6-4
「……で、さっきの三井ハナさんがどうしたって?」
明らかにいつもとは違う反応。コソコソ溜めていた力を使ってでも直に接触したかった理由は何なのか?
「彼女は……我の大切な人だ」
手を組み、もじもじしながらそう口にする幼児化したヴァルガ。
「は? ハナさんと知り合いっ?」
もしやハナという人物も異世界人なのか? と脳内で考え始めるあたり、大分一般常識を忘れ去っている尚登である。
「話したであろう、輪廻だ」
「輪廻……って、え? ヴァルガが知ってるのは今のハナさんではなく、前世のハナさんってこと?」
「……それも少し違う、かもしれぬ」
難しい顔で、ヴァルガ。
「我のいた世界とこの世界は、似て非なるもの。なれど、我が感じたあの者の魂は間違いなく、我の知る大切な者のそれに間違いはないのだ」
「ん~、あっちの世界とこっちの世界が繋がるわけだから、
「並行宇宙?」
さすがにヴァルガも知らないようだ。
「ああ、同時に存在する別の宇宙、っていうのかな。ここにいる俺と同じ魂を持つ者が、別の宇宙にも存在してる可能性がある、ってこと」
「……ほぅ」
考え込むように、ヴァルガ。
「なんにせよ、ヴァルガが間違いないって言うなら、ハナさんの魂が、その、ヴァルガの知ってる誰かと同じものだってことなんだろうけど……でも、それだけなんでしょ?」
テーブルに両腕を突き、前のめりに顔を近付け、尚登。
「それだけ、とは?」
「ハナさんはヴァルガのこと知らないよね?」
「……ああ」
ふい、と顔を逸らす。
「さっきみたいにさ、ヴァルガがハナさんに言い寄っても、ハナさんは困惑するだけなんじゃないか、って思うんだけど?」
「……ナオトのくせに、真っ当なことを言うのだな」
目を伏せ、ヴァルガ。
「どういう意味だ、おい」
尚登が顔をしかめる。
「確かに尚登の言う通りだ。我が彼女に想いを寄せたとて、それは彼女にとって何の意味も持たぬであろう。困惑もするやもしれぬ」
ヴァルガの言葉を聞き、尚登が頷く。
「だが、そんなことはどうでもいい!」
バン、とテーブルを叩き、椅子の上に立ち上がる。
「我は彼女に近付き、我という存在を存分に知らしめようぞ!」
「は? なんのためにっ?」
「だからナオトはバカだというのだっ。この想いは理屈などではない! 我はあの魂の主をどうしようもなく求めている。ただ、それだけだっ」
真剣そのものの演説だ。
いかんせん、話しているのは幼児なのだが。
「そんな、力いっぱい言われても……」
「いかにナオトであろうと我の邪魔はさせぬぞ! 我はやりたいようにやらせてもらう」
「えええ、リディかよ……」
異世界人はみんなこんな風なのか? と頭を抱える。大体、相手は病院の入院患者で、ヴァルガは身内でもなんでもない。勝手に動き回られては困るのだが……。
「大体、そんな恰好でウロウロして、万が一安城さんにでも見られたらどうするんだっ」
「……ナオトの隠し子だ、とでもいうか?」
ニヤニヤしながらそう告げる。
「シャレにならん!」
そんなことを言われた日には、駿河も巻き込んでの大騒ぎになる。相手は誰か聞かれても、説明のしようもないのだ。
「なにがシャレにならないの?」
背後からの声に、思わず
「ヒッ」
と声が出てしまう。
「……失礼ね、遠鳴君」
腰に手を当て、安城が立っていた。
「あ、ああ安城さんっ」
「随分可愛い子じゃない。ボク、どこの子?」
「我はナオトの、」
「うわ~! あのですねっこの子は俺の従兄弟の子なんですけど、たまたまこの病院に従兄弟が入院ちゃったみたいで、しかもその従弟がシングルなもんで、急に俺が面倒を見ることになってっ」
「えっ? この病棟にっ?」
安城の言葉に、慌てて首を振る。
「あ、違います一般病棟の方です、大した病気じゃないんで大丈夫です!」
早口で捲し立てる。
「えっと、そんなわけでしばらく行動を共にすることになるかもしれませんが、邪魔にならないようにするんで、どうかこの件は内密によろしくお願いしますっ!」
頭を下げる。
「……まぁ、そういうことなら仕方ないわね。でも、大丈夫? まだこんなに小さいのに」
「心配ない。なるべく迷惑はかけぬ」
「えっ?」
ヴァルガの物言いに、安城が驚く。
「あっ、えっと、こいつちょっと大人ぶった口の利き方が癖でしてっ」
「……そう、なの?」
「すまん。悪気はないのだが」
ペコ、と頭を下げるヴァルガ。
「まぁ、いいわ。で、お名前は? 年はいくつなのかな?」
「名はヴァルガ。歳は……もはや数えておらんが、」
「わー、わー、わー!」
尚登がヴァルガの口を塞ぐ。
「なによ、騒がしいわね」
尚登に向かって安城が文句を言う。
「すみません、ちょっと変わった子なもんで」
「いいわよ、別に。えっと、ばるが……くん? 私は安城ミサト」
「知っておる。ナオトからよく話を聞いているからな」
「へっ?」
「は?」
安城がパッと顔を赤らめ、尚登が焦る。
「私のことを? 遠鳴君が……?」
どんな話をしているのか、興味津々の安城に対し、尚登はおかしなことを口走られやしないかと冷や冷やしている。そんな二人を、ヴァルガは楽しそうにニヤニヤしながら見ていた。
「えっと、ばるがくんは、どこかのハーフ……なのかしら?」
グレーの髪も銀色の瞳も、およそ日本らしくはない。
「まぁ、遠くから来たことは間違いないな」
うむ、と頷きながら、ヴァルガ。
「将来有望ねぇ」
そう言ってヴァルガの頭をワシワシと撫でる。
「ミサトも美しいぞ」
「ぅえっ?」
銀色の瞳でじっと見つめられ、赤面しているのが自分でもわかる。
「かっ、海外の子はこんなに小さくても女性を褒めるのが上手ねぇ」
「本当だ。そなたは美しいぞ、ミサト」
「こら、ヴァルガ!」
ひょい、と抱き上げ、耳元で囁く。
「お前、楽しんでるだろっ?」
「なんだ、やきもちか? ナオト」
「は? 違うっ」
「ちょっと、二人で何コソコソしてるのっ?」
安城に言われ、ヴァルガが追い打ちをかけるように、
「我がミサトを褒めたのが、ナオトは気に入らぬようだ」
「ちょ!」
ヴァルガが尚登の腕から降りる。
「さて、我は二人の邪魔にならぬよう大人しくしているとしよう。ナオト、ちゃんと仕事するのだぞ?」
偉そうにそう言い、尚登の足をパン、と叩くと走ってどこかへ行ってしまった。
「あ、ちょ、ヴァルガ!」
振り向きもしない。
「……変わった子ね」
「……すみません」
「……で、私のこと、あの子にどんな風に話してるわけ?」
にんまりしながら訊ねる安城だった。
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