六人目
こんにちわ。
自分の名前は
三年生です。
自分が最後なのかぁ。
結局7人目は来ていないんだけど……話をしてもいいのかな?
→よろしくお願いします
もう少し待ちましょう
堀君がそう言うんだったら、話をさせて貰うよ。
あ~、良かった。
本音を言うと、自分は早く帰りたいんですよ。
外も徐々に暗くなってきていますし。
さっきの、その、呪いのロッカーみたいなのが出てくるのが嫌なんだよね。
この学校に居ると、少なからずああいう幽霊とか怪異とか、やっぱ見ちゃうんだよ。
皆さんも、経験ありますよね?
一般的な人と比べたら、少しは慣れてるんじゃないかな?
その手のが好きな人には、ココは天国かも知れないけどね。
だけど、苦手な人には本当に地獄だよ。
ねぇ堀君。
君は霊感はある方かい?
→ある
ない
わからない
自分で言っちゃうんだ。
でも、堀君なら納得かな。
呪いのロッカーと会話する程だって、解っちゃったからね。
ほら、たまになんだけど「私は霊感があるー」って言う人いるよね?
ああいう人って、多くの場合はかまってちゃんって奴だと思ってるんだ。
私は天然なんです、って自分で言っちゃう人と同類だね。
ちなみに自分には、霊感はこれっぽちも無いって思ってるよ。
だけどね、そんな自分でも視えてしまう、巻き込まれてしまうんだから……この学院は性質が悪い。
何回か転校を考えた事はあるんだ。
けど、親に負担をかけるのは間違いないし、この学院卒ってのは何気にブランドになるんだ。
あと、せっかく知り合った友人と距離が開くのも嫌だからね。
今日も知り合いが一杯できたし、堀君ともいい友達になれそうだし、ね。
とにかく、この学院にいると、心霊現象は日常茶飯事なんだ。
慣れるのはいいと思うんだけど、麻痺しちゃうんだよね。
怖いって思わなくなっちゃうんだよ。
恐怖ってのは、本能なんだ。
危険を察知して、それを避けるための、ね。
だからそれが麻痺しちゃうのは……この学院ではとてもまずい事なんだ。
いきなりだけど、堀君。
君は「こんな場所で心霊現象に会いたくない」って場所、ある?
床下
→井戸
押し入れ
い、井戸!?
堀君の家はもしかして旧家か何かなのかな?
……あ、それともあの映画の事?
確かに井戸から何かしらが出て来るってのは、怖いかも知れないね。
自分の場合は、やっぱりトイレかな。
学院のトイレで用を足してる時ってさ、落ちつくというより緊張するよね?
その、汚い話になるけど、他の人に音が聞こえないだろうか、とか。
しかも、狭い個室内に居るんだから、更に落ちつかない。
そんな時に限って、心霊現象が起きるんだよ。
ラップ音、鏡に映る影、急に流れ出す水道水、トイレの水に混ざる長い髪の毛……。
この学院で良く聞くのは、こんな感じかな。
でもね、堀君。
この学院には、もっとヤバいトイレがあるんだ。
……皆さんも多分ご存知ですよね?
そう、東校舎3階の、あのトイレです。
……もしかして堀君、初耳かな?
東校舎3階のトイレなんだけどね、本当に出るんだよ。
あぁいや、汚い意味合いじゃないよ?
黒く長ーい髪の毛がね、トイレ内にびっしりと張り付くんだ。
蛇口から伸びた髪が、入り口のドアと窓をね、固定するんだよ。
だから、全く出入りが出来なくなるんだ。
……本当に初めて知ったんだね。
あの校舎の3階はあまり授業では使わないから、知らない人もいるのかぁ。
百聞は何とかと言うけど……流石にこの時間に行くのは、怖いかな。
うん、堀君と一緒なら多分大丈夫だと思うんだけど、ね。
今日は話だけ聞いて、興味があるなら後日その目で確かめてみてよ。
ちなみにこの中で、実際にアレを目にした人、居ます?
……あぁ、やっぱいるんですね。
はい、自分も見た事あります。
あの時は腰が抜けて、そのまま保健室に運ばれたんですよ、恥ずかしながら。
堀君、その髪の毛なんだけどね、特に悪さをするわけじゃ無いんだ。
……出入りできなくなるってのは、まぁ、悪さに該当するのかも知れない。
けど、ソレで助かった生徒もいてんだ……今からその話をするね。
この話は、最近。
大体……10年前の話、かな?
