五人目
っと、次はあたしの番ですか?
1年の
宜しくお願いしま~す。
っと、ちょっとネイル用の片付けるんで待ってて下さい。
待ち時間のをそのままにしちゃってました。
ってか、さっきから、なんかすごい事立て続けに起きてないですか?
道場じゃ何かあったみたいだし。
呪いのロッカーの実物がいるし。
コックリさんでコインが勝手に動くし。
普通であれば、新聞部さんがサプライズで仕込んだ接待ドッキリ!と思うんでしょうけどね。
でもこの学校に居れば、全部本物だってわかんだね、って奴ですよ。
てか、呪いのロッカー初めて見たけど、ホント色んな所に現れるんですね。
また開けたい気もしますけど……やめときます。
えっと、皆さん、なんで1年のあたしがココに居るのか?って思うかも知れません。
新入生は怖い話を伝える対象、ですからね。
実はあたし、中等部からそのままココに来たんですよ。
いわゆるエスカレーター式って奴、ですね。
なので、この学院に伝わる怖い話は結構知ってる方だったりします。
中等部にも怖い話がめちゃくちゃあるんですよ。
それこそ100以上はあったんじゃないですかねー。
死後の姿が映る西校舎踊り場の鏡。
プールに現れる溺死した水泳部員の腐乱死体。
深夜の音楽室から聞こえるビッグブリッヂの死闘。
……他にもいっぱいあるんですよ、中等部にも。
でもですね。
中等部と高等部、両方に伝わる怖い話が重なる場所があるんですよー、ココ。
堀先輩、それが何処か解ります?
美術室
図書室
→保健室
ブブー、違いまーす。
正解は、図書室ですよ。
ほら、ココの図書室って、中等部と高等部の間にある併用施設じゃないですか。
なので、怪談話も被っちゃうんですよね。
大きさ的には図書館、なんですけど、皆して図書室って言うんですよね。
何でだろう。
あたしはこう見えて読書、好きなんですよ。
まぁ読むと言っても、ラノベが多いんですけどねー。
あ、そういや堀先輩って電子書籍派ですか?
→紙媒体が好き
電子書籍派
どっちも使う
解ります、解ります。
場所は取りますけど、本を読んでるぞ、って感じがしますよね。
人によっては紙の匂いが好き、って人もいますね、あたしは違いますけど。
あ、あと読み飽きたら売ってお金にできるのも良いですよねー。
はした金ですけど。
で、今から図書室に伝わる話をするんですが……。
怖い話……と言うよりは、不思議な話になるんですけど。
ぶっちゃけ、図書室に纏わる怖い話も多いんですよ?
手を嚙み千切る百科事典、とか。
本棚に浮かぶ女生徒の顔、とか。
最近聞くようになったのに、血塗れの本、ってのがありますね。
……あ、気になります?
本に血っぽいのが付いてて、それが図書館中の本棚に散らばってるんです。
んで、それを正しく並べると、血が人の形になるって話です。
まぁそれは置いといて、あたしが話すのは【予言の書】って話です。
堀先輩は予言と聞いて、どんなのを思い浮かべます?
→ノストラダムス
アカシックレコード
件
あー、なんかテレビで見た事あります。
2000年問題って奴でしたっけ?
……違う?
まぁ、別にいいじゃないですか。
結局当たらなかったんですよね?
