【過去】



「お兄様、よいはこの島から……お兄様から離れたくありません」

「その気持ちは嬉しいよ、宵。だけど、無理なんだ」

「えぇ、解っております。宵は、……男船島へと、嫁ぎます」

「すまない、宵。だが、両方の島が諍いなく繁栄する為には……」

「えぇ、それも解っております」

「あちらの五百蔵いもくら家は、お前の事を随分を気に入っている。悪い事は無いはずだ」


「……そうで、しょうか」

「……すまん。そう信じて、あの島へと行って欲しい……、すまない」





「お兄様、コレが宵の写し身です」

「ありがとう。では宵、コレが僕の写し身だ」

「……ふふっ、可愛い」

「可愛いって、お前なぁ」

「いえ、すみません。大事にします。ずっと、ずっと……」

「あぁ。僕もこの人形を宵と思い、共に過ごさせて貰う」

「…… …… ……」

「うん? どうかしたかい?」

「宵の写し身は、どう、ですか?」

「あ、あぁ。ごめん。……宵に似て、可憐だ」

「ふふっ、有難うございます」





「お兄様、明日、宵はこの島を去ります」

「……あぁ、そう、だな」

「…… …… ……」

「何度も、思った。僕達が普通の家に生まれていれば、こんな思いをす」

「お兄様」

「……すまない。今の言葉は忘れてくれ」

「えぇ。お兄様もこの島を治める御身分、そのような弱音は禁句でございます」

「そう、だな」


「ですが、今この場に居るのは、二人だけ」

「……宵」

「お兄様、お慕い申しております。家族ではなく、一人の男性として……」

「……宵」

「……お兄様」






「では、行って来ます、お兄様」

「あぁ。……今生のお別れではないさ、また会おう、宵」

「えぇ、お兄様。その時は、また……。お元気で」

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