当時、とある教室に6人の生徒が集まっていたんだ。
丁度、今の自分達みたいな感じにね。
確か……風紀の乱れを指摘され、その反省文を書かされてたらしいよ。
内訳は、男子3人、女子3人。
その中に、
速水君は、何処にでもいる平凡な男子だったんだ。
ちょっと格好良くて、女子にモテる為に髪を銀色に染めてた程度のね。
だけど、ソレが教師の反感を買ってしまったんだよ。
今は当たり前になってるけど、以前は髪を染めるどころか、ピアスや化粧も学生にはご法度だったんだ。
実際、速水君以外の5人も似たような理由だったらしいよ。
……他の人の名前?
ごめん、そこまでは聞いていないんだ。
速水君達は休日の学校に呼ばれ、午後二時から、2階にあるどこかの教室に集められたんだ。
んで、先生が来るまでに反省文を書いておく事。
勿論だけど、パソコンでじゃないよ?
原稿用紙、しかも10枚以上だ。
いやぁ、苦行だよね。
自分の場合はほら、太ってるから、いつも原稿用紙を汗でふやけさせてたなぁ。
最初はね、速水君を含む皆は抗議したんだよ。
でも、書かないと退学処分になると言われたんだ。
その程度で、って思うけど、この学院じゃよくある事なんだよ。
皆の話にも出て来たけど、この学校は行方不明者が多いでしょ?
それ、多くは退学させられた生徒だって話もあるんだ。
何せ、ここは生徒数が多いからね。
学院側としたら、腐ったミカンの処分に遠慮は不要……みたいな感じなんじゃないかな。
ま、とにかく。
携帯類を没収された後、皆はしぶしぶではあるけど反省文を書き始めたんだ。
窓の向こうからは蝉の音が響き、アスファルトには陽炎が揺らいでいる。
外に比べれば、クーラーが聞いているこの部屋に居た方がマシだ。
そう考えながら、鉛筆を走らせたんだ。
その教室には、いじめ問題を理由に設営された警備カメラもあったからね。
皆、見張られているって言う緊張感も持っていたんだ。
途中、担当教師が差し入れを持って来たけど、皆一所懸命だったそうだよ。
速水君も、そうだった。
とにかくこんな面倒な事は早く終わらせて、帰って寝ようと考えていたんだ。
とは言っても、原稿用紙10枚分。
パソコンの文書ソフトを使えないから、一時間程度じゃ書けるわけが無い。
一番早く終わった生徒でも、2時間はかかってしまったんだ。
内容はお察しだったみたいだけどね。
書いた生徒は、本を読んだり、机に突っ伏したり、担当教師が来るまで時間を潰し始めた。
携帯は没収されてるからね、やる事無かっただろうなぁ。
時間が進んでいく中、一人、また一人、反省文を書き終えて行ったんだ。
やがて、外からは蝉に代わりに、ヒグラシの音が聞こえ始める。
反省文を机上に置いて、先に帰ろう。
そう考える生徒も居たんだけど、後々を考えると面倒だと判断していたみたいだよ。
また反省文を書かされたら堪ったもんじゃないからね。
でも、待てども待てども、担当教師は来なかった。
外は、夕焼けが藍色へと変わってく。
皆、コレは流石におかしいと考えたんだ。
ソレは勿論、速水君も。
「俺、ちょっと職員室に行ってくる。警備カメラで見てないのかよ、ったく」
今日は見たいテレビがあるのに、と。
速水君は憤りながらドアを開け……ようとしたんだ。
「あれ?」
だけども、戸はビクリともしなかったんだ。
カギは内鍵だけど、施錠はしていない。
そんな速水君の様子に、他の生徒は怪訝な目を向けたんだ。
「おい、何やってるんだよ」
「いや、戸が開かないんだ」
「はぁ?俺がやってみる」
男子生徒の一人が立ち上がり、速水君を押しのけ同じように戸を開こうとした。
でも、無理だったんだ。
何かに固定されてる様に、どうやっても開かなかった。
「窓からは出れるんじゃ?」
「せやかてココは2階やで?」
「大丈夫だろう、俺が下りて先生呼んでくる」
入り口がダメなら、窓だ。
