隙間録:迷っていいですとも!



『いいですともー!』


騒がしい店内の様子を背景に、大人気アイドル、夢見羅観香の元気な声が、電話の向こうから響いた。

ワァッと大きな声が、スタジオ内の観客席から湧き上がる。



「では、今週のゲストはクイズ番組界に現れた話題の新星、胸たいらさん、でした。また来週も迷ってくれるかなぁ?」


「いいですともー!」


番組の顔ともいえる音楽が流れ、放送が終わる。

タカモリはゲストや関係者に礼を言い、舞台裏へと足を運んだ。

タカモリへ頭を下げようとするスタッフを手で制し、ペットボトルのお茶を飲んでいる二人組へと、駆け寄る。


「いやぁ来根来さん、寿々さん、今週もお疲れ様でした!」


タカモリの言葉に、人間の姿となっている東矢と寿々は、片手を上げて答える。

周りのスタッフは邪魔をすまいと、極力音を立てない様に作業をし始めた。


『よっさんもお疲れ様。難易度は今日ぐらいでいいのかな?』

「いやぁ、まだちょっと難しいみたいですね」

『だってさ、寿々。中々加減が難しいもんだ』


東矢が肩を竦めると、顔の半分を包帯で隠した寿々が、苦笑を浮かべた。

現状をゲームに例えるならば最低難易度なのにどこをどうしようと、三人で話をし始める。




復讐を放棄した東矢と寿々は、タカモリの提案通り、彼岸花の社を携えて彼の元へと現れた。

当然タカモリは歓喜し、すぐに顔なじみの関係者やスタッフを招集。

集まった人達は当然オカルトに興味があり、本物の怪異である東矢と寿々を崇拝。

アレよコレよと言う間に、この『迷っていいですとも!』が始まったのだった。


「あぁぁ困りますタカモリさん!《裏》の方々にも相談しないと!」

「大丈夫大丈夫!難しくするわけじゃないんだからさぁ!」


タカモリのマネージャーが、慌てて話へと混ざる。

今回の件は怪異が関わってるため、安全面の監修と言う事で《裏》が間に入っているのだ。

とは言え……。


『あの娘……横山愛、と言ったかな?彼女なんて居ても居なくても同じじゃないか』

「ま、まぁ、ただの連絡役の様な感じですからね」

「そういえば見ないな彼女。現場は意外とキツイからバテてどこかで休んでるのかなぁ?」


まぁ、いいや、と。

タカモリは話を進める。

まず、隠れる場所を増やそう、寿々の死角になる場所を増やすよう襖を増設しよう、社内を少しだけ明るくしよう。

番組を続ける為には、まず、攻略可能だと知らしめる必要がある。

将来的には今とは雰囲気が違うモノも用意しなければ行けないだろうが、当面の課題はコレだ、と。

三人は、ホワイトボードに改善点を書き殴って行った。


(あぁ、楽しいな。実に楽しい)


東矢の顔に、気色が浮かぶ。

悪霊と言う立場だが、旧友と共に仕事ができ、役に立てている。

それが嬉しくて。


「あ、そういえば来根来さんに手紙が。えと、いつもの人からです」


タカモリのマネージャーが取り出したハガキに、来根来は心底嫌そうに顔を歪めた。

寿々が無表情で手紙を受け取り、東矢へと渡す……が、手紙はすぐさまボウッと灰となる。


「またあの人達からの金の無心かなぁ?」

『あぁ。住む場所から追い出されそうだから何とかして欲しいそうだ。全く、厚顔無恥も甚だしい』

「まぁ、それ以前にお金持ってませんからね、来根来さん」

『幽霊だからな』


マネージャー含む四人が、同時に噴き出してしまった。

だが、と東矢は思う。

アイツ等は、こちらを恨んでいるだろうと。

もし、【恨み神】が、アイツらのもとに現れたら……?


(……彼女には感謝はしているが)


自分の時の様に、虐げられた側に力を貸す善性を持っているのか。

恨みであれば、見境なしに飛びつくのか。

【恨み神】が、どういう基準で力を貸しているのか解らない。

いや、そもそも未だに存在するのかも解らない。

ただ、もし敵として現れたら、その時は……。


『寿々……?』


東矢の手を、寿々が力強く握る。

あぁ、顔に出ていたかと、東矢は柔和な笑みを張り付けた。


「あっ!大事な事言うのを忘れていました。来週のゲストは、羅観香さんですよ」

『それを早く言ってくれよ。手加減できる相手じゃ無いじゃないか』


見た目は元気だけが取り柄のアイドルだが、とんでもないと、東矢は頭を振った。

社内で出会った、潜在能力の塊である女性……夢見羅観香を思い出し、東矢は大きく息を吐いた。

しかも、こわーい守護霊までついている。

心なしか、寿々も緊張している様だ。


「それとこの場で言うのもなんですが、一般人参加の枠も作って欲しいと要望が多数寄せられてるんですよ」

『よっさんとしては、どうなんだい?』

「番組を続ける為に、必要でしょうね。半年後ぐらいを目途にやってみますかぁ」


何はともあれ、この楽しい時間が続くならそれでいい。

東矢と寿々が肩を寄せ合うと、タカモリは更なる爆弾を投げつけて来た。


「その時の最初の挑戦者は是非、八俣君にやって貰おうかなぁ、って」

『初日で最短攻略記録でるだろ、それ』


東矢と寿々の体が、同時にブルリと震える。

二人を見て、タカモリは笑い声を上げながら、サングラス下の涙を拭った。

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