あたしも考えがあって聞いたわけじゃ無いんで、あはは。
で、その【予言の書】なんですけど。
本の中身が、その人の未来を預言してる、って奴なんですよ。
本を開くと真っ白。
だけどその人の未来が文字で浮かんでくる。
確か、そんな内容でした。
あたしが聞いた話だと、10年近く前ですね。
当時、中等部の3年に
洋子ちゃんは図書委員をやっていて、週に2日、放課後に委員の仕事をしていました。
彼女、別に本が好きってわけじゃ無かったんですけどね。
図書委員の仕事をしながら、放課後まで適当に雑誌を読む。
結構、緩い感じだったそうですよ。
で、その日、洋子ちゃんは別の仕事を任されたんです。
季節は、本の天敵である湿気が悩みとなる夏前。
洋子ちゃんは、寄付された本を纏めて欲しいって、司書さんから頼まれました。
量にして、50冊ほど。
洋子ちゃんは目録とにらめっこしながら、寄贈日や管理ナンバーを纏めたようです。
「……何、この本」
ふと、洋子ちゃんは首を傾げました。
と、言うのも、寄贈された本。
その中に、真っ白な本があったからなんです。
ブックカバーは無く、表紙も裏表紙も真っ白。
洋子ちゃんが本を開くと、中身も真っ白でした。
「落書き帳、かな?」
そう判断し、洋子ちゃんはそれをどう処理するか悩み始めたんです。
すると、真っ白だったページに、黒い染みが浮かび始めました。
「……え?」
彼女が目を見開く先……黒い染みは、文字へと形を変えていったんです。
その日の日付。
そして、【帰り道 落下物注意 工事現場】と。
黒い染みは、そう文字へと変化したんですよ。
これって未来が解っちゃうの!?
いいもの見つけちゃった!ラッキー!
って、あたしなら思いますけどね。
でも洋子ちゃんは、身構えたんです。
と言うのも、洋子ちゃんはちょっと現実主義な所があってですね。
占いとか、そう言うの全く信じないタイプだったんですよ。
んで、目の前に怪しい本がある。
先輩、洋子ちゃんはその怪しい本をどうしたと思います?
持って帰った
本棚に並べた
→燃やした
そうです、洋子ちゃんもそうしようとしたんですよ。
図書室って、やっぱ廃棄する本が出てくるんですよね。
まぁでも、学院内焼却炉で燃やすってのはその時代も許されなかったみたいで。
業者回収用の専用の封筒に、密封したそうなんです。
それで図書委員の仕事も終わり、って事で、洋子ちゃんは帰る事にしました。
空はまだ西日で赤く、人通りも多い帰宅道。
途中、足場を組まれたビルがあったんです。
洋子ちゃんはいつも通り、そこを横切ろうとしました。
けど、頭の中に先程の本の文字が浮かんだんです。
【帰り道 落下物注意 工事現場】。
バカみたい、と思いつつ。
洋子ちゃんは足を止めました。
そして次の瞬間、ガゴゴォンッ、と。
洋子ちゃんの目の前に、金属パイプが落ちて来たんです。
もしそのまま歩いていたら、金属パイプは確実に彼女の頭に刺さってたと思いますよ。
えぇ、間違いなく即死、だったかと。
それは洋子ちゃんが一番理解してたみたいですよ。
翌日、洋子ちゃんは朝一で図書室へと向かいました。
あまり眠れなかったみたいですけど、まぁ、死にそうな目にあったから仕方ないんじゃないですかね。
で、更なる衝撃が洋子ちゃんを襲います。
なんと、昨日密封してたあの本が、何故か机の上に置いてあったんです。
まるで彼女を待つかのように、ですよ?
