第3話

◆◇◆◇◆◇◆◇


 ———かくして、2人(?)は『究極のチョコ』を作るために、その材料の調達に出向いた。


『あの……本当にここまでする必要が……あるのですか……?』


「ある。あると言ったらあるのだ、あると言ったらな!!


 人一人を満足させる———その重みをちっとも分かっていないようだな、貴様は!」


『満足させる……重み……?』


 コックにとって、それは完全に分かりきっていたつもりであった。何せ、今まで『マスター』に仕えていたからこそ、その自分の価値や需要を十分に理解していたからだ。


 ———しかし。


「貴様、そこに愛はあるのか」


『あ……?』


「そこに愛はあるのか、と聞いているのだ!!!!」


『あ……い……?』


 愛? 愛、哀、アイ……??

 その言葉の意味を問うて、コックは自問自答する。


 ———が、やはり。


『無論……にわたくしは、マスターに対する愛が……』


「それだけか?」


『え』


 普段の余裕は消え、コックはどこか間抜けな声を漏らす。

 それもそうだ。コックにとって、マスターに仕え、最高のもてなしを提供すること=最大の愛。



 それがコックにできる唯一のことだと、彼女は盲信しており、かつそれは今までこなせていた、と思い込んでいたから。


 それに、それさえなければ、自分の存在意義すらないとさえ———。


「それだけなのか? 貴様はこれを作るにあたって、何を求める?」


『何…………を……?』


 なぜだろうか。作るだけでも、それは愛を表現することに他ならないはずだ。

 それでいい、むしろそれでなければ他に何があると。


「ただ『作る』だけか?……こんなところにまで来てしか取れない、貴重な素材を使って、『作る』だけなのか?」


『———』


 呆然と、しかしイデアを真っ直ぐに捉えながら、コックは立ち尽くし。


『ええ、作る……だけです。その行為が、愛だと言うのなら』


 ———だからこそ、コックはこうするに至った。


 ———だからこそ、イデアは反応した。


「…………そうか。

 なら、黙って着いて来い。貴様はよく自分のことを優秀だ何だとは言ってはいるが、まだ貴様には、学ぶべきことがある。


 人1人を満足させる重み———それを知ってからでないと、貴様はそれを作ってはならないんだ」


『……だから、このような場所に来てまで……材料を取ろうと?』


 彼らがやってきていたのは、そう、西大陸の中でも、魔王の大破壊による影響がほとんど無かった場所である、魔界。


 ……その、南部に位置する熱帯雨林。未だに強力な魔物も徘徊しているここに、イデアの口にする素材があると言う。


 ……が、道は険しいと言わざるを得なかった。


 高低差のある険しい地形の中に、高さ100メートルはあるだろう、紫がかった木々がそびえ立つ湿地。


 ここにおいては魔力———の変質した『瘴気』の影響が大きい。


 外部の魔力を多く取り入れて浮遊法など使おうものなら、その時点で使用者の魔力器官、魔力回路がダメになり、自滅する———などと言った最悪の土地であった。


 この土地による行動の制限は、機巧天使であるコックにとっても例外ではない。


 本来の彼女なら、飛んでその素材を探せばいいことだろう。しかしここは魔界。


 その『浮遊法を使って浮遊する』と言う手段でさえも、ここでは致命打となりうるものであった。


 いくらこのイデアとコックが、1年前———世界を救った救世主の一味だとしても関係ない。







 ———ここにおいては、下手をすれば…………死ぬのだ。




 ———そしてそれを、コックは自覚できていなかった。

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