皆そう考えたんだけど、窓も全く開かなかったんだ。
「ちょっと、なのよこの状況……」
「心霊現象、じゃないよな?」
この学院はね、当時も怖い話が一杯あったんだ。
日常的に遭遇する心霊現象もね。
あー、でも、今の方が酷くなってるって、OBの方々は言ってたかな。
心霊現象。
つまり、速水君達は、自分達は心霊現象に巻き込まれてるって思ったわけだ。
「他の生徒、居ないよな?」
「先生達の車も無くなってる!」
普段であれば、数人の警備員と当直の先生がいるはず。
なのに、その気配すら無い。
「……こういう感じの怖い話ってあったっけ?」
速水君の問い掛けに、大半の生徒は首を傾げたんだ。
部屋に閉じ込められるような怖い話は、彼自身聞いた事は無かったんだ。
「あのトイレに閉じ込められる話は、違うわよね?」
「ごっつ最近広がった話やね」
「ちょっと待って、思い出してみるわ」
「ねぇ、これ、『神隠し』じゃない……?」
女生徒が零した言葉が、室内に響いた。
瞬間、全員の顔が真っ青になったんだ。
……堀君は、神隠しの話を知ってる?
知っている
→知らない
結構有名な話なんだけどね。
内容はその名の通り、学校に残った生徒がそのまま消えてしまうって話だよ。
コレ、この学院に伝わる怖い話でも特殊な部類なんだ。
どう特殊なのか、解るかな?
→同じ話が複数ある
内容がコロコロ変わる
実は作り話
んー、そうだね、そう言ってもいいのかな。
実はこの神隠しって話、定期的に中身が変わって伝わって行くんだ。
内容は、基本的に同じなんだよ。
学院に残った生徒が、その日を境に消えてしまう。
でもね、人数や消え方が、さっき言ったようにある周期で変わるんだ。
消えた人が4人の時もあれば、8人の時もある。
消えた原因は、それこそ色んなバリエーションがあるんだよ。
怪物に食べられたり、殺人鬼に殺されたり、まぁそんな感じ。
自分が今、君に話してる内容は、前置きでも言ったような10年前のバージョンだよ。
あのトイレに繋げたいからね。
っと、話を戻すね。
神隠し。
その言葉を聞いた速水君は、今すぐにでも叫びたかった。
神隠しの内容は、結局は生徒が消えるって内容だからね。
速水君は、自分達が当事者となってしまった、と。
何らかの理由でこの世から居なくなってしまうのだと、絶望したわけだね。
「くそっ!窓ガラスを叩き割って外に出るぞ!どけっ!」
男子生徒の大きな声に、皆、現実に戻った。
そうだ、ココから逃げ出さなければ。
速水君達は、椅子などを手あたり次第窓やドアにぶつけたんだ。
でも、ダメだった。
「なんでよ!なんで割れないのよ!」
「ドアも微動だにしない!何だこれ」
「これじゃ外に出られない!」
ガラスにはヒビ一つも。
ドアは少しの凹みもしなかったんだよ。
誰かが言ってたように、この学校の窓は全部強化ガラスなんだ。
けど、それでも異常だよね。
何か、特別な力が働いてるような……そんな感じだったんだ。
「おい!警備員さん!当直さん!いたら助けてくれ!おーい!」
速水君は、教室内の警備カメラに必死に声を上げた。
誰かが見てるかも知れない、そんな希望を持ってね。
でも、不思議な事に、速水君は警備カメラの向こうから、こう……悪意を感じたんだ。
慌てる自分達を見て笑ってるような、そんな感じのだよ。
勿論、気のせいだったんだろうけどね。
その時、カチャン、と。
入口の戸から音が聞こえたんだ。
皆が顔を見合わせる中、速水君だけが動き、ドアへと手をかけた。
すると、さっきまでビクともしなかったドアが……開いたんだ。
「開いた……」
「どけ!俺は帰るぞ!」
「わ、私も!」
「うわっ!?」
そうすると皆現金なモノで、速水君を押しのけて走って出て行ったんだ。
床に倒れ込む、速水君。
振り返ってくれる女子も居たけど、手を差し伸べる事は無かったんだ。
……、あれ?
