第4話

『……イデア様』

「なんだ?」


『目的地がどこか……貴方は分かっておられるのですか?』


「ああ、目的地は分かるさ。

 この先にある『虹の滝』。そこに、俺たちの求めるものはある」


『……虹?』

 

 虹。コックはその言葉に困惑を覚える。

 何せここは、瘴気の満ちた紫煙の森。そんな場所に『虹』と呼ばれる場所があるなどとは、コックは信じることができなかったからだ。


「ああ、虹だ。着いてくれば分かるさ、その意味が」


◇◇◇◇◇◇◇◇


『ここが……』


 森の先。少し切り立った岩場を抜け、ちょっとした洞穴の先にそれはあった。


 紫がかった瘴気の色は、空気に照らされてか虹色……のような多彩色になって輝いており。

 そして、その奥にあったのは、澄んだ水が流れる滝と、その麓にいたのは———。


『……スライム?』

「らしいな。見たところ……エレキポイズンスライムの一種、か」


 ———コックの頭には、どうもイヤな思い出がよぎる。


『嫌がらせか何かなのでしょうか?』



 ———もしねが本編参照。



「……かは知らんが、見てみろ。俺が採ると言っていた素材は……アレだ」


 イデアが指を刺した先。それはスライムの中にあり。

 スライムの色によって黄色がかってはいたが、それは紫色の果実……のように見えるものだった。


『つまり……っ、こんなところにまできて、戦闘をしなければならないと……?』

「無論その通りだろう。


 ———まあ、機巧天使ともあろう、貴様なら……なぁ?」


 イデアの口角が上がる。

 それを見つめたコックは、一瞬呆然としつつ、次秒にて———妖艶なる笑みを浮かべた。


『ふっ!』


 が、もうすでにコックは戦闘体制に移行していた。

 飛べはしない———それは考慮しつつ、身体強化魔術を己が身体にかけたのか、一瞬にてそのスライムの懐にまで移動する。


『一撃で決めます……天殺撃っ!!!!』


 スライムの表面に手をかざしたコック。そこから溢れ出した閃光は、スライムの体を焼き払ってしまった。



 ———が。


「思い上がったな」


 と呟くイデアが見つめた、次の光景が。



『なっ……っ?!』


 スライムは焼き払われた。……と、コックだけは思っていた。しかし現状は全く別であり。


『なぜ、まだ生きて……アレだけのものを食らって……っ?!』


 飛び立ったスライムの欠片より、触手が伸び———コックの体を囲うようにそれらは迫り来る。


「1人でできる、こんなもの楽勝だ。……そう思い込んでいただろ、貴様は」


『なぁっ?!』


「さほど苦労もせずに、作れると思って」


 コックの右腕に、鋭く尖った触手が激突し……貫いた。


『っぐ……!』


 痛覚があったのか、思わず苦痛の声を漏らすコック。

 が、それを見ようとイデアは、動くことはしなかった。


「ただ作るだけが、愛と言ったな」

『っふ……あぁっ!』


 未だコックの悲鳴が響く中。それでもイデアは、その言葉を止めることはなかった。


「しかし作りたいはずだな、最高のものを」


『え……えっ、それが……愛……………っ、ですから……っ!』


「……はあ、だから貴様は、歪んでいるんだ」


『はっ———あああああああああっ!!!!』


 イデアの言葉を聞き届けたその時、コックの体は宙を舞った。

 舞い散る花のように、その青く長い髪は散りゆく。しかしイデアの見た中では、一番の『人間らしい』姿だった。



『だって……アレがなければ、愛は…………っ!』


「ならば問うぞ、機巧天使」


『え———』


「貴様は本当に、ここに来る意味があったと思うか」


 その問いにコックは困惑する。来る意味があったも何も、そもそもここを勧めたのはイデアだと。そしてアレは、紛れもなく最高の素材で———、


『アレが……最高のもの、だと言うのなら…………っ』


「……」


『アレで……マスターが、喜んで…………っ、くださるの、なら…………っ!』


 そう言って、コックはもう一度、その果実に手を伸ばす。しかし迫るは、あの触手だった。



「そうか、それは———本物か」


 イデアは———、





「魔術領域、展開。

 多重幻覚境界面ホロウ・ミラーディメンジョン、作動」


 イデアは、真っ先に……動いた。


 イデアが今展開したのは、魔術領域、ホロウ・ミラーディメンジョン。

 そうして、イデアの周辺に現れたのは銃であった。


 いくつもの銃、それらから発せられた銃弾は、スライムの欠片を貫き———蒸発させてしまった。


『っ…………っ、はぁ、はぁ……ぁっ』


 今回ばかりは、流石のコックとは言え、息を切らすものだった。しかしそんなコックを置いて、イデアは果実に向かってゆく。


「……さあ、行くぞ。

 最高のチョコ、とやらを作る時だ」

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