太山の語りを収めた録音機を、智彦は懐へと収めた。

智彦は息を軽く吐きながら、窓の向こうへと目を向ける。


太山の言うように、空に浮かぶ月の色が妙に燈色だ。

それに、校舎から人の気配を感じなくなっている。


このまま待つという選択肢もある。

あるが、嫌な予感を感じ、智彦は改めて一同を見渡す。


どこか余所余所しくなった、古堂。

最初と比べ表情と姿勢が良くなった、滑川。

智彦を品定めするように眺める、岩上。

こちらは智彦から目を背ける、狭間。

時たまロッカーへ視線を移す、福早。

変わらず、柔和な笑みを浮かべる、太山。


外は暗く、このような話をした後の夜道は暗くて心細いだろう。

堀には7人目が居なかった事を正直に伝えよう。

ロッカーの娘との約束も果たさなきゃいけない、と。

智彦は今回のイベントを終わらせる為に、ゆっくりと頭を下げた。



「7人目はどうやら来ないようなので、今日はここで終わらせて頂きます。ご協力、本当にあ」



ガララ、と。

ドアの開く音が、智彦の言葉を遮った。



「良かった、まだ終わって無くて。ごめんなさいね、遅くなったわ」



高級そうな藤色のスーツに身を包んだ、老女。

短いセピア色の髪を揺らし、智彦達へと頭を下げる。


「学院長!?」


誰かが零した言葉に、老女……学院長は、笑みを浮かべた。

智彦を一瞥し、部屋へと足を進める。


「えぇ、私が7人目なの。ごめんなさいね、会議が長引いちゃって」


学院長と呼ばれた老女は、テーブルの上にエコバッグを置くと、中から缶ジュースを7本取り出した。

そして、空いている椅子へと座る。


「改めてごめんなさいね、えっと……堀君。最後は私、鐙原あぶみばら 千歳ちとせが話をするわ」


語り部の中には、さっさと帰りたいという顔をする者もいた。

だが、相手はこの学院の学院長だ。

不満を飲み込みながら、智彦へと目を向ける。


皆の醸し出す不満を感じ取ったのか、鐙原は小さく笑い、外を見た。


「大丈夫よ。私もこの後やる事があるから、早めに終わらせるわ」


それじゃあ、と。

鐙原は、智彦へと唇を開いた。

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