死染 ~エピローグ~



ゲームセンターは、今日も盛況だ。

世間は夏休みなのだが、部活帰り、塾帰り、補習帰りの学生で溢れている。


その一角に、華やかな色を放つ場所がある。

プリクラコーナーだ。


そこに置かれた椅子へと、いつもの二人が座っている。


「こう学生が多いと、なんか微妙に落ち着かないよね」

「わかる。この前までは私達も女子高生だったのにねー」


眼鏡娘の呟きに、ボーイッシュ娘が賛同の意を首肯で表した。

二人の手には、今撮影したばかりのプリクラが収まっている。


「中学時代からコレしてるけどさ、昔の見ると辛くなるの」

「齢とってるって実感しちゃうからね」

「せめて成長って言いなさいよ」


二人の背後で、ちょっとしたざわめきが起きた。

あぁこの類のざわめきは男が来た事への戸惑いだな、と。

その道のプロを自称するボーイッシュ娘は、声の方へと目を向ける。


「ははーん、成程」

「地味な男の方はともかく、あの制服は場違いだわ」


二人の目に映る、緑青色のセーラー服。

ゲーセンとは無縁のはずの、有名なお嬢様校である天恵女学院の制服だ。

しかもそれを着ているのが、まるで読モの様な長身の美少女。

しかもしかも、プリクラを撮る主導権が男性側にあり、女性は恥ずかしがっているのが特徴的だ。


「いやいや、眼福眼福」

「尊いものを見せて頂きました、ってね」


薫る、青春。

二人組は思わずニヤリとしてしまい、机上のプリクラへと視線を戻す。


「思わず写真撮りたくなっちまったぜい」

「やめなさい、この間アレが流行ってたってのに」

「でももう終ったから大丈夫だって、いやー酷かったね、『感染する死』」

「あれのせいで休講になって授業遅れたのよ、いい迷惑だわ」


プリクラコーナーに平穏が戻る。

どうやら先程の二人は退散した様だ。


「あれ、結局どうなったんだっけ。ドライブレコーダーを取り外した人が炎上してるってのは聞いたけどさ」

「本人とその家族、同時に同乗者が特定されて未だに凄い騒ぎよ」

「いやそこまでは知ってるけど、ってか、そこから先は進展ないんだね」


二人はバッグからペットボトルを取り出し、蓋を開けた。

シップの味が、二人の鼻腔を駆け抜ける。


「あると言えば、ほら、自殺した子供のせいだって、その両親が攻撃されてたじゃない?」

「あぁ、されてたね」

「今、その両親を誹謗中傷した人や器物破損した人が、次々と訴えられてるんだって」

「いやまぁ、そりゃ仕方ないじゃん?あの人達に非は無かったんだし」

「うん。でもまぁ、よくわからない程凄い現象だったね」

「約2週間で収まるも、死者の数は国内だけで約2,800だっけか」


二人はいつの間にか、スマフォを操作していた。

語らいながらの情報収集タイムの様だ。


「オカルトタカモリでも言ってたけど、怪奇現象が近くなったよね」

「そうね、でも基本こちらから絡まなければ大丈夫なはず」

「絶対大丈夫って言って欲しかった!怖くて海行けないじゃん!」

「海はいろんなのが棲んでるって言うからねー、怖い怖い」


ボーイッシュ娘が、スマフォのアルバムを開く。

夏の浜辺や水着姿の男女が、画面へと表示された。


「まぁ行ってもナンパがうざったいからなー、どっか貸し切りの砂浜で泳ぎたい」

「今なら島をまるまる借りてってのもあるけど?」

「えー、どんなの?……うわ、高いなぁ、当たり前だけど」


眼鏡娘のスマフォに表示された、とある孤島の情報。

電気は勿論通っており、専用の砂浜もあるが……値段はブルジョア向けである。


「あ、そういや、どっかの島の近くで自衛隊のヘリが消息不明になったって言ってたね」

「あぁ、朝のニュース? でも、あの辺りに島は無いはずって、誰かが言ってた」

「おろ?島の近くってどっから出た情報なのさ」

「ヘリからの最後の無線で言ってたそうだよ」


二人は荷物を纏め、ゲームセンターを出た。

樹々は少ないはずなのに、蝉が五月蠅い。

空は雲ってはいるが、アスファルトからの熱と蒸し暑さが、二人の体に汗を滲ませる。


あぁ、今年もこの暑さが続くんだろうな、と。

遠くから聞こえるヘリの音を一瞥し、二人は次の目的地へと足を進めた。

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