怖いですよね。
洋子ちゃんは疑問を抱くよりまず先に、本を手に取り広げました。
昨日の文字は、そのまま。
そしてその次のページに、日付と共に新しく文字が浮かんできたんです。
【国語 抜き打ち テスト】
洋子ちゃんは迷いました。
今から少しでも復習をすれば、抜き打ちテストに対応できる。
でもそれは、この気持ちが悪い本を信じてしまう事になる。
そもそも、昨日のアレは偶然の可能性が高い。
洋子ちゃんは……。
→信じる事にした
やはり信じられなかった
先生に相談した
んまぁ、偶然かも知れないけど一回はその通りになったわけですしね。
洋子ちゃんは事実に対し、高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応したわけです。
国語は、昼休みを挟んだ五時限目。
洋子ちゃんは休み時間をテストへの復習で費やしました。
そして、五時限目が始まります。
「いきなりで悪いが、今日は簡単なテストを行う。復習をちゃんとしてれば簡単だぞ」
クラスメイトが喚く中、洋子ちゃんは唖然としてました。
やっぱりあれは本物かも知れない、と。
彼女は恐怖を抱きつつも、件の本に興味を抱き始めました。
あ、テストは満点だったみたいですよ。
先生にも褒められ、クラスの皆から称賛されたようです。
「やっぱアレ、本物の預言書なんだ」
現実主義だった分、その反動が来ちゃったんでしょうね。
あと数回は様子を見るはずが……。
気付けば、彼女は件の本……預言書を、肌身離さず過ごすようになったんです。
【登校中 最初の信号で 事故】
【下校 早く 誘いに乗るな】
【水道管破裂 早朝に断水】
朝起きて、まずは預言書を開く。
そしてその内容を基に、生活する。
不安や危険は、全部預言書が教えてくれる。
洋子ちゃんの生活は、とても輝かしいモノに変質していきました。
実は、行方不明者が出てるんですよ、彼女の友人から。
その人は行方不明になる前に、洋子ちゃんを何かに誘ってたそうです。
でも、預言書のお陰か、洋子ちゃんはソレを回避できたんだと思いますね。
行方不明者の話は珍しくないんですよ、ココ。
まぁそんなわけで。
洋子ちゃんの生活は、平穏でした。
堀先輩。
彼女はソレで満足したと思いますか?
→満足した
できなかった
人間、あ、いや、欲望って怖いですよね。
それに満足したら、もっと上を求めちゃうんです。
残念ながら、洋子ちゃんはもっと自分の為になる予言を求めちゃったんですよ。
でも気持ちは解りますよー?
美味しいモノを食べると、もっと美味しいモノが食べたくなる。
面白い遊びを体験すると、それ以上の刺激が欲しくなる。
生活のレベルは下げられないって言いますし、そんなものですよね。
「ねぇ、預言書さん。もっとこう……私のプラスになる予言は無いかな?」
夜、本に語り掛ける女の子の図。
傍から見るとヤバヤバなんですけど、彼女、感じてたんでしょうね。
預言書が意志を持っている、って。
まっ、持ってたんでしょうねー、意思。
あたしもそう思えるから、こうやって語ってるわけですし。
んで、その日から、書かれる予言が具体的になったみたいですよ。
【交差点で困ってるおばさんを助けると お礼が貰える】
【今日一日 東校舎のロッカーに近づかない トラウマになる】
【明日発売の化粧水 洋子の肌に一番合う】
【16時に駅近くのドーナツ屋 好きな芸能人 サイン貰える】
洋子ちゃんの生活は、より快適になりました。
正確に言うと、得する事が増えた、って感じですね
流石に洋子ちゃんは、これ以上を望みませんでした。
あたしだったら、競馬でどれが来るかーとか、宝くじの当選番号尋ねますけどね。
洋子ちゃんも同じ事考えたんじゃないですかね。
まぁそれを要求しなかったから、預言書と良い関係になったのかもですけど。
んで、ここで洋子ちゃんに転機が訪れます。
なんと!男の影が出来ちゃったんです!
彼の名前は、
所謂陽キャラって奴で、見た目も良かったそうです。
この時、洋子ちゃんってかーなーりいい女になってたんですよ。
予言という存在から来る、精神的な余裕。
あと、預言書監修による、美容。
ギャンブルによる儲けは無いものの、人助けによるお礼等で生活にゆとりもありました。
ゆーえーに、荒巻君は洋子ちゃんを狙うようになったんです。
……言い方が悪い?
あはは、でも実際そうだったみたいですしねー。
荒巻君は、洋子ちゃんに強気なアプローチを始めました。
最初は塩対応だった洋子ちゃんも、何となくですが彼を意識し始めました。
預言書が紡いだラブストーリー。
もしかしたら先輩は、そんなの期待したんじゃないですか?