堀君、今珍しく表情が……険しくなったよ?
もしかして似たような事された経験があるのかな?
→ある
ない
言いたくない
そうなんだ。
きついよね、裏切られるのは。
まぁ自分の場合は本当に些細な事なんだけど、君のは重そうだよね。
何となくだけど。
でね、速水君が立ち上がった時には、もう皆走り去った後だった。
ただ、この時は速水君は状況を楽観視していたんだ。
出口……玄関まで行けば、大丈夫だろうと。
そう考えたのがフラグだったんだろうね。
校舎内にけたたましく、金属音が響いたんだ。
「っ何だ!?」
速水君は驚き、辺りを見渡した。
既に暗くなった……月明かりだけが頼りの校舎内。
そこに、普段見る機会の無い
「防火シャッター!?ぇ、なんで!?」
そう、まるで速水君の行く手を遮るように……。
いや、誘導するかのように、防火シャッターが下りていたんだ。
「玄関……はダメか。東校舎にしか行けない?」
遠くで、女性の悲鳴が聞こえた気がした。
速水君は考えるよりも、東校舎の1階を目指したんだ。
東校舎と言っても、この学院は大きいからね。
かなり走らなきゃいけない。
速水君は一心不乱に1階を目指したんだ。
堀君。
速水君は、無事に脱出できたと思う?
脱出できた
→脱出できなかった
諦めた
うん、そうなんだ。
1階にあるドア、窓、外に繋がるモノは全部開かなかったんだ。
割ろうとしても駄目。
外そうとしても駄目。
「な、なんで!?なんでだよ!ふざけるなよ!」
速水君は、全身汗だらけ。
制服にも大きな染みが広がり、体温を奪って行く。
と、そこで速水君の目に、赤い光が灯ったんだ。
それは、壁に設置されている火災非常ボタンだった。
どうして今まで気づかなかったのか。
速水君は、ボタンカバーを壊し、力強くボタンをしたんだよ。
「コレを押せば!消防が駆け付けてくれる!」
校内に非常警報が鳴り響き、消防へと連絡が行く。
そう思ってた速水君なんだけど……残念ながら、音は鳴らなかったんだ。
「嘘、だろっ!?」
彼は何度もボタンを押すけど、全く反応が無かったんだよ。
痛い程の、静寂。
絶望する速水君。
その時。
彼の呼吸音が響いている中、黒い廊下の奥から奇妙な音が響き始めたんだ。
ゾリリ。
ゾリリ。
まるで金属を引き摺るような、耳障りな音。
速水君は逃げる事を忘れ、音が聞こえて来る廊下の奥と目を向けたんだ。
ゾリリ。
ゾリリ。
人。
廊下の奥から闇を纏い、人影が近づいてくる。
ゾリリ。
ゾリリ。
月が雲に隠れているのか、窓からの光は、無い。
速水君は無意識に、後ろへと下がっていたんだ。
ゾリリ。
ゾリリ。
人影は、速水君が先程までいた場所へと近づいた。
すると、火災非常ボタンの赤いランプが、その様相を不気味に照らしたんだ。
「……ひっ!?」
身長は180程。
まず目に入ったのは、角が長く大きい般若の面。
そして、白衣。
その手には……錆び付いた大きな鉈を持って、いや、引き摺っていたんだよ。
「うわああああああああっ!?」
速水君は大声を上げて、逃げ出した。
そりゃ逃げるよね。
明らかに話が通じなさそうだし。
そして速水君は……。
家庭科室へと向かった
→当直室へと向かった
反撃を試みた
そう、東校舎には当直室があるよね。
担当の教師がいないか、速水君はソコへと向かったんだ。
「誰か!誰かいませんか!」
当直室には電気が点いていた……んだけど、誰もいなかったんだ。
さっきまで人がいた形跡はある。
けど、見当たらない。
速水君は室内にあった電話で助けを呼ぼうとしたけど、回線は死んでいたみたいだね。
ゾリリ。
ゾリリ。
鉈を引き摺る音が、大きくなってくる。
速水君は……。
→2階へと上がった
押し入れへと隠れた
当直室に立て籠もった
押し入れに隠れると彼は考えたんだけどね。
当直室に入って行くのを流石に見られているだろうから、止めたんだ。
