事故物件 ~エピローグ~



「ねぇねぇ、帰り、寄って行こうよ」

「うーん……ごめん、パス。肉以外ならいいんだけど」


本日の授業が終わり、各々の放課後を過ごし始める教室内。

荷物をまとめる眼鏡娘へ、ボーイッシュ娘が明るい口調で尋ねてくる。

だが眼鏡娘は顔を曇らせ、ボーイッシュ娘からの誘いを断った。


「あー……、もしかしてあの事件?」


世間を震撼させている、『食人家族』。

近所でも評判だった家族が、カニバリズムを信仰していたというおぞましいニュース。


事件の噂を調べていく内に、眼鏡娘はその狂気に触れたのだろうと。

ボーイッシュ娘は何となく理解してしまった。


「まぁあの事件、被害者が加害者だったって点も騒がれたからね」

「うん……、今日は大人しく喫茶店でも行こうか」

「そうだね!夢見羅観香のあの番組の事も話し合いたいし!」

「アレ、本当にフェイクなの?なんか全部リアルな心霊現象に見えたんだけど……」


今、『食人家族』とは別に世間を騒がせている話題。

それが、夢見羅観香が大活躍した『拝見させて貰えませんか?』と言う番組だ。


コレは毎週、有名な芸術家のご自宅にお邪魔する番組で、毎回リポーター役が変わる。

今回は人気沸騰中のアイドル夢見羅観香が、先日死亡した有名画家、豆屋三郎氏の豪邸を取材する内容であった。


だが、何故かスタッフ一同が、異変に襲われ始めた。

ラップ音とかではなく、明らかに殺意のある心霊現象。

スタッフ一同は命を諦めるも、意地でカメラを回していた。


結局は夢見羅観香が先導し、怪異を解決。

死者を出す事も無く、豆屋邸を脱出する事が出来たのだ。

途中、夢見羅観香の背後に加宮嶺衣奈の霊が色濃く見える事も含め、芸能関係の話題を独占していた。

なお件の豪邸は崩れ去り、美術関係者の多くが頭を抱えているという。


「実物じゃないでしょ!斧がどっから落ちて来るとか、影がどこまで伸びるとか、台本じゃないと無理でしょアレ」

「そうかなぁ……、本物っぽかったけどなぁ。……あ、彼岸花」


教室の花瓶に、クラスの女子が彼岸花を生けた。

この時期、畑の周りに群生する、赤くてきれいな花。


「あー、コスプレで口に咥える人が居て、問題になったっけ」


ボーイッシュ娘の言葉に、眼鏡娘が頷く。

彼岸花は毒を含み、口に咥えるだけでも危ないのだ。


「それとは別に、不吉な花として嫌う人もいるけどね」

「お墓にもいっぱい生えてるもんねー。あ、そういや彼岸花でも面白い話があったっけ」


ボーイッシュ娘がスマフォを弄り、都市伝説系の画面を出す。


「地方都市でね、道に彼岸花が一杯生えてて、それに沿って進んでいくと迷宮に入り込むんだって」

「あー、アレか。鈴が鳴ったり、能面つけた巫女が見えたりする奴ね」

「鈴は鈴でも甘寧様なら大歓迎なんだけどね」

「はいはい。迷宮に入ったら、誰も生きて出られない、か」

「毎回思うけど、何でそう言うのが解るんだろうね。実際脱出できた人がいるのかな」

「それ言い出したら、都市伝説全部に当てはまっちゃうでしょ……」


ふと、鈴の音が響いた。

二人は驚くも、クラスの女性のカバンに付いたキーホルダーだと解り、息を吐く。



その後ろでは、彼岸花が……夕焼けの色を、その身に受け止めていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る