隙間録:蠢
空の星々さえ霞む程の灯りを放つ、繁華街。
年末と言う事も加え、夜であるにも関わらず人の波は途絶える事が無い。
だが、光ある所には、闇もある。
繁華街から離れた、廃ビルにも見えるビジネスホテル。
その仄暗い地下室……閉店したBARに、三つの影が蠢いていた。
「受けていた依頼、全て完遂。全員証拠も残さず殺しやがったか、やるじゃねーか」
影の内の一つ。
全身に炎の様なタトゥーを掘った作務衣姿の男が、心底可笑しそうに笑い声をあげた。
癖なのか、髪の無い頭を時たまペシペシと叩く。
「方法が方法。だからバレない。さすがね、完璧ね」
影の内の一つ。
髑髏が刺繍された革ジャンを着た大陸系の女が、満足そうに頷く。
後方で縛られた黒い髪が、弾むように揺れた。
「対象は自分が死んだ事すら気付かないだろうさ。いやぁ、実に有情だね…そう思わない?」
影の内の一つ。
量販店で買える個性の無い衣類に身を包んだ少年が、口角を上げた。
自身の指から絆創膏を剥がし、無造作に床へと投げ捨てる。
「……どうだろう、
少年の言葉に、涼雪と呼ばれた女が、再び頷く。
手元にビリヤードの玉を集め、カラコロと弄び始めた。
「私は賛成ね。結果良好。これなら、《裏》と熾天使会、バレない。邪魔は無い思うよ」
「俺も賛成だ。お前のその【力】があれば、あの八俣智彦の糞野郎に復讐できる」
功刀と呼ばれた男も、同様に頷く。
その顔には、獣の様に獰猛な笑みが浮かんだ。
その視線の先には……ダーツで貫かれた、智彦の写真。
いや、写真だけでは無い。
上村、智彦の母、夢見羅観香の写真も、悪意に彩られ飾ってあった。
その下、妙に綺麗なビリヤード台には、智彦に関する情報が書いてある紙媒体が、整頓されている。
「
「そうね。アイツの友人や親、巻き込んで始末したい思うよ」
首肯……を、何とか踏み止まる。
悠胤と呼ばれた少年は、男女の要望に渋い顔で返した。
「そうしたいのはやまやまなんだけどね、どうも怖いボディーガードが揃ってるみたいなんだ」
「ボディーガード?」
「うん、友人にはクチサケが。アイドルには守護霊が。あと、母親には人ならざる者が憑いているみたい」
悠胤が大きめのタブレット操作し、机上へと置く。
そこには、鋭利な刃物で惨殺された遺体等が、映し出されていた。
「あと、周りに手を出せば、警戒されてチャンスが無くなる恐れがある。……だから、ゴメン」
悠胤が沈痛そうに頭を下げると、功刀と涼雪は慌てて立ち上がる。
「馬鹿、頭を上げろ!軽率な事言ってすまなかった!」
「こちこそゴメン!一番悔しいの、悠胤のはず!悪かたよ!」
三人の視線が交差し、笑みが浮かぶ。
そしてそれは、繋がっているという安心感と心強さを与えた。
悠胤は再びタブレット操作し、先日のパーティー会場での動画を再生した。
場面は丁度、智彦が人食い人形を殴る場面だ。
「悔しいけど、八俣智彦は強い。正面からぶつかるなら、絶対に勝てない。……でも、隙はあるんだ」
動画の中で、人食い人形の顔が、女性のモノへと変わった。
智彦の動きが一瞬止まり、その拳の切っ先が……ズレる。
「コイツでも精神的に弱い部分はある。その弱さを虚栄で、もしくは無関心を以て誤魔化してきたタイプだ」
悠胤が次に広げたのは、紙媒体の資料。
それには、一組の男女の画像が添付してある。
「故に、会場で見かけた……八俣智彦に恨みを持ってそうなこいつ等を使って、その脆弱な内側から……食い破る」
悠胤は陰鬱に、絆創膏だらけの指の爪を噛んだ。
それを見る功刀と涼雪も、沈痛な表情で、頷く。
「コイツのせいで、吉祥寺
「俺も、親父である逢魔崎秀麿の式を消され、親父は今も全身マヒで一人じゃ食事もできねぇ」
「私も。私の力見出し、拾って育ててくれた師匠……南部梅花を、殺されたね!恩、返して無かたのに!」
三人の体に、憎悪が籠る。
ソレは体外に漏れ、周りを色濃く歪め始めた。
「僕達の家は、今まで《裏》の為に働いて来た!周りが弱いから、祖父達が支えて来たのに!なのにあいつ等は!あの八俣智彦の顔色を窺い!僕達を保護もせずに!弱体化したと見放した!風通しが良くなったなんて!ほざきやがった!復讐など考えるなと!抑え込んできやがった!」
悠胤が吠え、涙を流す。
功刀も。
涼雪も。
同様に、大粒の涙を浮かべた。
いや、彼らだけでは無い。
部屋の外からも、同様に、すすり泣く声が聞こえ始める。
「だけど、この僕の【力】なら!皆が恐れる八俣智彦を葬れる!」
「そうしたら、あの糞野郎を殺したと俺達の名が広がり、俺達の下に人が集まるはずだ」
「そうね!私達が、新しい組織作る!師匠達の名残せる、組織ね!」
「《裏》なぞもういらない!僕達が!いや、僕達御三家の名前が!新しい秩序を作るんだ!」
上がる熱量。
いつの間にか三人だけだった部屋には多くの影が集い、智彦への恨みを燻ぶらせていた。
そこに集う影の内に宿るは、復讐。
怒りが、憎しみが、嘆きが。
その二文字を、燃え上がらせた。
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