隙間録:企む者達
藤堂医院。
智彦を裏切った藤堂光樹の父親が経営する、この街では比較的大きい病院である。
その裏に併設された、豪邸。
胡散臭い骨董品が並べられた廊下を歩く、光樹。
その顔には苛立ちが浮かび、力任せに自室のドアを開いた。
「あ、おかえり」
今の恋人である樫村直海の言葉に無言で頷き、光樹は部屋を見渡す。
自身に笑顔を向ける、直海。
露骨に目を逸らす、横山愛。
そして、不敵な笑みを浮かべる、須藤。
光樹は鼻を鳴らし、片手に持っていた札束を須藤へと投げた。
須藤はそれを受け取り、厭らしく口を歪める。
「ありがとよ藤堂。この金があればかなりの人数を雇える」
「バレない様にしろよ。ただでさえ警察が関わっちまったんだから」
光樹が眼を鋭くすると、直海が顔を曇らせ俯いた。
智彦を陥れる為に流した強姦疑惑の噂。
だが、話が大きくなりすぎたために、警察が介入してしまった。
結果、智彦の無罪が強調され、直海は嘘を吐いた愚かな女と、レッテルを張られてしまった。
勿論、一緒にふれ回っていた光樹も巻き添えにだ。
「大丈夫だ。アイツの家族や友人を人質に取るから、逆らえやしねぇよ」
須藤も、智彦へ恨みを蓄積させていた。
今まで見下し、弄られるためだけの存在であるカス。
そんな智彦に、クラスで恥をかかされたのだ。
しかも、本気で泣き叫ぶ姿を見られてしまった。
一人では、正攻法では、勝てない。
ならば仲間を集め、智彦の身内を巻き込めばいい。
すでに仲間達には声をかけてある。
あとは、各自襲撃して、智彦とその身内を甚振るだけだ。
「じゃあ俺は行くぜ!当分の間アイツは行方不明になるが、知らぬ存ぜぬしてくれよ!」
先程までの雰囲気を一変させ、須藤は札束を鞄へ収めつつ部屋から出て行った。
その後ろ姿を見ながら、光樹は満足そうに頷く。
「ふふっ、これで智彦もお終いだ。五体満足で登校できればいいがな」
「だね。私達に恥をかかせた事を死ぬほど後悔」
「するわけないじゃん。逆に須藤が殺されるわよ」
光樹と直海の気分の良い声に、愛の不機嫌な声が混ざった。
二人が、興を削がれたとばかりに視線で非難する。
もはや、愛は我慢の限界だった。
自身の保身の事もあるが、知らぬ仲では無い故に二人を守ろうとしていたのに。
一度、幻覚ではあるが死を体験したのに。
なのに、こいつ等は余計な事しかしないと、嫌になりつつ頭を振った。
《裏》の仕事でもそうだ。
愛は別に仕事に熱心ではない。
だが、周りから感じる嘲り。
上の方からは、無関心。
両親は何も言わないが、無言で責められている気がしてならなかった。
「アイツはもう普通じゃないのよ!化物なの!散々痛い目見たのに何で解らないのよ!」
愛のヒステリックな叫びに、光樹と直海は驚くも、口をとがらせる。
しかし、あの場所での出来事から、異変は感じ取っていた。
バカにしていた相手……智彦が、別の世界の存在のような感覚に。
「ならどうすんだよ!アイツに舐められたままなんて我慢できねーぞ!」
「そうよ!こっちは警察に来られてお母さんから滅茶苦茶怒られたんだから!」
そりゃ自業自得だろと思いつつ、愛は二人を切り離す決心をする。
だが、愛の中に、二人に共感する部分があった。
(やられっぱなしは、やっぱ悔しい)
と、そこで愛は思いついてしまった。
ならば、智彦と同じようになれば良いじゃか、と。
「……ねぇ、私達も、強くならない?」
愛は、思いついた事を二人へと伝える。
要は智彦と同じような事をしよう、と提案だ。
怪異現状は、常識では計り知れない事が多い。
ゲームで言えば、レベルアップみたいなふざけた現象だって起こりうるのだろう。
だからこそ、智彦はあそこまで強くなれたのだろう。
だったら私達も可能なはず、と愛は考えた。
思えばあの廃村で、化け物を倒す手段は多く存在した可能性がある。
自身の異能が通じなくても、打開策があったはずだ。
なにせ、あの智彦が生き残れたのだから、と。
勿論、自身が《裏》の世界に居る事は内緒ではあるが。
「……そうだ、よな。アイツが出来たんなら、俺達にもやれるはずだ」
「ちょ、ちょっと!危ないよ、止めようよ」
「お前悔しくないのか?アイツのせいで、糞カップルって言われてるんだぞ!」
光樹の言葉に思う所があったのだろう。
直海の眼が、鋭くなり始める。
「……あの時みたいな場所が、できてるみたいなの。今話題の、彼岸花の奴。明日、行ってみる?」
愛の誘惑に、光樹と直海が、頷いた。
二人の同意に、愛は内心にんまりとする。
(素人でも使える祭具を準備すれば、三人ならなんとか行けるかも。無理だったら逃げればいいし、最悪あんたらを見捨てればいいしね)
智彦みたいに強くなれれば、それで良し。
無理なら二人を見捨てれば、ストレスのない生活を送れる。
問題は化け物がいるかどうかだが……いなければ、富田村跡へと足を運んでみよう。
(このままじゃ私も巻き添えだからね。迷惑料として、役に立ってもらうよ、お二人、さん♪)
浮かれる二人に、愛は蔑む笑みを浮かべた。
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