第2話

「……貴様、今何と言った? もう一度言ってみろ」


『いえ、ですから……マスターに向けて、その…………ちょこ、を……』


「かっ———」


 異質な存在感。ちょうど寸刻前までそれを植え付け続けていた機巧天使は、今あろうことか少女のように照れ臭くも赤面し、脚を内側に向けモジモジしている。


 ……そう、モジモジ。


「貴様……本気か?」


『え…………ええ…………』


「あくまでにこだわるのか、貴様は」


『無論です。わたくしが愛を表現すると言うのなら、最高のものでしか』


「本気、か……面倒なことをしなければな、これは……



 …………しかし貴様、本気で、貴様にソレができるとでも———」


『ええ、わたくしにだって……やれば……できるところを、ですね……』


 ———イデアの言う『本気』は違っていた。

『貴様のような歪んだ存在が、本当に愛を込めて何かを作れるのか』というニュアンスの『本気』である。つまり嫌悪感も同義であった。




 コックは機巧天使だ。機巧天使。天使の『翅』を埋め込まれた、人工的な生命体。


 がしかし、埋め込まれた翅は腐っても『天使』のもの。これのせいで、コックは人の心を覗き見ることもできるのだ。




 ———が。この時には。

 そのコックの言う『マスター』、つまるところ白に対する惚気が発動していた。




 そして、コックはイデアの真意に気付くことはなかったのだった…………


『それで……ですね。

 セン様に一度わたくしは相談したのです。どうすれば良い……『ちょこ』を作れるのか、と』


「はあ」


『そうしたらですね……



『あ、それならそれを聞くんだったらイデアさんですよ、イデアさん! イデアさんああ見えて料理とかすっごく上手ですし、教えるのも実はとってもうまくって! おまけに味も美味しいし見た目もすごくって、確か一度チョコを作ってくださったこともあるんですけどそのチョコがほんと〜に蕩けるような美味しさで〜』


 と熱弁されたので……来てしまいました☆』


「あのガキ———ッッッ!!!!」


 この時ばかりはイデアも必死である。


『おまけに、『そもそもイデアさん、いつもはあんなツンツンしてますけど実際その実ちょっとつついてみたらすぐボロが出てデレ出すんですよ! いやほんとにこれ面白かったんですけ———』』


「黙れぇぇええっ! 黙れ黙れ黙れっ! おい貴様次その続きを口にしてみろ、俺の神威コピーの鯖にしてやるぞ貴様ぁっ!」


『…………と、言うことは……??』


 調子に乗———余裕の出てきたコックの口元が、段々とにやけ始める。そりゃあそうだろう。


「………………るさ」


『おっと……今の言葉ぁ、よく聞こえませんでしたぁ〜……



 ……もういっかい?』


「ぐくっっっっ!!!!」


 もはや、この煽りに乗せられるしかないイデアであった。


「やるっ! やる、やるよやるさ、やってみせるさ! アレンの1人くらい満足させてみせるさ、分かったな! おい!」



 もう、自暴自棄としか言えないイデアの姿。今まで彼が晒してきた姿の中でも、一番惨めな姿だったろう。当の白がここにいたらどうなっていたことか。


『良いお返事、ありがとうございま〜すっ♡』

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