ですが、そうはならなかったんです。
【荒巻大 洋子に不幸を運ぶ 関わるな】
何故なら、預言書がそう予言しちゃったんですよ。
先輩。
洋子ちゃんは、どうしたと思います?
預言書を信じた
→預言書を信じなかった
……あははっ。
先輩ってばもしかして、愛こそ至上ってな妄想抱いてません?
洋画とか見てるとそう言うのは多いから、勘違いしちゃうのは解りますけどね。
それとも、堀先輩自身が愛を信じられないから、他者に求めちゃったり?
……なんて、冗談ですよ、冗談。
洋子ちゃんの預言書への信頼は、揺るぎないモノでした。
なので、洋子ちゃんはその通り、荒巻君に心を開かなかったんです。
それがいけなかったんでしょうね。
荒巻君は、口説いて靡かない女は居なかったようです。
同級生、下級生、上級生、大学生、教師、人妻……。
トロフィー感覚だったようですよ?
しかも捨てる際は躊躇わない。
女の敵ですね。
あたしはこんな成りしてますが、やっぱ付き合う男性は誠実な人がいいって決めてますんで。
オタクにも理解ありますし。
まぁ、荒巻君みたいな奴は絶対にお断りですね。
つーか、できれば年下の……小学生くらいの元気な子がいいですね、はい。
ともかく。
荒巻君は自分に興味を抱かない洋子ちゃんに、執着し始めたんです。
「おもしれー女」って思っちゃったんでしょうねー。
洋子ちゃんからすれば全然面白くないですけど。
まずは、学校での粘着質な会話。
んでもって、しつこいデートへの誘い。
酷い時は図書委員の仕事中、ずっと話しかけたそうですよ。
あーでも、救いなのは、女子達が同情してた事でしょうか。
岩上先輩の話みたいな嫉妬とかいじめとかは無かったそうです。
洋子ちゃんは、辟易してました。
預言書も、荒巻君からどう逃れるかの預言が大半を占めるようになります。
で、驚いた事に、預言書が洋子ちゃんを励ますんですよ。
【頑張ったな 明日は休日 家に居よう】
【今日はもう大丈夫 ゆっくり休め】
まるで会話するかのようにですよ?
洋子ちゃんは心底喜びました。
……この時から彼女の中の預言書への感情は、恋、になったんじゃないかなって思うんですよ。
えぇ、最初は信頼だったんでしょうけどね。
自分の道を照らしてくれる。
いつも傍にいて励ましてくれる。
「この本は、ううん、この方は、私の人生に無くてはならない存在」
相手は人間じゃない無機物ですけど……洋子ちゃんは預言書へと心を寄せました。
実際、預言書を見る目も変わったみたいですね。
そりゃもう、恋する乙女って奴ですよ。
荒巻君は心底面白くない感じだったようですけど。
本に、恋愛感情を持つ。
堀先輩は、彼女の事をおかしいと思います?
おかしい
→おかしくない
愛も多様化してるって言いますが、そういうのとは違いますけどね。
でも、あたしも別に嫌悪感は無いです。
なんというか、二人の関係には誠実さがあるように見えるので。
でも預言書の方は、何でそこまで洋子ちゃんに尽くしたんですかね?
言う事を聞く扱いやすい女。
俺が導かないとダメな女。
そんな思いがあったりして……あはは、冗談ですよ。
んじゃま、話を続けますね。
話していると忘れがちなんですが、預言書は本です。
つまり、ページ数に制限があるんですよ。
以前は一日一回の預言でしたが、今では一日に数回。
しかも世間話レベルでページを消費してたんです。
まぁ、1ページを無駄なく使ってたりはしてたっぽいですけど?
