口裂け女 ~エピローグ~
「何見てるの?」
とあるコンビニのイートスペースで、ボーイッシュ娘が眼鏡娘へと尋ねた。
眼鏡娘が読んでいる雑誌は、フリーの賃貸物件雑誌だ。
「大学に進学予定だからさ、相場どの位なのかなーって」
「と言っても、都内に行くんならここらへんの2倍以上はするんじゃないの?」
「だよねぇ」
眼鏡娘がコーヒーを口に含み、ページを捲る。
「安くても、風呂無しは無理だし、トイレ共同も嫌だなぁ」
「それよりさ、口裂け女の話、全く聞かなくなったね」
ボーイッシュ娘が、から揚げを口へと放り投げる。
眼鏡娘は頷き、息を軽く吐いた。
「まぁ都市伝説も鮮度が落ちると消えて行っちゃうからね、埋もれるのは仕方ないよ」
「それにしてはある日突然消えた気がするけどなー」
眼鏡娘がふと、店外へと目を向けた。
外灯は煌々と光ってはいるが、そこに飛び交う虫は、少ない。
明後日から新学期が始まり、季節は秋へと入る。
当分はまだ暑いだろうが、寒暖差が激しくなるんだろうなと、再びコーヒーで喉を湿らせた。
「あはは、何これ、両面宿儺だって」
「ん?……変なの。フェイクなんじゃないの?」
ボーイッシュ娘のスマフォに映った、ドライブレコーダーの静止画。
男の背中があり、その肩辺りから男女の顔が映えているのだ。
男の方はなぜか血塗れで、女の方は口が裂けていた。
何故両面宿儺に口裂け女が混ざる。
仕事の雑さに、二人は一瞬でその画像に興味を失った。
ボーイッシュ娘が、先ほどの賃貸物件雑誌に、再び目を向ける。
「二人で部屋を借りるのもありかもねー」
「シェアって奴ね。でも、あんた進学希望だったっけ?」
「んーん、私はバイトで食いつなぐ予定!」
「親泣かせめ。……あ、これ安い」
眼鏡娘が指差す物件。
造りは最近のモノだが、周りに掲載されてる家賃よりはるかに安い。
たしかに安いが……。
「止めなよ、事故物件かもよ」
「やっぱかぁ。自殺か、他殺か、孤独死か」
「市役所近くに一軒家あったよね、まるで幽霊が暮らしてるような家、って」
「一家が外で殺された事件の、あの家か。まぁそういう事件の後には曰くが付いちゃうね」
「まぁ事故物件ならちゃんと書いてて欲しいよね、ユニットバス付き、幽霊付き、ってさ」
「あはは、何よそれ」
そんなのは、よほどのモノ好きしか借りないだろう。
そういや学年の裏掲示板が凄い事になっている、と。
二人の談笑は、そのまま続いた。
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