彼は急いで部屋を出て、階段を上った。
2階には、トイレ、空き教室、トレーニングルーム、器具倉庫、生徒指導室、機械室がある。
しかも、廊下のずっと奥から、誰かが走っているような音が聞こえた。
速水君は……。
トイレに隠れた
→空き教室へ隠れた
トレーニングルームへ向かった
器具倉庫へ向かった
音の主を追った
走るような足音は気になるが、自分の事が先ずは先だ、と。
速水君は空き教室へと隠れる事にしたんだ。
他の部屋と違い、空き教室は出入り口が2つあるしね。
後ろから、ガン、ガンと音が聞こえて来る。
鉈が階段の段差でバウンドしている音だったんだろうね。
彼は静かに、空き教室へと入ったんだ。
空き教室の中には、無造作に置かれた机、床まで伸びるカーテン、複数のロッカー。
速水君は……。
→ロッカーに隠れた
カーテンの裏へと隠れた
机の下へと隠れた
窓が開かない事を確認し、速水君は音を立てないようにロッカーへと隠れたんだ。
ロッカーと聞くとさっきの事を思い出すけど、彼の時は居なかったようだね。
ゾリリ。
ゾリリ。
空き教室の横を、鉈を引き摺る音が通り過ぎる。
速水君は安堵するも、音が完全に遠のくまでロッカー内に隠れる事にしたんだ。
(1階に戻って出入口を探すか、屋上に向かって排水管を伝って降りるか……)
アレが何者かは解らないが、間違いなくこちらの命を刈り取る存在だ。
とは言え、鉈を引き摺る音で対処は可能。
問題はどうやって学院から逃げ出すか……。
キャアアアアアア、と。
悲鳴が聞こえたのは、彼が思考の海に潜ろうとした時だった。
ドタドタドタとこちらに近づいてくる、音。
速水君がロッカーの通風孔みたいな場所から空き教室を除くと、丁度女子が飛び込んできたんだ。
そう、一緒に反省文を書いてて、速水君を見捨てて逃げた女子だね。
彼女は足を挫いているのか、歩き方が歪だった。
その痛みに顔を歪ませながら、彼女はカーテンの向こうに隠れる事にしたんだ。
速水君は舌打ちしたくなる衝動を何とか抑え込んだ。
折角隠れていたのに、わざわざアレを空き教室へと呼び込もうとしてるんだからね。
ゾリリ、と。
鉈を引き摺る音が近づいてくる。
速水君は……。
→様子を見る事にした
女子と協力した
別の部屋へと移った
カーテンに隠れた女子と協力する。
速水君は一瞬だけどそう考えたんだけど、すぐさま頭を振ったんだ。
彼女は足を痛めている、ならば足手まといになると冷静に判断したんだね。
空き教室の戸が、乱暴に開かれた。
速水君が隠れたロッカーの前を、鉈を引き摺る音が横切……らなかったんだ。
なんと、アレの……般若の面の向こう側にある目と、速水君の目が合わさったんだよ。
この時、速水君の呼吸は一瞬止まったのかも知れないね。
いや、死を覚悟したのかも知れない。
ロッカーから引き摺り出される。
速水君は身構えるも、その時は来なかったんだ。
般若は速水君を無視してカーテンへと向かい……隠れていた女子を床へと投げやったんだ。
硬い音が響き、女子は苦痛の声を漏らす。
「いやぁぁぁっ!止めて!なんで私がっ!」
女子は必死に抵抗したけど、ダメだった。
般若は鉈を大きく持ち上げ……。
「ぷげっ!?」
女子の頭へと、振り下ろしたんだ。
勿論、即死だよ。
なのに般若は、執拗に女子を壊し始めたんだ。
積もりに積もった恨みを晴らすかのごとくね。
目の前で人が死んだ事実に唖然とするも、速水君の行動は早かった。
ロッカーを飛び出し、別の部屋に隠れるように駆けだしたんだ。
話が長くなるから省略するけど、速水君は逃げる事が出来なかった。
般若はまるで彼の居場所が解るように、しかも恐怖心を抱かせるようにじわじわと追い詰めていったんだ。
鉄アレイや花瓶で反撃も試みたけど、怯むだけ。
気付くと、速水君は3階端のトイレしか、逃げる場所が無くなっていたんだ。
非常階段のドアは、開かない。