洋子ちゃんは避けては通れない問題として、預言書に思い切って尋ねました。
「ページが無くなったら、貴方はどうなるの?」と。
【わからない】
と。
預言書は答えました。
それからは、ページを無駄にしない様に。
必要な事だけをやり取りすると、二人は約束しました。
言葉が制限されているからこそ、短いながらもその言葉に価値が出てくるんでしょーね。
関係はなんというかこう……互いの言いたい事が解るみたいな?
いい年してイチャイチャしてる夫婦っているじゃないですか?
ああいう風になって行ったんですよ。
二人の関係が強固になる中、荒巻君は徐々に過激になって行きました。
洋子ちゃんの預言書を見る目で、色々解っちゃったんでしょうね。
彼女の中では自分は本にも劣る存在だ、って。
実際そうだったんですけど。
嫉妬に狂った荒巻君は、預言書に手を出……せば、幾分か人間っぽかったんですけどね。
彼、病的に洋子ちゃんへと執着し続けたんですよ。
洋子ちゃん以外を狙えば建設的だったのに。
まぁプライドがズタズタ寸前だったんでしょうねー。
荒巻君の悪行を語りたい所ですけど、あたしが胸糞になるんで控えときます。
いやぁ、酷かったそうですよ?
洋子ちゃんを「彼女」としてではなく、「トロフィー」として手に入れようとする醜悪な様は。
あたしはトロフィーより実績って言い方が好きですけどね、どうでもいい事ですけど。
それでも洋子ちゃんは靡く……いや、言い方が違いますね。
荒巻君に屈しませんでした。
預言書がここぞって時に危険を回避させてましたしね。
でも結局それって、守り、でしかなかったんですよ。
荒巻君はどんどん攻めて来るのに、守り、あと逃げでしか対応できない。
預言書が屈強な男性だったら、攻め返す事も出来たんでしょうけどね。
「洋子、今度お前の両親に挨拶に行こうか?さすがに自分以外は守れないだろう」
「いい加減俺の
「俺一人からは逃げられるかもしれないが、複数からはどうだろうな?」
荒巻君の執着は、酷くなる一方。
流石に洋子ちゃんも、このままではまずいと考え始めました。
……悲劇が起こったのは、そう思った次の日だったんです。
その日、洋子ちゃんはいつも通り図書委員の仕事をしていました。
ただ何故かその日は仕事が多く、放課後遅くまで残る羽目になったんです。
「やっと終わったぁ……なんで今日に限って書籍問い合わせが多かったのよ」
洋子ちゃんの手元には、図書室の鍵。
責任者である司書さんは奥さんの誕生日と言う事で、その日ばかりは定時に帰宅していました。
時間も遅いので、他の生徒もです。
天気は、雨。
いつもより暗くなった館内を見渡しながら、洋子ちゃんは施錠作業を始めます。
(なんか不気味だけど、彼が何も言わないから大丈夫よね)
右手に収まる預言書の存在を感じ、洋子ちゃんは入り口へと向かいます、
入り口が開いたのは、その時でした。
「あっ、すみません。もう閉め……」
「やぁ洋子ちゃん、会いに来たよ」
そこに居たのは、荒巻君だったんです。
しかも、数人の仲間を連れて。
まさに危険が危ない状態!
洋子ちゃんはすぐさま踵を返し、逃げ出しました。
「逃げても無駄だよ、裏口も搬入口も仲間が見張ってるからね」
彼の言う通り、図書室の出口を、荒巻君の悪友達が包囲していました。
先輩もご存知でしょうが、ここの図書室は窓がとても小さいんです。
本の劣化や湿気が入るのを防ぐ……ためでしたっけ、確か。
だから、窓から逃げる手段は無い。
でも、無駄に広いんで隠れるスペースって意外とあるんですよね。
「洋子がいけないんだよ、俺の彼女にならないからこうなるんだ」
「彼女になって飽きたらポイ捨てする癖に?そんなお断りよ!」
「仕方ないじゃん、俺はほら勝ち組だからさ?欲張りなんだよ」
そんな事よりも、洋子ちゃんには気になる事がありました。
なぜこんな状況を、預言書が教えてくれなかったのか、と。
洋子ちゃんは預言書を開きながら、本棚の間を駆け抜けます。
「別に私じゃなくてもいいじゃん!私より可愛い子は一杯いるでしょ!?」
「洋子も可愛いよ、だから僕のモノだったって証を刻みたいんだ」
「何言ってるの!?」
「好きなんだよ、俺の中古となった女と付き合う男を見下すのが」
「あ、頭おかしいんじゃないの!?」
本当に……女子をモノとしか見ていないってはっきり解りますよ。
ぶっちゃけ死んでどうぞ、ですよね荒巻君。
そう言う人だったらしいんですよ、実際に。
おもちゃ感覚、と言うんでしょうかね。
(あっ……!)
