学校に伝わる怖い話

学校に伝わる怖い話 ~プロローグ~



「で、どうよ?大学生活」


髪を茶色に染めたボーイッシュ娘が、眼鏡娘へと尋ねる。

底抜けに明るい声。

眼鏡娘は眉を顰め、咥えシェイクのストローから唇を離し、ボーイッシュ娘へとぶー垂れ始めた。


「カリキュラムの履修が大変、サークル勧誘がうざったい、学食の席に暗黙の了解がある」

「大学生は大変だにゃー」

「フリーターは気楽そうでいいわよね」

「夢、なかなか見つからなくてさー」


ボーイッシュ娘がからからと笑うと、窓の向こうへと目を向けた。

先月までの寒色は消え去り、街中には緑が芽吹き始めている。


「あと制服が無いから、毎日の服装が地味に悩む」

「冠婚葬祭と日常と、本気で万能だもんねー、制服」


平日の夕方だが、二人が良く利用するファストフード店はほぼ満席だ。

しかも、多くの席を学生が占めている。

まだ真新しい制服に身を包む彼ら彼女らを、二人は生暖かい目で見渡した。


「ま、アンタがこっちの大学に通ってくれるようになって良かったよ」

「はいはい、どうせ志望の国立には落ちましたよー、だ」

「んー残念だったね。でも、私としてはこうやってアンタと会えるから、良かった」

「ぅ、あんたたまに卑怯な事言うわよね」


会話を一旦止め、もそもそとハンバーガーを口へと運ぶ。

周りから聞こえるのは、新しい生活への期待、不安、理想だ。

自分と同じような不安を抱えている人の声が聞こえ、眼鏡娘はつい、笑みを零してしまった。


「いつも通りオカルト話になるんだけど。大学ってさ、七不思議みたいなのってやっぱあんの?」

「んー、七不思議って言うより、各建物に纏わる怖い話が点在、って感じ」

「やっぱ学校みたいな閉鎖空間だから、ああいうのが存在してたのかにゃー」

「だね。大学はなんというか開放的で人の出入りも多いから、その辺の違いかな」


何処からともなく舞って来た桜の花びらが、窓ガラスへと張り付く。

春一番ではないにしろ、外は風が強いようだ。


「……そういや私達が通ってた学校、七不思議いつの間にか無くなってた気がしない?」

「……そう言えば、そうかな?」

「ね?なんか色々あったのに、全く話題に出なくなった様な。七不思議が逃げちゃったのかな」

「何バカな事言ってるのよ。逆に例のマンモス校は100不思議ぐらいあるって話だったね」

「あの私立高校かー。マジで行方不明者がでてるって噂だからにゃー」


その後も、二人のオカルト話は続く。

首無しライダーの呪いで人が死んだ、とか。

行方不明となっている議員と瓜二つの石像が見つかった、とか。

ターボ兄さん再び、とか。

人気番組迷っていいですともの映像に霊が映りこんでいた、とか。


新生活でも、以前と変わらぬ時間。


二人と街中の華やかさとは別に。

春の空は、黄色くどんよりと濁っていた。


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