とある女性の追想


気が付けば、暑い星空の下に居た。




ココは何処なのか。


自分は何者なのか。


自分の名前は何なのか。




そんな事はどうでもよく、只々、内から湧き上がる使命感に思考を引っ張られていた。






本能では無く、使命感。


誰が為なのか解らない、使命感。




そうして、人間を怯えさせるだけの日々。






勿論そこには快楽も愉悦も、また、陰鬱さも倦怠も無い。


マスクを外す時だけに、相手を驚かす為に気色を表す日々。






ある日、驚かした人間が液体をかけて来た。


記憶から手繰り寄せられる液体の名前。


特に、影響も無さそうな児戯。






だが突然、液体への嫌悪感が全身を駆け巡る。


以降、私はあの液体がダメになった。


少し匂いがするだけでも、体が震えるのだ。






嫌悪感の蓄積。


次第に人間が排除対象へとなり始める……感情の移行。




このまま人間をかみ殺してくれようか。


そう思うのだけれど、それを諫める私も居た。


正直、迷っていたのだ。




それは理性とは違う、別の何かだ。


人間を殺せば、面白くなる。


人間を殺せば、面白くなくなる。


まるで外部からそう求められるように、私は揺らいでいた。






だから、だろう。


たかが人間如きに、傷つけられたのは。






闇の中、ただただ憎しみだけが膨れて行った。


何故私がこんな目にと、自身への哀れみだけが流れて行った。




代わりはいくらでも生まれる。


ふと、そう語りかけられた気がする。






その時、彼が現れた。




憎き人間。


なのに彼は、私を守ろうとしてくれた。




意味が解らない。


グチャグチャな思考の中、彼がマスクを取る。




芽生えたのは、羞恥心。


今まで曝け出していた口を、彼に見られるのが嫌だと感じる。


綺麗な口でいたいと、願った。




私を守る為に、傷ついて行く、彼。


薄らいでいく意識の中、私は……。


















気が付けば、白い天井の下に居た。




ココは何処なのか。


自分は何者なのか。


自分の名前は何なのか。




そんな事はどうでもよく、只々、頭から離れない、彼の顔。






そして、只々、彼と共に居たいと、願った。

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