エピローグ

◆◆◆◆◆◆◆◆


「……できた…………のか? 工程は……これで、全部……なのか……?」


『え、ええ……イデア様より教わった工程は、全て踏んだはずで…………なぜ……このようなことに…………』


 チョコは———出来上がった。

 出来上がったはいいものの、型取りで失敗したのか、また別の何かで失敗したのか……層も形もぐちゃぐちゃなものが出来上がってしまった。


 ……しまった。


「……ところで、コック」

『はい、なんでしょう?』


「これを俺と一緒に作って……何する気だったんだ?」


『ぁ———』


 そこまで聞かれたところで、あろうことかコックは躊躇してしまった。


『何…………を…………っ』


 それはまあ、出来上がったチョコの悲惨さにだろうか。はたまた、自分自身がこのような、意味のわからない行動を取っているからであろつか。


 何にせよ構わない。それでもただ、コックはここに来て、足踏みすることしかできなかった。


「コック?」


『あ……う……』


 声を呼ばれ、その目と目を合わせ。しかしその瞬間、コックの声はぶれ、合わせた目は泳がされる。


 一体何をはぐらかしているのか。その異常な言動を目にした白も、少しは探ろう、などと腹を括ったその時であった。


「そもそも、なんで俺と一緒に作る必要があって———」


『マス……ター———いえ、白…………様……』


「コック?」


 ただ、やはりコックは出る女だった。

 ここで彼女は、ただの主従として、このまたとない千載一遇のチャンスを逃す———などと言うことをするはずがなく。


 その心の中で、ほんの一歩踏み出した彼女は。

 今度こそ、主人に仕える天使ではなく———1人の女として、ここに立つことを……決めたのだ。


『…………いや…………


 …………白……』


「いやいやだからお前……どうした……急に?! なんか今日のお前ヘンだぞ、いつもの感じがしな———」


 それはそうだった。そのはずだった。至極真っ当であり、全くもってその通りだった。



 もはやコックは、ただのこの時だけ———主人のしもべであることを、拒んだ。



 例えここで、白に『来るな』と懇願されても、それでもコックは行っていたであろう。 


 例えここで、白に『死ね』と泣きながら言われたとて、コックはそれでも無視していたであろう。


 それはただの反発ではなく、並外れた決意の表れであり。

 また、コックというの人生において、一番の———勝負どきであった。



『……白』

「おおおおおいぃっ?!」


『受け取って…………ほしい……の、です……』


 白がたじろいでいる間、コックはあまりにも自然に、そのチョコを箱へと押し込んでいた。


 ……そして、それを白の前にまで持ってきて。


『この……チョコは———っ!!



 ……それは……それは、わたしの……気持ち、なのです……!』


「あ———」


 が、ここに来てようやく、白は己が置かれた立場を十分に理解する。


 ———自分は今、  を受けているのだと。


 ……そうか、だからサナのいないこの時間帯を狙ってこうしたのか、と。白の中で、全ての合点がいっていた。


『だから……だから、お願いします……これを…………っふぅ———!』


 喜びか、悲しみか。それとも羞恥か。何故か誰にも分からないことだが、コックは今———涙を流していた。


 それでも、その心の中は混沌としている。


 ———なぜ、こんなことをしようと思ったのか。そもそも、この気持ちは何なのか。なぜ自分にこのような機能があるのだろうか。


 何で、機巧天使として生み出されておきながら。

 そんな、人に———少女に———██オリジナルに似た機能など、要らなかったはずなのに。



『ぁ…………ぅっ、あ……っっ、ああああっ!!!!!!』


「おい、コック!……っもう、何か言ってくれよ!!」


『だめ……いや…………苦しい、わたしは———、何の———っっ!!』


「あっ……おい待て、コック!!」


 


 その言葉を最後に、コックは———チョコを抱いたまま、白の家を出てしまっていた。

 

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