洋子ちゃんが預言書を開くと、新しく文字が浮かびました。
【ら行の棚に進んで 1分 大人しくして】
何故この状況になると教えてくれなかったのか。
洋子ちゃんはそう口に出そうとしましたが、なんとか飲み込みます。
【ここで相手に話しかけて Fの棚にすすんで】
【本を落とし そのまま女子トイレの前へ】
【ドアを開け 中に入らず 司書室へ】
【東側電気を消して 受付の机下へ】
さっきも言いましたけど、ココの図書室って図書館レベルで広いんですよね。
二階までありますし。
洋子ちゃんと荒巻君二人の鬼ごっこが十分成立するくらいなんですよ。
預言書の指示は完璧でした。
荒巻君は誘導され、洋子ちゃんを完全に見失います。
「くそっ!皆、来てくれ!」
荒巻君が叫ぶと、各入り口から荒巻君の仲間が鬼ごっこに参加しました。
さっきまでは扉の外に居たのに、今は扉前。
一気に逃げづらくなります。
ですが、預言書の指示はやっぱり完璧でした。
細かい指示で洋子ちゃんを逃がし、荒巻君達を誘導します。
【手元の電話で内線108に1コール すぐB棚の真ん中へ】
【本棚の下に落ちてるピンポン玉を 入口方向へ投げる】
【一回咳き込んで 二階へ上がって 編纂室方向へ】
しかしながら、洋子ちゃんは焦っていました。
預言書のページが、どんどんと消費されていたんです。
(やめて!もうやめてよ!)
もはやページが無くなり、表紙面や空いた空白へと文字が書き込まれていく預言書。
このまま荒巻君に捕まった方が良いのではと。
ひどい目に合うけど預言書は残るのでは、と。
洋子ちゃんは逃げるのを諦めようとしたんです。
「見ーつけたっ」
洋子ちゃんが願ったから、なのか。
預言書が一所懸命誘導したのに、洋子ちゃんは見つかってしまいます。
左右から悪漢が現れ、もはや逃げ道は無し。
【後ろの扉の中に 入って】
預言書の表紙の端の方に、そう文字が浮かびました。
洋子ちゃんが振り向くと、『歴史資料室』の看板。
ココは立入禁止で施錠してあるのではと考えながら、ドアノブを回しました。
「開いてる……?」
室内から漂う、心地良いカビ臭さ。
洋子ちゃんはすぐさま部屋へと体を滑らせ、内鍵をかけようとしたんです。
ですけど、一歩遅かったようで。
荒巻君の体当たりで、洋子ちゃんは床へと吹き飛ばされました。
「さぁて、短い間だけど俺のモノになって貰うよ」
次は俺だと厭らしい顔を浮かべる悪漢達に道を塞がれ、洋子ちゃんは部屋の奥へと這いずります。
カチリとした音と共に明るくなる、室内。
洋子ちゃんは床に落ちた預言書へと手を伸ばし、手元に引き寄せました。
【右側 紫の本を 開いて】。
最早文字だらけの裏表紙に浮かんだ指示通り、洋子ちゃんは紫色の本に手を伸ばし……。
→本を開いた
本を開かなかった
本を投げた
はい。
重苦しい気配を感じながらも、洋子ちゃんは紫色の本を開いたんです。
瞬間。
視界を破壊する光。
鼓膜を揺るがす轟音。
鼻腔を歪ませる悪臭。
(な、ななな、何なのっ!?)
