5-4
――ふむ。どうしたもんか
眠りこけた尚登と安城を見ながらヴァルガは考える。最悪、尚登の体を使って対処することも考えなければならない、と思った。
男は安城と尚登を順番に引き摺り、客間へと寝かせていた。そしてどこかに電話をかけ始める。
「ええ、男女一人ずつです。夫婦ではないようで。ええ、しかし、少し怪しいもんで……ええ、今は眠ってますが……はい、わかりました。ではそのように」
尚登たちといるときとは違い、
「大丈夫です。うまくやりますので」
最後にそう言って電話を切る。
そして男は、尚登と安城のポケットを探り始めたのだ。
「……なんだ、何も入ってないのか」
身分を確認できそうなものは何も見つからない。あるのは車のキーだけだ。すると今度は靴を履いて、外へ。車のキーを向け、ロックを解除すると今度は車の中を物色し始める。
「携帯電話がない……だと?」
車に残されていたのは着替えが入ったバッグだけ。携帯電話がどこにもない。免許証もだ。しかし、男はそれを是とした。
「疑いすぎたか」
ふぅ、と息を吐き出し、荷物を元に戻すと家へと帰っていった。
――ふむ、問題なさそうだな
ヴァルガはそうひとりごち、尚登と安城のポケットから抜き出した警察手帳を車のダッシュボードに戻した。
*****
翌朝。
「ねぇ、ちょっと、遠鳴くん!」
「う、ん」
揺さぶられ、目を覚ます。
そこには、安城の不安そうな顔。
「あれ? 安城……さん?」
「寝ぼけてないで起きて!」
ぺし、とデコピンをされる。
「痛っ!」
完全に目が覚めた。見慣れない部屋。二組の布団。
「おはようございます……ってか、あれ?」
記憶を辿る。
そして、思い出す。
「安城さんっ、大丈夫ですかっ?」
ガッと両手で肩を掴み、顔を近付けた。
急に迫られ、安城の方が面食らう。
「ちょ、だ、大丈夫だけどっ」
顔が火照るのを感じ、慌てて尚登を引き剥がす。
「あ、すみません。昨日、食事の後、安城さんが倒れて、それで、俺……、あれ? 俺もあのあと……」
そこで記憶は途絶えている。
「よく眠れましたかな?」
急に声がし、驚く。
襖が開き、昨日の男性が顔を出した。
「昨日は飲ませすぎましたかな。お二人ともぐっすりで」
昨日とは打って変わり、愛想のいい笑顔を向けられる。
「あ、ええ……」
安城が曖昧に返す。
「さ、朝食の支度が出来ておりますので」
案内され、居間へ。
居間には昨日と同じように、老婆が座ってニコニコと笑っていた。
テーブルには焼き魚、お漬物、卵、みそ汁などが並んでいる。
「これを食べて、出発しなさい」
出された食事を見、思わず尚登はヴァルガに聞いてしまう。
(これ、大丈夫?)
『問題ない』
その答えに安堵し、食卓に着いた。
「安城さん、いただきましょう」
尚登がそう言うのを聞き、安城も深く頷くと席に座る。
「いただきます」
「いただき……ます」
手を合わせ、箸に手を付ける。
「向こうには話してある。渡した地図の通りに行けば問題ないから」
そう言われ、尚登は
「ありがとうございます」
と話を合わせた。
食事を済ませ、二人に礼を述べる。夜が明け、周りの景色もよく見える。
「では、失礼します」
そう言って車に乗り込む。尚登がナビをするため、運転は安城だ。走り出した車から頭を下げると、男性が小さく手を振った。
走り出した車の中で、安城が口を開く。
「……で、どういうことか説明してもらいましょうか?」
ですよね、と心の中で頷く。
ヴァルガに少しだけ話は聞いていた。二人が眠っている間に、あの男が身元を確認できるものを探していたこと。警察手帳と携帯を咄嗟に異空間に移動させ隠したこと。今はダッシュボードにあること。そして、
『ネット、とやらでコクーンゲイトを調べてみろ』
そう、言われていた。
尚登はダッシュボードを開けると、そこから携帯を取り出す。
「え? なんでそんなところに携帯……え? 私のもっ?」
片手でポケットを探り、持っていないことを確認する。
「身元を調べられると厄介だと思ってここに入れておいたんですよ」
適当なことを言っておく。
携帯にコクーンゲイト、と入れ検索すると、
『意味:黄泉への入り口。来世。または生まれ変わるために潜る門』
などと出てくる。そしてそのいくつか下の方に、あるページを見つける。クリックすると、
【永遠の安らぎと裏切りのない世界を】
そんな謳い文句で始まるページ。写真では沢山の人が笑顔で手を繋いでいる。
「安城さん、そこの自販機の前で停めてください。コーヒー飲みましょう」
車を停めさせると、携帯の画面を見せる。
「これなんですけどね」
そのページを安城に見せる。
「なに、これ?」
そのページは、
【コクーンゲイトの、その先へ】
そう、続くのだ。
「コクーンゲイト?」
「ええ。黄泉への入り口。来世。または生まれ変わるために潜る門、って意味があるみたいです」
「どういうこと?」
「あ、えっと……
無茶だ。
いくらなんでも酷すぎる連想ゲームだ、と頭ではわかっていたが、他に思いつかなかったのだから仕方ない。尚登は一瞬たりとも目を逸らすことなく、言い切った。
「コクーンゲイト……、」
考え込んでいる安城を置き去りに、尚登が自販機でコーヒーを二つ買った。
「じゃ、私たちはここへ向かってるってことなのね?」
渡された地図は、山の奥の方を指している。
「多分」
「このページには、場所は載ってない」
「ええ、多分何らかの方法で接触してからじゃないと行き先は教えてもらえないんじゃないでしょうか?」
例えば、村の住人とか。
「一体ここに何があるのよ?」
見た限りでは、よくわからないのだ。抽象的表現が多すぎる。
「……新興宗教、ですかね?」
うさん臭さで言えば、一番近いのはそれだと思えるのだが。
「班長に連絡、」
「あ、それなんですけど」
尚登がストップをかける。
「万が一を考えて、別の方法を」
ここまでのすべてが用意周到すぎるのだ。見張られている可能性も考慮し、慎重に事を進める必要がある。
尚登は佑介にメールを送った。
「さて、では乗り込みますか。何が出るかは、」
「行けばわかる、か……」
安城が尚登の手から缶コーヒーを取り、タブを開けた。
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