過去
あぁ、夢を見ているな、と。
ありすは思った。
テレビの画面を見る様に……自分ではない、誰かの目の視点で、物語が流れ始める。
まずは、黒色。
凍てつきを覚える黒色の世界。
ただただ、慣性に従い、漂うだけ。
そこには目的も怠惰も無く、ただただ、生きるだけ。
星々は、地上から見る姿と全く違っていて。
LEDライトで照らされた石や岩に、見える。
(綺麗……)
次に、赤色。
青く丸い星に、自身の体が引かれ、高熱を浴びた。
次に、緑。
樹々が波打つ山間部と、集まり出す人々。
次に、青。
空……宇宙を見上げ望郷するも、叶わない。
自身の体から光を出し、この星の生命体とコミュニケーションを取ろうとするが、これも叶わない。
『あなたの 名前を 教えて』
驚愕。
この村の権力者らしき男が、自身の使う文字を使って来た。
緑色の板に白い文字を描き、こちらの文字に反応する。
「個体名称は無い 便宜上 好きによんで」
『では いしがみ さま と』
「わたしは 帰りたい」
『帰る? どこへ?』
「空の ずっとずっと 上」
『この国では 無理 今は』
「なら 可能性は ある?」
『この国が 強く 豊かになれば』
「どうすればいい?」
『何が できる?』
(あの文字をゼロから解読したって、すごい人……!)
ザザッ
映像が切り替わった。
目の前には、体がボロボロになった男性。
周りからは、不貞を働いた等の罵声が聞こえる。
『解析完了 今から この
泣きわめく男に、石神から滲んだ緑の光が張り付いた。
そして、体が鉄へと変わって行く。
陽の光を眩しく撒き散らす人間に形をした鉄に、一同が歓声を上げた。
『石神様 今後とも よろしくお願いします』
「約束を 忘れないで」
その後は、同じような事の繰り返しだ。
先程の男達が、鉱山内へ男達を連れてくる。
石神が、男達を、鉄へと変える。
ただ、たまにではあるが、人間が鉄でなく石へと変わる事があった。
石神とて、万能では無い。
だがそうやって失敗する度に、村の人間が蔑む目を向ける。
女を連れて来てはどうか。
若い方が良いのではないか。
石神には言葉は聞こえないが、ありすには、言葉が聞こえる。
与えられてる立場で、欲求が肥大化していく様。
(あぁ、そういう事、だったんだ)
ありすは、村人へと怒りが湧くと同時に成程と考えた。
だから村人達を、無価値な扱いをした石に、したのかと。
「多くの鉄を作った まだ足りないか」
『足りない この国が他国をしのぎ 技術者を取り込まないと』
「まだ 足りないか」
『足りない 国がさらに要求してきた 更なる量が必要』
「まだ 足りないか」
『足りない 逆に鉄が不足する可能性が ある』
「まだか」
『すまない 足りない』
(利用してる……様に見えるけど、男の人は悲痛そうだなぁ。戦争やってたんだっけ)
石神は、食事も睡眠も必要が無い。
だから、待つつもりでいた。
ソレが怒りに変わったのは、男が別の人間に変わってからだ。
その人間は、今までとは違い、多くの人間をぞろぞろと引き連れてやって来た。
『石神様 私ば新しい当主 やそ です よろぎく』
やそ、と名乗った人間は、今まで以上に鉄を要求してきた。
鉄を作る傍ら、石神はいつものように、人間へと尋ねた。
「帰りたい 鉄はまだ必要なのか」
人間……桐原矢三は、厭らしい笑みを浮かべ、文字を書いた。
『石神様 ここよずっと 鉄ぽ 作れ』
(あっ……!)
石神から、赤い光が滲む。
「約束違う 帰るために 鉄が必要」
『知らん 石神様は 私のため 鉄ぽもっと 作る』
瞬間。
石神から生まれた赤い光は、坑道内に広がって行く。
坑道内に居た人間を石に変え、その体を動かし、別の人間を襲う。
襲われた人間は同じく石化し、石神の光を感染させていく。
時間にして、約四日。
何とか沈静化を図ろうとする者。
私財を詰め込んで村から逃げ出そうとする者。
他の村から救援に来た者。
山神に助けを求める者。
石神を排除しようとする者。
桐原矢三に責任を押し付け、贄にしようとする者。
未だ自分の失敗を認められず、喚き散らす桐原矢三。
……陽落ち村の住人の殆どは石と化し、村から音が消えた。
(これが、陽落ち村の消えた理由、なのね)
季節は巡る。
鉱山の入り口に、桜の花びらが舞う。
季節は巡る。
鉱山の入り口に、木々の影が踊る。
季節は巡る。
鉱山の入り口に、ススキの波の音が届く。
季節は巡る。
鉱山の入り口に、雪が雪崩れ込む。
(やっぱり、研究や調査で人が来るよね)
憎き人間が、まだいるかも、と。
石神は廃坑へと鎮座し、入り込んでくる者を全て石へと変えた。
(だから、誰も来なくなったんだ)
季節は巡る。
季節は巡る。
季節は巡る。
そしてまた……永い間隔はあったが、人間が二人、鉱山へと入ってきた。
石神はいつも通り石にするも、気付く。
人間の見た目が……文明が進んでいる事に。
(あの二体の石像の人、かな?夫婦っぽい)
季節は巡る。
(あ、私がいる……)
またしても人間が、しかも大量にやって来た。
いつも通り石化しようとするが、ふと、石神は思案する。
トラック、ライト、その他……、やはり文明が進んでいる、と。
石神は宇宙へ帰れる希望を抱き、どう接触しようか考える。
相手に害意は無いと、そう信じたいとも考えた。
けれども再び、石神はその思いを裏切られる。
人間が、鉱山の……住まいの入り口を、破壊したのだ。
(え?石神様が落盤させたんじゃなかったの!?……え?)
石神は人間の攻撃性に憤慨し、まずは脅威を成り得る男性から石化する事とした。
その時、ふと気付く。
人間達も、戸惑い、嘆いている事に。
石神は再び様子を見ようとするが、次は直接、人間は我が身に物理的な攻撃を仕掛けて来た。
滅ぼそう。
石神は住処内にいる人間を、無価値な石へと変える事にする。
一人も逃がさない。
最後の人間を追い詰めた際、石神は、動きを止めた。
見た事の無い、表情。
石神は記憶の中から、それが微笑みだと知る。
この状況下で出るべきでない、選択肢に上がらない、表情。
石神はつい、見惚れてしまったのだ。
(だから、あの時助かったんだね、私……)
丁度、昔の事を思いだした時だと、ありすは記憶を引き寄せる。
(そっか、駄菓子屋さんはこの時も、助けてくれてたんだ)
不意に、微笑みの女の背後……土壁が、崩れた。
現れたのは、男。
男が、微笑みの女の前へと出る。
そして……。
なんだこいつは。
なんだこいつは。
なんだこいつは。
なんだこい。
つはなんだ。
なんだ
こいつは。
な だ い は
ん こ つ 。
なん。
ななななななななななな
んんんんんんんんんんん
だだ だだだだだだだだ
こここここここここここ
いいいいいいいいいいい
つつつつつつつつつつつ
ははははははははははは
。。。。。。。。。。。
(きゃあああああああああああああっ!?)
流れ込む、恐怖。
包み込む、畏怖。
弾けだす、畏敬。
広がる、白。
「……っふぇ!?」
目を見開く、ありす。
眼前に広がるのは、白い天井だった。
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