洋子ちゃんは一瞬気を失うも、すぐさま預言書へと未だチカチカする目を移しました。
ふと、頭上から声が響きます。
『をのこ草子……では無いな。存在する預言書への反証欲求で生まれた本、か?』
刺々しい鱗に覆われた、紫色の姿。
全体的にシュッとした、美しい容姿。
ただ問題なのは、それら上半身が紫色の本から飛び出ている所でした。
まぁ、人間じゃないですね。
洋子ちゃんは一瞬目を奪われるも、その異常さに恐怖を抱いたようでした。
『あぁ驚かせてすまない。ここの本を毀損しそうな愚者を消しただけだ。……もしや友人だったかな?』
床へと額をこすり付けなければならないような圧力に何とか打ち勝ち、洋子ちゃんはその存在が指差す方を見ました。
床に張り付いた、悪漢達と同じ数のどす黒い焦げ跡。
彼女は吐き気を何とか我慢し、その存在に頭を下げます。
「いえ、た、助けて頂き、有難う御座いました」
洋子ちゃんの言葉に頷いたその存在は、次は預言書へと声を掛けました。
『その身をもって人間を救ったか。もうすぐ朽ちるだろうその身、我が記憶に残そう』
「えっ!?」
そうなんですよ。
預言書は、自分の命……って言っていいんですかね?
まぁいいか。
命をかけて、洋子ちゃんを守ったんです。
多分ですけど、荒巻君は将来的に洋子ちゃんを苦しめたんだと思うんですよ。
だから、預言書は行動に移した。
図書室での事を予言しなかったのも。
上手く誘導して全員集めたのも。
件の存在に荒巻君達を処理させたのも。
ぜーんぶ、洋子ちゃんを救うために。
洋子ちゃんは泣きながら、預言書と会話しました。
怒り。
悲しみ。
感謝。
そして……未来の事を。
最終的に予言書は、全身真っ黒になったそうです。
文字に文字を重ね、しかも隙間無く。
その後、崩れる様に、消えて行ったそうですよ。
一晩図書室で過ごしたようなモノなので、教師や親にはかなり怒られたみたいですけどねー。
えぇ、彼女と預言書の関係は、そこで終わりです。
本が復活する事も、人間に成って会いに来るって話も、ありません。
……あはは、怖い話じゃなくて残念でした?
でも、あたし好きなんですよね、この話。
これはあたしの勝手な想像ですけど。
預言書は自分の預言を信じてくれる人がいて……洋子ちゃんが信じてくれて、嬉しかったんじゃないですかね?
実際はどうかは解りませんけど、あたしはそう思います。
……え?
その後洋子ちゃんはどうなったか、ですか?
司書になって、ココに勤めてますよ。
彼女が勤め始めて、白色の本がかなり増えたみたいですよ。
……あーでも。
結局、荒巻君達を消した存在って何だったんでしょうね?
それだけが解らないんですよねー、いつの間にか居なくなっていたみたいで。
なんか当時の警備カメラの映像が消えていたって話なんですよ。
そのおかげで、洋子ちゃんが荒巻君失踪事件の容疑者にはならなかったんでしょうけど。
本の精霊?
図書室の亡霊?
もしかして悪魔だったり?
なーんて……。
堀先輩、なんでそんな微妙そうな顔してるんですか。
もしかして、あたしの話がつまら……え?
だから珍しくついてこなかったのか、って……どういう意味です?
まぁ、いいですけど。
てか、結局7人目が来ないんですけどいいんですかね?
外もちょっと暗くなってきてるし。
じゃ、次の人宜しくお願いしまーす。
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