3階にある部屋も、多くが開かない。
ゾリリ、と。
般若の輪郭が、大きくなって行く。
速水君は縋る気持ちで、トイレの中へと飛び込んだんだ。
鍵は勿論ついていない。
個室に入っても、居場所を知らせるようなモノ。
やはり窓も開かない。
絶望する速水君の目に、ドアの曇りガラスでぼやけた般若の面が移ったんだ。
同時に、耳障りな音が止まる。
ドアノブが、ゆっくりと回り始めた。
もう、ダメだ。
腰を抜かす速水君だが、その目に信じられないモノが飛び込んできたんだ。
ズゾゾゾゾ、と。
蛇口、トイレの中、いろんな場所から長い髪の毛が出てきて、壁を這い始めたんだ。
髪の毛はドアとドアノブに絡み付き、強固なバリケードになったんだ。
扉の向こうからは、般若が荒々しくドアを開けようとする音。
だけど、ドアはビクともしない。
般若がドアに鉈を叩きつけても、髪の毛がドアを覆っている為か、こちらも無意味。
時間としては、30分程。
結局般若は諦めて、どこかへ行ってしまった。
いや、もしかしたらそう見せかけているのかも知れない。
現に、髪の毛はトイレ内に這ったままだったからね。
それでも安心しちゃったんだろうね。
速水君はそのまま気を失っちゃったんだ。
……目を覚ますと、周りが明るくなっていた。
毛で覆われていた窓から陽の光が差し込んで、しかも人の声も聞こえたんだ。
彼が目を覚ましたのは、丁度生徒たちの登校時間だったんだよ。
室内を覆っていた髪の毛も消えていたし、般若の気配も感じない。
「助かった……」
日常に戻ったからこそ、昨夜の出来事がまるで夢のように思えたんだろうね。
だけれども、トイレの中で目覚めた事こそアレは本当にあった事なのだと、彼を現実に引き戻したんだ。
速水君は生を実感し、すぐさま反省文を書かせた担当教師に夜の事を伝えに行ったんだ。
だけど不思議な事にね、そんな教師は存在していなかったんだ。
しかも、反省文を書かせる為に速水君達を招集した事実すら、無かったんだ。
それだけじゃないよ。
殺された女子の遺体も、血痕も消えていたし。
彼が般若に投げつけた花瓶も、元に戻っていた。
そして、一緒に反省文を書いていた生徒も……全員、行方不明扱いになったんだ。
警備カメラの映像も、異常は無かったみたいだよ。
おかしいよね。
学内では、また新しく『神隠し』が更新されたと話題になったんだ。
それだけ。
それだけで、反省文を書かされていた皆は、時間の流れに忘れ去られていったんだよ。
以上が、自分が知る神隠しの話だよ。
最後の方は駆け足だったけど、ごめんね。
→速水君はどうなったんですか
髪の毛は一体何なんですか
般若は誰だったんですか
速水君?
いつの間にか学校に来なくなってたそうだよ。
夜の出来事を必死で伝えるも誰にも信じて貰えなったみたいだからね、退学したんじゃないかな。
最初に言ったように、東校舎3階のトイレは髪の毛が生えるけど、害は無いってのは信じて貰えたかな?
でも、結局その髪の毛が誰のなのか、男の髪なのか女の髪なのか。
何故、速水君を助けたのか……全く解らないんだよね。
昔、トイレの上にある貯水槽が故障したって話はあるんだけど……関係あるのかな。
般若の正体も解らなくてもやもやしてるかも知れないけど、神隠しの話はそんなものだよ。
年々、内容が変わるからね。
退学や休学した生徒を面白おかしく脚色した作り話って説もあるんだから。
これで、自分の話は終わりです。
解らない事だらけの話になったけど、ごめんね。
でも、この学院に伝わるこういう話って、基本的にぼんやりしてるからなぁ。
……結局、7人目は来なかったね。
堀君、どうする?
もう時間が時間だし……解散した方がいいと思うよ?
黄砂のせいかな?
月の色が、不安になるくらい気持ち悪いしね。
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