迷信


私立 翔志館学院。


行政が主導で行った新興住宅地の近く。

そして隣県が近い事から、多くの生徒を有する過大規模校……所謂マンモス校だ。


校区内は高等部だけでは無く中等部もあり、広大な敷地となっている。

また部活も活発で、敷地内に建てられた合宿施設やトレーニング施設等により、運動部の実績は多い、

それは文化部系の部活でも同様で、共に全国で強豪校と知られている。


その翔志館学院の、とある会議室。

そこに、智彦は居た。



(生徒が多いというか迷子になりそうだったんだけど、ね)



智彦はチラリと、窓の外を見る。

今日は午後までの授業だった為、学内から賑やかな声が響いてくる。

陽はまだ高く、その光は眠気を誘う。


だが、黄砂だろうか?

普段は青い空は、どんよりと濁っていた。



(星夜から預かったIDカード、意味なかったな)


さすが私立と言ったところか、学校内のセキュリティは高い。

IDカードが無いと入れない玄関、所々に点在する警備カメラ、そして何かのセンサー。

智彦自身、これはまずいのでは?と考えたのだが、今日はたまたま点検日らしく、全ての電源が落ちているとの事だ。


(作為を感じる、んだけど……まぁ、いいか。始めよう)


智彦は姿勢を正し、眼前に座る六人の生徒へと、頭を下げた。


「こんにちわ、放送部の堀星夜といいます。今日はお忙しい中集まって頂き、有難う御座いました」


智彦は、室内を。

そして、六人を、見渡す。



髪を短く切りそろえた、目付きの悪い体育会系の男。


猫背でこちらをじっと見つめる、神経質そうな男。


無表情のまま、その黒く長い髪を白い指で弄ぶ女。


胡散臭い笑みを浮かべた、長身でチャラそうな男。


褐色の肌を光らせ、自身の付け爪に興味を向けている女。


すこしぽっちゃりとした、人の良さそうに目を細める男。



智彦は手元の資料を見て、各々の名前を頭へと刻み込む。

七人目が来てはいないが、そもそも七人目の名前欄が空白なのだ。

ただこれ以上皆を待たせてはいけないと、智彦は企画を進行する事にした。



「えっと、これから順番に、あなた方の話を聞かせて頂きます。録音させて頂きますのでご了承下さい」


カチリ、と。

智彦は借り物のボイスレコーダーの電源をONにし、皆に見える様に机上へと置いた。




「では、一人目は……」




そして、物語が始まる。

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