CASE:か-55 感染する死 20240703
「うーわ、未だに反応あるってすごいじゃん」
とある大学の構内で、男女二人が並んで歩いている。
平日の昼頃と言う事もあり、周囲は賑やかだ。
各々、次の講義までの自由をどう満喫するか、目を輝かせている。
「うしっ、コレだけ観覧数あれば新しいスニーカー買えちゃうな」
ブランド物に身を包んだ男性が、スマフォを取り出しSNSのマイページを確認した。
画面には、先日目の前で起こった事故の動画が写っている。
大破した車両。
モザイクで隠されてはいるが、高齢者の遺体。
泣き叫ぶ、同じくモザイクで隠された助手席の少年。
事故車を探る、若者。
背景に並ぶ、野次馬。
その動画に付いた高評価の数に、笑顔を振りまく。
逆に、隣を歩く清楚な女性は不安そうな表情を浮かべた。
「でも、大丈夫?その、死体が写ってるんでしょ?」
「だよ。つーかお前も一緒に居て、撮ってたじゃん」
「あれは、貴方がそうしてたから。でも、すぐに消したわよ……怖いし」
女性もスマフォを取り出すも、すぐにバッグへと仕舞う。
男性はソレを笑うと、画面へと視線を戻した。
「別にグロい部分はモザイクかけてるから問題ねーよ」
「で、でも、非難のコメントばかりじゃん」
「ばーか、コレが燃料になって観覧数が増えるんだよ。俺には信者がいるし、こいつ等が勝手に盛り上げてくれるのよ」
不快感を与える笑みを浮かべる男性から、女性は目を逸らす。
視えぬように、拳をぎゅっと握った。
「つーかさ、お前もやり始めろよ。テクは俺が教えるし。いい金になるぞー?」
「わ、私は無理かな……。批判コメントが来ると落ち込むだろうし」
俯く女性を一瞥し、男性は鼻で笑った。
その眼には、侮蔑が含まれている。
「長年付き合ってた彼氏の目の前で、俺に乗り換えた女が良く言うよ」
「い、言わないでよ!貴方がそうしろって言ったから……」
「はいはい、まぁ、俺と付き合うならまずは服に気をつけようぜ。いいバイト紹介してやっからさ」
女性へ目も向けず、男性は動画への反応を愉しむ。
多くは、「撮ってる場合か」「倫理観がおかしい」の様なものだ。
男性は目を細め、唇を歪ませる。
(どう批判しようが、コレを見ちまってる奴が何をほざいてるんだか)
と、そこでコメントの一つが、男性の目に入った。
(背景の人なんか増えてない?って、ホラーかよ)
だが、そのコメントを発端とし、同じようなコメントが続く。
中には、別の動画にも同じような事が起きてるとも、だ。
「……どうしたの?」
「あぁ、いや。変なコメントがあってな」
男性は自身が編集し投稿した動画を、改めて見直す。
大破した自動車の、後ろ。
こちらに笑顔を向ける、野次馬。
「なぁ、事故車の後ろって、人、居たよな?」
背筋に冷たいものを感じ、男性は女性へと尋ねた。
女性は一瞬呆けるも、少し思案した後に首を横へと振った。
「ガソリンが漏れてて危ないから、誰も近づかなかったよ?」
「いや、でも、車囲んで撮影した、よな?」
そう、口にする男性だが、それは無いと心の中で否定する。
動画を編集する際、無駄なリスクを恐れ、野次馬の顔にはモザイク処理をした。
だが、事故車の後ろの野次馬へモザイク処理をした記憶が、無いのだ
まるで後から生えた様に現れ、モザイクの無い顔をを向けているのだ。
笑顔、で。
(け、消すか、なんかやべぇ)
男性が動画を削除しようとした瞬間。
事故車内で喚いていた子供と、視線が合った。
「あ……」
スマフォの画面から子供の手が伸び、男性の頭を強い力で掴む。
手はそのまま後ろへ、男性の頭を地面へと押し当てた。
「なん だ ぽぴゃ」
ベチャン、と。
生卵をフローリングへと落としたような音。
男性の頭は弾け、内包物を辺りへと散らばせた。
「い、やああああああああああああああああああっ!?」
「うわ、なんだっ!?」
「え、狙撃!?」
「ちょ!警察!あと警備員さん呼べ!」
いきなり人が倒れ、頭部を失った。
周りの大学生は騒然とするも、すぐさま前向きに行動し始める。
失神した女性を介護する者。
警備員を呼びに行く者。
警察や救急に電話する者。
だが、それでもやはり。
この惨状をスマフォへ収める者も、多かった。
そして、男性の手から離れたスマフォの画面。
今まさに死亡した男性が、野次馬の一部に混ざっていた。
苦痛の顔を、無理やり笑顔へと変えて。
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