(先ずは五割の速さでいくか)


 既にゴブリン討伐で慣れたものだ。


――バシッ


「くっ…………」


 すれ違いざま入れた攻撃が、すんなりと入りギルマスの右脇腹に痣ができた。


「くそっ、随分と速いな、油断したわ!次から、次からが本番じゃ。スキル身体強化、うお~~~」


「わかりました」


 五割であっさりと一本取れた。次は八割の力でいくか……


「仕切り直しじゃ。こい!」


――バシッ

「くっ…………」


 掛け声の後直ぐに、今度は左脇腹に痣が出来る。そして顔を歪め片膝をついたギルマス。


「つっ〜、まっ、まさか、お主さっきのが本気ではなかったのか?」


「今ので八割ってところだ。お陰でようやくPVPの感覚が戻ってきました」


「PVP?なんじゃそれは?」


「いや、なんでもない。次は本気でいく。防御に集中してくれ」


「なんじゃと!うぬぬ〜くそったれが〜〜〜」


 身体も温まってきた。感覚の誤差も理解した。次は全速をためす。ギルマス頑丈そうだし。


「いくぞ」


「こい」


 防御に集中し、体制を低くし大斧を構えて低い姿勢をとるギルマス。しかし、


一一ドン、バシッ、ドッカーン

「ぐぁ~~~」


 左足で蹴り出し思い切り右足を踏み込み、横一文字に木剣を打ち込むと、大斧が弾け飛びギルマスは吹っ飛び壁にぶつかり悲鳴を上げてた。そして俺の木剣も柄を残して粉々になってしまった。

 

 しかし、これで俺が身体強化や補助魔法を使ったらどうなるのだろう。楽しみだが、まだうまく扱える自身が無い。ゴブリンジャイアントとの戦闘訓練?でも剣を使う前に終わってしまったし……


「おい、大丈夫か?これを」

――キュポン


 俺は常備していたハイポーションの栓を抜き、倒れているギルマスに近寄り振りかけた。両腕が痺れてそうだったので手渡せなかった。流石に、ここまでの速さと威力は自分でも想定外だ。そしてやり過ぎたと反省する。


「すまん、助かる」


 おお!回復のエフェクトは親鳥モンスターと同じか。両腕と両脇腹の患部が光り輝くと、戦闘前の状態に戻った。

 なるほどな。原理はわからんが、やはり回復薬は常備しておくべきだな。声が出せなければ詠唱短縮があっても発動キーとなる呪文名が言えない。戦闘でそういう状況になったらと思うとゾッとする……


「痛たたたた……フウガと言ったか?取りあえず部屋に戻るぞ」


「はい、わかりました。ホルスお待たせ」


「キュイ」


「あっ………」


 試合が終わりホルスを引き取りにいく。受付嬢は両手で大事そう抱えたまま、赤ちゃん言葉で色々と話しかけていたのだが、俺が手を出して声を掛けると、返事をしてヒョイっと飛び乗ってきた。いや、そんな残念そうな顔しなくても……


「ありがとうございました」


「い、いつでも面倒見るので、こ、声かけてくださいね」


「はぁ、わかりました」


 礼を伝えると、必死に預かりたいことをアピールしてくる。ホルスは俺よりモテるんだな……


「キュキュ♪」

 

◆ ◆ ◆


 部屋に戻るとお茶とお菓子が用意されていた。随分と待遇が変わったもんだ。

 ホルスは受付嬢のルイーズに俺とギルマスの話中も面倒をみてもらうことになった。あれだけ懇願されたら仕方がない。


「それで、この国に来た目的は?」


「いやいや、なにもないって。強いて言えば、のんびりと暮らすか、旅して回りたいかな」


「密偵や刺客ではないと?」


「はぁ?違うって」


「どうなんだ?」


「だから違うって。水晶だって青だろ?」


「本当のようじゃのう……」


「その水晶持ってるのに、嘘つくはずがないってぇの」


「うむ、たしかにな。しかし……」


「突然こんなの来たら怪しいのはわかるけども。あっ!お茶うまっ」


「…………随分と余裕じゃのう?」


「ははは、焦っても意味がないからな」

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