Side-白:エピローグ-追走

********


「———綺麗…………だったな……





 ———じゃねえよ、行っちまった!!…………どうすりゃいいんだ、俺……?」


 チョコを作って、それを渡そうと迫られて。

 しかし当のコックが逃げ出してしまったその様子に、白は困惑を覚えずにはいられなかった。


「俺、何か……やっちまったのか、アイツに……何か……」


 無論、白には何の非もない。当たり前である。———だが、当の本人に……心当たりはあった。




「———約束、なの……か…………??」


 白とコック。その間を結ぶものとして、もはや機能すらしていなかったかもしれない『約束』。


 かつて彼らが初めて出会った時に色々あって交わしたソレを、白は守れていない、と。



「ああ、確か、そう……だった、よな。


『お前が悲しい顔になるようなことだけは』って。





 ———っっ!」


 突発に。自暴自棄かとも捉えられる程の勢いで、白は己の家を飛び出す。


「———ああっ、クソ……クソぉっ! 何が何だか分かったもんじゃないが、俺は……俺は何かやらかしてるっ!


 心当たりはねえけど、でも……っ、でも、謝るしかないじゃねえかよ……っ!」


 もちろん、コックの行った場所が分かることはない。どこに行ったのかも分からない。この広い王都の中か、それとも外か、はたまた広大な西大陸のどこかか。


「あああぁあああクソぉっ! 何———やってんだよ、俺はっ……!!


 お前に———悲しんでほしくなんて、なくって……!


 そんな顔、もう二度と、見せてほしくなくって……!


 ———でも、でも、なんかやっちまった! やらかしたんだ、俺は……せめてそれが何か、分からなくたっていい、だから———、






 ———だからせめて、俺に…………謝らせてくれよおっ!


「っく……コック……お前は……っ!!」







 走り続けた。

 この王都を。くまなく探しつつ。


 途中、あのサナの姿を見た。今日も仕事をして、いつもいつも誰かのために頑張って。


 ———申し訳なくも、そりゃあ思う。



 ……でも、ここで……探しとかなきゃ、アイツは、コックは……


「どうなっちまうか、分からねえだろ…………っっ!」



◆◇◆◇◆◇◆◇



「は……っ、はぁっ、ちくしょう……どこだよ、ここ……結構、走ったぞ、俺…………っ」


 何時間、ここでこうして探し続けていたのか。

 未だ俺がいたのは王都。しかし、もはや日も暮れようとしている。どこの路地を探したって、これだ。


 見つからない———なんてことが、あるかもしれない。

 ———でも、そんなの……ダメだ。



 だって、約束したのは俺の方、だろ……?

 あの約束を———、


『俺は……そんな事、しない。お前の———お前が悲しい顔になるような事は、決して。



 それだけは約束する、だから力を、力を貸してくれ……!』


 アレが全部、あの場でコックに協力してもらう為だけに吐いた、嘘だとでも言うつもりか。……いいやそんなこと、あっちゃならねえ。


 でも、このまま出会えないのなら、そう言っているも同然だ。

 ———だから、会って、伝えなきゃならないんだよ……!


 もう一度、会って———、



『俺は……俺は、どうやったら、約束を守れると思う……?』


『…………私と、一緒にいてくれるなら、それだけで…………っ!』


 そうだ、だからせめて……一緒にいなきゃいけないんだよ、俺は……!!


「俺は———!」






『…………マス…………ター……』


「はっ」



 路地の裏から現れたのは、

 未だに、あの箱を胸に抱えた、コックの姿だった。

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